あらゆる場を、自らの好奇心の充満する世界に飲み込んでしまえる強靭な稚児 の胃袋を持つ彼にとって、某電気メーカの研究所はPrologで優れたパズルプログ ラムを作成して楽しむ場所であるとともに、カロリーメイトの昼食を流行らせる場所 であって、自らと不釣合な精神風土のエーテルに窒息しながら、かろうじて生 き延びるすべを探し求める場所ではない。
あらゆる物事を、おとぎの国の遊びの文脈で解体してしまう特異な才能を持つ 彼にとって、ICOTは多くの遊び友達とともに汲めども尽きぬ遊びのプランを完 成させ続ける場であって、未知の研究領域を前に自らを奮い立たせる野心家の 梁山泊ではありえない。
あらゆる物事を、無限ループする時間軸に引き寄せて考えられる、底抜けの楽 天さを持つ彼にとって、ICOT出向期間の終りは新装オープンした遊園地への遠 足の日の朝であって、「離婚しても行くあてもなく渋々家庭内離婚状態にしがみついて いる失業中の逆玉養子婿」のような転職志望者の、不眠症の日々 始まりでは、断じてない。
<<註>> 私はメーカ勤務というのがどうも性分に合わず、 常に悶々として いたが、ポチは幸せそのものみたいで、羨ましい性格の持ち主だと思っていた。 後先考えず今を楽しむ事にかけては、彼は天才である。私なぞが「後先考えず 今を楽しもう」とすると、 ゲーセン狂いに走ったりして、すぐにデカダンス の世界に陥ってしまったものである。