2011年2月21日更新
ロボットに「バイバイ」と手を振ると、同じように「バイバイ」というしぐさを返してくれる。この動作だけなら、プログラムすれば簡単に実行できるが、谷口忠大が開発したシステムの最大の特長は、ロボットが人間の「真似」をすることだ。幼児が大人のしぐさや言葉を真似て成長するように。つまり、彼のロボットは事前に設定された対話の範囲を超えて、自ら学習していくのである。これが発展すればロボットと語り合える日が来るかもしれない。まさにアニメなどに出てくる「友だちロボット」の誕生だ。
「人間とロボットのコミュニケーションが僕の基本テーマで、これは人類が始めて直面する未知の領域。実現には、人間の知能の発達とコミュニケーションの本質を理解する必要があります。その仕組みを様々な数理モデルとして開発してきました。だから、ロボットを『作る』ではなく、『育てる』感覚かな」
とはいっても、現実には簡単ではない。
「まず動作のどこからどこまでが『バイバイ』を意味するのか。一連の動作を複数の段階に分けて、他の動作と異なる特徴点を見つける方法をプログラムとしてロボットに教えてやるわけです」
そのデータが蓄積されていけば、『バイバイ』の基本形が記憶され、誰が手を振っても同じしぐさで応答できるようになるという。となれば言葉も、と期待は大きく膨らむのだが。
「言葉の基本は身体で覚えた感覚なんですよね。幼児も最初は口真似をするだけで、意味は分かっていません。それをセンサーとモーターしかないロボットにどう理解させていくか。コミュニケーションができるロボットをつくるためには、そもそもコミュニケーションとは何か、ということから考える必要があるのです」
谷口は様々な自律学習システムを提案しており、その中には「スマートグリッド」のためのものもある。太陽光発電の普及が進む一方で、貯めた電力を効率的に使わなければ、大きな「無駄」が生じてしまう。そこで、地域の中で各家庭のライフスタイルに合った消費パターンを自動的に判断させ、需要と供給によって電力を売買する人工知能技術を開発した。いわゆる「地産地消型の電力取引」ができる自律分散システムだ。
「今の自律学習ロボットの知能は人間の1.5歳児にも届かない。3年後には研究中の技術を実用化し、2歳児に近づけるようにしたい。自律学習ロボットを誕生させるには、人間が『学ぶ』というプロセスを解明しなければなりません。ロボットを作るということは、究極は『人間』を深く理解することですから」
AERA 2011年2月21日発売号掲載 (朝日新聞出版)このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp