研究内容

  • 当研究室は、医学的に応用可能な化合物 (低分子・高分子) に関して、臨床的な応用法の開発やその分子の生理的作用機序の解明を目的にしており、現在は特に「ケミカルバイオロジーを利用した創薬研究」及び「生体適合性材料 (バイオマテリアル) を用いた医療機器開発」に焦点を絞って研究を行っております。

骨軟骨分化促進作用を有する低分子化合物の解析解明

 関節軟骨は関節の働きにとって非常に重要ですが、一度損傷すると容易には元に戻りません。低分子化合物TD-198946は軟骨分化を促進するものとして見出されましたが、その標的候補は分かっていませんでした。私たちは機能性ナノビーズプロテオミクス解析を利用してTD-198946の標的タンパク質を同定しており (図)、現在詳細な作用機序の解析を進めております。また、軟骨再生だけでなく、骨形成の後期過程を促進する低分子化合物THの標的候補の同定も試みています。このような低分子化合物の標的タンパク質を同定し詳細なメカニズムを明らかにすることで、標的タンパク質に結合する他の低分子化合物も同定することが可能となり、骨軟骨疾患に対する新たな薬剤候補としての作用を見つけることができるかもしれません 。

        図 機能性ナノビーズを用いた低分子化合物の標的因子の探索

天然二糖類トレハロースの医療応用

 トレハロースは食品添加物などにも用いられる天然二糖類です。私たちはこのトレハロースが様々な疾患に対して有効となることを報告してきました。くも膜下出血後に生じる重大な合併症の一つである脳血管攣縮、加齢やがん治療などのために生じる口腔乾燥症、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) の長期連続投与によって起こる胃粘膜障害、NSAIDs外用剤によって生じる皮膚障害など、これらの疾患・副作用にトレハロースは有効となる可能性があります。私たちは、このトレハロースの更なる医療応用の可能性を探っています。

                 図 トレハロース

掻痒感抑制を目指したアトピー性皮膚炎抑制材の研究

 アトピー性皮膚炎は、非常に強い痒みを伴うアレルギー性の皮膚疾患です。多くの患者さんがこの疾患に苦しめられていますが、未だに症状そのものを完治させる治療法は開発されておらず、ステロイドなどの薬物を用いた対症療法が基本となっています。この疾患の患者さんにおいては皮膚のバリア構造が異常を来していることが知られており、また皮膚を掻くことによって皮膚バリア機能の破壊が助長され症状が悪化することも考えられています。そこで私たちは、皮膚成分に類似した生体適合性ポリマーによって皮膚バリア機能を回復させることで痒みを抑えることができないかを研究しています。

骨移植治療に使用する新たな人工骨開発

 骨移植術は、骨肉腫を取り除いた後の部位の補填や人工歯根 (インプラント) の固定などに対して用いられています。骨移植では、自分の骨を移植する自家骨移植が基本となりますが自家骨移植では骨採取量が制限されるといった問題があるため、セラミックス技術などを利用した人工骨が選択される割合が増えてきています。しかしながら、一方で、人工骨には骨誘導能が無い、生体骨への骨吸収置換性に不十分な点があるなど解決すべき課題も存在します。私たちは従来用いられている骨補填材よりも高い機能をもった骨補填材の開発を目指しています。