2012年2月20日更新

大震災が残したトラウマ(心的外傷)に寄り添う「対人援助学」

村本 邦子
立命館大学大学院応用人間科学研究科教授
村本 邦子(立命館大学大学院応用人間科学研究科教授)
学術博士。臨床心理士。1961年札幌生まれの鹿児島育ち。1985年京都大学教育学部卒業。1987年同大学大学院教育学研究科教育方法学修士課程修了。2001年アメリカユニオン・インスティテュート大学院博士課程修了。2001年より立命館大学で現職。精神科外来カウンセラーを経て、1990年に女性ライフサイクル研究所設立。DV(家庭内暴力)、虐待、性被害など女性のトラウマの支援や予防などに取り組んできた。「心のケアをテーマとして、治療的支援や予防活動を行ってきましたが、簡単には解決できないことばかり。総合的で長期的な取り組みが必要なのです」
防災

東日本大震災は人命や建物などを奪い取るだけでなく、被災を免れた人たちの心にも深い傷を残した。中でも大切な人やものを失った悲しみや喪失感は、いくら復興予算を積み上げて新しい道路や建物が増えたところで癒されるものではない。

「そうしたトラウマ(心の傷)は、震災直後の興奮状態が落ち着いた今からだんだんと問題になっていくと思います」と村本邦子は語る。彼女は臨床心理士として約20年間に渡ってDV(家庭内暴力)や性的被害などによるトラウマのカウンセリングを行ってきた。この経験をベースとして、大学院で10年前から取り組んできたのが「対人援助学」である。

「人に対するケアは、医療、心理、福祉など学問として専門分化していますが、実際には一人の個人を相手にするわけですから、ピンポイントで判断するのでなく人間をトータルに捉える必要があります。私たちの研究科は幅広い『連携と融合』をテーマとして、専門分野の壁を越えて新しい領域として対人援助学を立ち上げたのです」

具体的な震災復興支援にも着手しており、2011年7月からシンポジウムなどを開催。続いて9月にむつ市、11月に遠野市、12月に福島市で「東日本・家族応援プロジェクト2011」を実施している。

「トラウマは希望の喪失や自己否定、社会に対する強い不信をもたらし、人々をバラバラにしてしまいがちです。これを乗り越えるには、人とつながり、希望をつなぎ、生きていく力を取り戻す必要があります。人はトータルな存在ですから、心だけを取り出して対処できる特効薬などありません。離れたところにいる私たちにできることは、被災地の人々がよりよい未来に向けて歩んでいく姿に心を寄せ、関心を持って見守り続けること、そして、その証人として存在し続けることだと考えています。被災者にとって、時間とともに忘れ去られること、無関心でいられることほどむごいことはありません」

このため、復興支援プロジェクトは、むつ、遠野、福島に宮城を加え、十年の長期計画になっている。

AERA 2012年2月20日発売号掲載 (朝日新聞出版)

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