見かけはゴツい金属の塊だが、手を入れて操作すれば驚くほど軽く、その「指先」でスチール缶を簡単にグシャリとつぶせる。これは快感とすらいっていい。金岡克弥がアクティブリンク(株)と共同で開発した「パワーエフェクタ」は、腕の力なら約百倍、握力では約千倍まで増幅可能である。一方で生卵やスポンジボールをそっとつまみ上げる。指先にセンサーの類は一切なく、あくまで「人間の感覚」で、生卵つまみからスチール缶つぶしまで機械の力を直接的に使えるわけだ。脚力を7倍に増幅して歩行出来る「パワーペダル」も2007年に発表した。このスーパーパワーを発揮する腕と指先、そして脚が合体すればどうなるか。SF映画やアニメで様々に描かれてきた、人間が乗り込む人機一体型ロボットが完成するのである。
「ロボットではなく、人間と機械の力学的な相乗効果を目標としてマンマシンシナジーエフェクタという言葉を使っています。人工知能には限界があるので(鉄腕アトムのような)自律型のヒューマノイドは遠い未来の夢。それよりも、人間の能力を物理的に拡張する『ロボティックツール』を作れば確実に役に立つ。機械は脇役に徹し、人間が自らの身体能力を十二分に活用出来る機能を提供すればよい。これがマンマシンシナジーエフェクタです」
こうした「ロボティックツール」が実現すれば、少なくとも建設・防災などの作業は一変する。生産性が飛躍的に向上するだけではない。肉体労働そのものが、人間にとって辛く厳しい「量」の世界から、スキルとしての「質」の世界に変化してゆくだろう。それは、労働から人間を排除するのではなく、労働を人間の手に委ねることによる「働く幸せの増幅」にも寄与するはずだ。
「プロトタイプの研究開発を通して、基礎技術は完成しつつあります。資金さえあれば全身バージョンはいつでも実用化出来ますよ。もはや技術的課題については問題ではありません。いわゆるデスバレーをいかにして越えるかです」
AERA 2009年2月16日号掲載 (朝日新聞出版)