ビ局んへのドバ

2009年2月20日より

このホームページをご覧になってテレビ番組の制作会社の方から電話を頂くケースが増えましたが、大体求められていることがわかってきました。そこで、それぞれのケースにつきましての予想されます対応を書いておきますので、ご参考にして下さい。


錯視って何ですか。

A 丁寧にお答え致しますのでご連絡下さい。私は電話よりは電子メールが都合がよいです。錯視は錯覚の一種で、錯覚のうちの視覚のもの(目に関係するもの)です。錯視というと、「思い違い」とか「うっかりミス」とかは含みません。だまし絵も含まないことが多いですが、含めることもあります。奇術のトリックの多くは錯視とは言いません。 <2009年2月25日修正> 


Q 錯視で役立つネタを教えて下さい。

A 錯視はあんまり役に立たないです。害になることもないとは言えませんが、大したことはありません。つまり、人に役立つ話にも、人に危険な話にもなりません。最近人気がある変化の見落とし(change blindness)は、錯視というよりは注意研究のテーマです。テレビ局さんの好きな「錯視」は、ホロウマスク錯視、ベクション&視覚誘導性身体動揺、残像などです。錯視研究者から見ると、あまり錯視らしくない視覚現象が好まれているように思います。 <2009年2月25日修正>


Q 錯視の原因をひとことで説明して下さい。

A 少なくとも私にはできません。錯視の原因は錯視によって違うと考えられています。それは、近年の神経科学の成果によって、脳はモジュール構造になっており、形、色、運動といった異なる知覚要素は別々に処理されていることがわかったため、錯視研究もそれに合わせようとします。というわけで、単一の原理で説明というわけにはいかないのです。しかし、幾何学錯視には遠近法説や場理論というものがあります。それらの考え方はお求めになっている統一理論ですから、それぞれの説を信奉している研究者にお尋ね下さい。人数は少ないと思いますが、心理学科あるいは工学部などの視覚研究者の中にいると思います。 


錯視を目の網膜で説明したいのですが。

A 私のところではできません。錯視の多くは脳で起こると考えています。また、きっと誤解されているものと思いますが、目の網膜は写真のフィルムのような高解像度でシャープな画像を得ているわけではありません。視細胞の大きさから申しましても(視力が1.5も出るはずがないほど細胞が大きい)、目のレンズの色収差(赤よりも青がレンズに近い側で焦点を結ぶ)のことを考えましても、網膜像は相当なボケ画像で、それを脳で補正して、クリアでシャープな外界のイメージを作り上げるのです。どうしても目にこだわるのでしたら、眼球や網膜の生理学や解剖学の研究者(医学部や理学部生物学科など)にお尋ね下さい。 <2009年2月25日修正>


Q 下り坂が上り坂に見えたり、その逆に見える場所を教えて下さい。

A 坂道の錯視ですね。すみません。屋島以外知りません。全国にあることは間違いないので、応募したら写真がたくさん集まるのではないでしょうか。そのあかつきには私にも教えて頂けますとうれしいです。今井省吾先生の本には名神高速道路の高槻市あたりの写真が坂道の錯視として載っていますが、今では巨大防音壁で景色が隠れたことと交通量が多いことから、どういう錯視なのだかドライブしてみましてもよくわかりません。


Q 転びそうになる階段ってありますか。

A 正丸階段の錯視ですね。正丸駅は西武秩父線にあります。そこの階段は水平なのに傾いて見えるので、転びそうでこわいのだそうです。立命館大学文学研究科の大学院生の對梨(ついなし)君が模型を作って研究していますので、彼に聞いて下さい。對梨君の作品は映像向きかも。


Q エスカレーターは止まっていても転びそうになるのはなぜですか。

A 壁紙錯視という両眼立体視で説明することが多いです。例えば、Cohn and Lashley。私の説では、エスカレーターはたくさんの溝があって高空間周波数成分が多いから、周囲の低空間周波数成分との間に、retinal slipの時に速度差が生じ、動く錯視となる、と説明します。例として、作品「液状化」。動く錯視は視覚誘導性身体動揺を引き起こし、そのため転びそうになる・・・って、テレビ番組には説明が長すぎますね。


停車中の電車に乗っているとき、反対の電車が発車すると自分のも発車したような気がするのも錯視ですか。


A 錯視(visual illusion)というと視覚だけの話なので、より一般的に「錯覚」(illusion)と呼ぶ方が妥当です。視野の大きい割合が一定方向に動きますと、自分の方が反対方向に動いたと錯覚する現象です。ベクション(vection: 視覚誘導性自己運動感覚)と言います。このとき実際に自分の体が動揺していれば、それは視覚誘導性身体動揺と呼ばれます。「ベクション & 視覚誘導性身体動揺」においては、視覚入力からの応答が実際に運動系に出力されるので、錯覚というのでは言葉が少し足りないのですけどね。遊園地のアトラクションにもそれらを誘導して楽しむものがよくあります。 <2009年2月20日訂正(視覚誘導性身体動揺をベクションに含めていた誤りを訂正) Thanks to AT>

さらに詳しくてわかりやすい説明はこちら(北崎先生のコラムの部分をご覧下さい)

Q 縦縞の服を着るとスマートに見え、横縞の服を着ると太って見えるのはなぜですか。

A 普通は謎とされています。ヘルムホルツの正方形によれば、横縞だと縦長にみえることになります。でも実際の服装では、縦縞の方がスマートに見えます。それで不思議だなあ、とされるわけです。私の意見は、横縞は立体感を増すから太って見えるのであって、上下方向の長さの錯視は関係なし、というものです(下図参照)。

「ビーチボールの錯視」・・・横縞のボール(左)の方が縦縞のボール(右)よりも前後に膨らんで見える。

Copyright A.Kitaoka 2003


トップページ