コラム

Column

学びをどう評価するのか?-前編-

京都大学大学 院教育学研究科 博士後期課程 河井 亨
今回と次回は連続コラムで、「学びをどう評価するのか?」について述べていきます。

私と木村充(東京大学大学院学際情報学府文化人間情報学コース博士後期課程)は、「大学生の経験と学び」というテーマについて、「大学生はどのような経験をしているのか」「どのように学んでいるのか」といったことを明らかにする研究に取り組んでいます。現在は、立命館大学サービスラーニングセンターに研究協力を受け入れていただき、スタッフの皆さんと共同研究を進めています。

「地域活性化ボランティア」(2011年度)や「シチズンシップ・スタディーズ」という科目で調査研究を進めていく中で1つの問いが浮かんできました。それが、「学びをどう評価するのか?」というものです。この問いが浮かび上がってきた背景は、学生のレポートをどう採点するや合否判定のライン設定をどうするかというものではありません(それは、それで重要な問題ですが)。私たちが、授業に関わらせていただく中で、次のことに気がつきました。

・ “受講生は”自分が何を学んだかを掘り下げて考えることが出来ているだろうか
・ “受講生は”自分が学んでいることにあまり気づいていないのかもしれない
・ そのため、“受講生は”学びを(もっと深化させる可能性があるにもかかわらず)深め損なっているのではないか

こうした気づきは、サービスラーニングセンターのスタッフの方々も学生の学びを深めるための課題として認識しており、共同研究チームの研究課題となりました。この課題は、「求められる結果がどの程度達成される途上にあるか、またどの程度達成されたのか」*を明らかにするという評価の問題です。そこから、「受講生が自分の学びをどうやったらうまく評価できるのか」を考えるという共同研究課題が生まれていったのです。

評価のポイントは、第1に、他者の視点です。評価を通じて、他の人からコメントやアドバイスをもらうことで、また逆にコメントやアドバイスをしたりすることで、自分とは異なる他者の視点に立ちこれまで見えていなかったところや意識していなかったところに視野や思考や想像力を広げることができるでしょう。また、第2に、学習としての評価という考え方です。評価する(しあう)ことを通じて視野や思考や想像力が広がる点で、評価することは、学習の1つの形だと言えます。これらのポイントから、「受講生が自分の学びをどうやったらうまく評価できるのか」という問いは、「受講生同士がお互いの学びをどうやったらうまく評価できるのか」という問いに変わっていきました。

受講生同士がお互いの学びを評価するためには、まず一人ひとりが学んだことを他の受講生にも見えるようにして共有する必要があります。見える化が必要です。例えば、お互いの学んだことをプレゼンテーションしあうという形(これは、「シチズンシップ・スタディーズ」では、活動報告会という形で実施されています)。または、学んだことをまとめるレポートを共有するという形もあるかもしれません。では、共有して、どう評価するのか。どうやって、「求められる結果がどの程度達成される途上にあるか、またどの程度達成されたのか」を明らかにするのか。

見える化して評価するための有効な手法・ツールの1つが、ルーブリックと呼ばれるものです。
ルーブリックとは、評価の観点ごとに、「成功の度合いを示す数値的な尺度と、それぞれの尺度に見られるパフォーマンスの特徴を示した記述語からなる評価基準表」(田中耕治『教育評価の未来を拓く: 目標に準拠した評価の現状・課題・展望』ミネルヴァ書房.)のことです。下の実例(図1)を見てください。



まず、一番左の列にある「アイデア」「組織化」などが評価の観点です。そして、「レベル1」「レベル2」などが数値的な尺度です。それら2つを組み合わせた欄にある「トピックは狭く扱いやすい状態で、焦点化されている」といった事項が記述語にあたります。

授業で他の受講生とお互いのレポートを相互評価するというケースで考えてみましょう。友人が書いたレポートを見ながら、「『トピック』はレベル5ぐらいかな」「『組織化』はレベル4で!」といった具合に達成の度合いを決めていきます。これにより発表した学生は現状を見える化して把握することができます。そして、「なぜこの段階だと判断したか」という根拠・理由を示して伝える必要があります。そうすることで、このルーブリックをフィードバックとして受け取った学生(たち)は、自分たちの改善点や課題を見つけ出すことが出来るでしょう。さらには、評価者(あなた!)の視点を活かして、より広い視野から、次のチャレンジに向かうことが出来るでしょう。さらには、あなた自身もまたそうした他者からのフィードバックを受け取ることが出来ます。こうして、実践者・発表者・評価者としての腕を磨く機会が生まれることになります。(バラ色で美味しい話ばかりではなく、実際にはどう評価していいか悩む、どういう観点がベターなのか悩む、もっと良い評価が出来ないか悩むといったように悩みはつきないものですが。)

評価は、学習経験の側面も持っているのです**。

次回は、
・ ルーブリックをどのように作成するか
・ なぜ効果的だと考えられているのか
・ 特にサービスラーニングに関するルーブリックにはどのようなものがあるか
といった点についてお伝えしたいと思います。

*ウィギンズ&マクタイ『理解をもたらすカリキュラム設計』日本標準p.7より。ここでの評価は、アセスメントの訳語です。評価には、アセスメントとエバリュエーションの2つの語が用いられ、それぞれ同義として用いられることもありますが、意味する対象のやや異なった言葉です。評価をめぐっては、20世紀を通じて、実践と研究が積み重ねられてきました。その詳細は、田中耕治『教育評価』岩波書店をご覧ください。

**「学習としての評価」という考え方です。詳しくは、Earl, L.M. (2003) Assessment as Learning: Using Classroom Assessment to Maximize Student Learning, Thousand Oaks, CA: Corwin Press.および松下佳代「学習ツールとしての学習評価−−組織的なパフォーマンス評価の取り組みの事例として−−」『ネットワーク時代の大学教育改善—学びと教えの相互深化を加速させる−−』pp.101-103を参照ください。

学生の学び|研究活動|VSL研究会
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