コラム

Column

利用者からボランティアそして活動家になるということ:育ち合う関係

特定非営利活動法人山科醍醐こどものひろば 村井琢哉

 「子どもの育ちの環境をよりよく」していくことに取り組むNPO法人山科醍醐こどものひろば。前身団体の設立された1980年から子どもとおとなが一緒になってつくってきた団体活動にはじめて参加したのは約35年前。はじまりは地域の子どもの一人として利用者・参加者という立場で野外活動やものづくり、演劇鑑賞や地域の子ども会に参加していました。活動によって違いはありましたが、当時の参加者の親が主体的に子どもたちのために活動を作っていたり、高校生以上から概ね30歳くらいまでのわかものが中心に子どもたちとキャンプを企画・運営していたりと関わる人が皆主体性をもったひとりの人間として活動をしていたのが印象的でした。

 高校生になるタイミングで活動のスタッフ側に立ち位置が変わるのがこの団体のひとつの特徴。主体的に活動をつくり子どもたちと楽しく育ち合う大人の姿をみてきた私にとっては、同じように高校生になりスタッフになることは自然な流れであり、当時活動で同じ利用者・参加者だった友人たちも皆活動を作る側へ変化していった。元々子どもの多くが当時参加していたキャンプでは、参加者の子どもと若者が班を構成し、キャンプに行く当日までに何度もグループ活動を重ね、子どもたちのアイデアで企画などを考え準備することが当たり前になっていた。子どもをキャンプに参加する「お客様」ではなく、キャンプを一緒に盛り上げる「メンバー」的な感覚での関わりをし続けていたこともあり、高校生になるころには「次は自分がキャンプを作るんだ」という感じである。

 このように活動を作る側に移行した後は活動の運営に関わることになるが、そのタイミングで団体をNPO法人化するという場に立ち会うことになる。阪神淡路大震災以降の外部からのボランティア希望の増え、より公益的な活動へと姿を変えていく議論に多くの若者も参加し、形作っていった。そのときの経験やその過程を丁寧に作っていかれた大人たちの関わり方によってやりたいことや目指すこと、求められていることを主体的にすることを自然に身につけていったのだと思います。

 学生、社会人となっていくなかでも活動を継続していましたが、徐々に活動スタッフではなく役員として運営に関わるようになりました。仕事をしながらの活動は物理的に時間は取れないが社会人経験によって知識や意見、アイデアは増えていく。自身の状態によって関わり方を変えられる活動現場であったことも大きかった。多くの活動現場では「求められること」に応えることに意識が向いてしまうことも少なくなく、できなくなると離れるしか選択肢がなくなってしまう。長く続く活動のなかで皆ライフステージや家庭の状況などで関わり方の変化を受け入れてきた経験がそのような組織文化にもなったのだろう。このタイミングで多くのボランティア希望の若者たちに出会っていくことになり、その受け皿づくりと、若者たちがチャレンジできる環境づくりをしようと、コーディネートやボランティア体験や研修のプログラム、外部への活動発信などに取り組みはじめた。そのときに気づくのですが、多くの若者たちは「何かできることはないですか?」「何かお手伝いできることがあれば」とい聞いてくることが多いなと。そこで「あなたは何がしたいの?」と尋ねてみるととても悩み出すのである。「ボランティアすること」が目的になっていて、「ボランティアとして何がしたい」のかがあるわけではないのだなと思い、「あなたは何がしたいの?」の問いから少しずつ活動主体的にできることをはじめてもらうことが増えていきました。長年自分達で何をするかを考え形にしてきた文化に染まっていたことでそのことが当たり前ではないことに気づくのです。最近活動に初めてくる子どもたちも「自由」が苦手という子もいます。しかし活動を重ねるなかで自ら主張し、主体的に活動に参加したり、時には大人に自慢げに教えたりするようになっていきます。そんな姿にまわりの大人たちも刺激を受け成長していきます。

 講演会などに呼ばれるようになり、山科醍醐こどものひろばのお話をすると、「利用者が活動の担い手になってくれるにはどうしたらよいですか」という質問が多いことに気付かされる。しかし、ここまで書いてきたように担い手に「した」のではなく、子ども時代から活動で主体的に活動することを身につけ、やりたいことに出会い、それを行動する力がつき、できる環境があるなかで活動者としてもチャレンジをはじめていっただけなのです。そして大人になった今も成長途中であり、成長する子どもとともに育ちあっている最中だったりします。今団体の代表を降り、これまでの経験も踏まえながら地域活動にも参加していますが、そこには私が子ども当時の親世代が最前線で現役で元気に活動されている。その方々の子どもたちは子育てや仕事に奮闘中であり、孫たちのなかには活動に参加している子もいます。このように巡っていくのだと思うと、いつまでも育ち合える環境をしっかりつくっていきたいなと思います。

ボランティア|VSL研究会|小辻 寿規
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