<VVP>

〜第一回VVP実証実験〜


実験目的  :

 VVPシステムの活用を視野に入れ、ひとまずの実験を目的とする。簡単なシステムではあるが、実際にVVPを体験してみることによりそのシステムの面白味や問題点なども見えてくると思われる。また、その様子をカメラ、ビデオに収めることによってシステム利用時の雰囲気を伝えて、研究成果への活用、プレゼンテーションの手助けになることを目指す。さらに実験参加者に体験してみての感想を求め、システム試案、次回実験への足掛かりとする。

実施日時  :

平成10年 10月24日(土)  PM 12:00 〜 PM 18:00

場所    :

立命館大学衣笠キャンパス 修学館プロジェクトルーム

実験の方法 :

(1)実験システム(仮想VVPシステム)

 注)今回の実験は、全てのキャラクターを演じることとする。これはオリジナルのキャラクターの声を取り込む
   ことが現段階では困難であるからである。
   また、BGMや効果音は省略するものとする。

(2)実験の手順

 ・今回の実験の手順は、以下のような流れで行う。

1. ビデオデッキにサンプル用のテープをセットし、台本を見ながらアフレコを行うシーンをひとまず見てもらう。

2. 台本を見ながら自分のセリフをチェックし、何度かそのシーンを見ながらタイミングやイメージを掴んでもらう。

3. 再びそのシーンを、今度は音を消しながら流して、アフレコを行う側はテープレコーダーに向かってタイミング
  を合わせてセリフを吹き込む。

4. ビデオとテープ、同時に流すことによってVVP作品の完成。

5. 以上の過程に要する時間なども、実際使用する時にどれぐらいの物を作るのにどれほど時間を要するのか
  というデータを採るために測定する。

6. 上記の様子は、カメラ、並びにビデオによって撮影する。

実験内容の報告 :

 まず最初に第一フェイズとして、参加者全員に台本を配り一通り目を通してもらう「台本読み」を行った。(写真1参考)

(写真1)
  熱心に台本に目を通す参加者達。
  自分にキャスティングされたキャラ
  クターを掴もうと真剣な表情である。

 ここで、決定された配役や、自分のやりたいキャラクターのセリフに目を通してもらったりする。なお今回の配役に関しては、自薦他薦の両方で自由に選んでもらえる形にした。
 配役が決定したら、第二フェイズである、台本を見ながら演じるシーンを一通り見てもらう「シーン確認」を行った。(写真2参考)

(写真2)
  台本片手にVTRの流れるテレビを
  見つめる。
  シーンの流れと自分のキャラクター
  を理解するのに重要な時間。

 この段階で大体のシーンの流れや、自分の演じるキャラクターのしゃべり方やイントネーションなど、役を演じる上で必要な要素を大まかに掴んでもらう。元々のシーン、キャラクターを見ることによって、自分の中のキャラクター作りを深めてもらうのが狙いである。実際には、一度作品を通して見てもらうのが一番効果的であると思うが、時間的な制約と、実際にVVPを利用する際に皆がその作品を知っている保証がないということが考えられる為それは行わなかった。
 「シーン確認」をした後、第三フェイズの「セリフ練習」へと入る(写真3・4参考)。この「セリフ練習」では、演じるシーンの映像を流しながら、それに合わせてセリフを言い実際に演じてみる。その際、微妙なアクセントや間の取り方など細かい点を調整していく。ここでは各自が台本に書き込みを入れたり、セリフのリズムを体を使って取ってみたりと、参加者独自の方法で真剣に練習に取り組んでいた。

(写真3)
  台本とテレビの映像を食い入るように見
  つめる参加者達。
  その表情は真剣そのものである。

 (写真4)
   シーンの流れやキャラクターについ
   てお互いの意見を出し合う。
   参加者同士のコミュニケーションも
   重要だ。

 「セリフ練習」が終われば、いよいよ最終フェイズとなる「本番」である。映像を再びシーンの頭に戻し、タイミングを合わせてテープレコーダーでの録音を開始する。(写真5参考)

(写真5)
  いざ始めようという瞬間。手を叩く音
  に合わせてタイミングを取ろうとして
  いる。

 ここまで来れば、もう後はひたすらキャラクターに成りきり演じるのみである(写真6参考)。しかし、一番重要なことは「役を演じる」ということよりも「役を楽しむ」ということかもしれない。少なくとも私を含む今回の実験の参加者達は、真剣ながらもその表情に「楽しさ」を見せながらVVPを体験していたように思う。以下に、実験の雰囲気を伝える参加者達の表情を何点か載せておく。

(写真6)
  本番中。
  皆真剣な表情で自分のキャラクター
  を演じることに臨んでいる。

真面目な表情の収録風景(←)の中にも笑顔がこぼれる参加者達(↓)。
生き生きと楽しみながら参加していることが分かる。

実際に出来上がった作品を見る。
上手くいっているかどうかドキドキしなが
らも、やはりその表情は笑顔である。

実験結果からの考察 :

 今回実際に実験を行ってみることによって、実験目的であるデータの採集はもちろん、頭の中で考えていたよりも具体的に色々なことが見えてきた。また、実験計画書を作成している中で出てきた幾つかの仮説の検証も同時に行った。

1. VVPシステム利用にかかる時間
 前節で説明したような手順を行うのに、大体1シーン45分から1時間程度かかるという結果が得られた。シーン1(約5分)を例にとって大まかな内訳を行うと、以下のようになる。

  ・準備・説明

:10分

  ・台本読み・配役

:10分

  ・シーン確認

:5分

  ・セリフ練習 ×2〜3

:10〜15分(5×2〜3)

  ・本番 ×1〜2

:5〜10分(5×1〜2)

  ・完成作品上映

:5分

計:45〜55分

 少し長めのシーンであるシーン3(約7分)でも1時間程で全行程を終えることが出来た。このことから、シーンの長さや難易度にもよるとはいえ一回の利用にかかる時間は少し余裕を見たとしても1時間から1時間30分あたりに設定しておけば十分であるという結論に達した。これは、もし仮にアミューズメント施設としての利用を考えた場合でも比較的利用しやすい時間設定であると考えられる。

 

2. 仮説の検証

 仮説.1
  『アニメに興味のある人ほど楽しめる』

 これはある意味当たり前のことであると考えていた。裏返せば、あまりアニメに興味のない人には楽しめないのではないか、ということである。しかし、今回の実験に参加してくれたメンバーはアニメに興味がある人もあまりない人も皆楽しんでやっていたように思う。ただし、これは仮説の2とも関係があると思われるため、より多くの実験と参加者の意見が必要であると考える。しかしながら、エンターテイメントということに関して言えば、このVVPはかなり楽しいものであるという感触を得た。

 仮説.2
  『少人数よりも大人数でやる方が楽しい』

 今回選んだ4つのシーンは、コミカルなシーン、シリアスなシーンと色々なパターンを選んだが、コミカルなシーンほど大人数でワイワイと、シリアスなシーンほど少人数でじっくりと、という印象を受けた。また、「大人数で騒ぎながらやるのがすごい楽しい」という声が多く聞かれた。このことから、楽しく騒ぎながらやりたい場合はコミカルなシーンを、じっくりと楽しみたい場合はシリアスなシーンを、というようなパターン分けが可能であると考えた。これはシリアスなシーンでは、どうしても少数のキャラクターの「語り」が多くなってくるためである。ともあれ、大勢で騒ぎながらのVVP体験は楽しいものであることは間違いないと言える。
 また、今回の参加者にはメールでのやりとり程度の面識しかない人達同士も一緒になって演じていたことを考えると、その場の勢いで知らない人達ともVVPを楽しむことが出来るのではないかと思えた。これは、次回からの実験でもこれは試してみたいと考えている。

 仮説.3
  『効果音などが拾えないのは作品の面白さを減少させるのではないか』

 これは実験を行う上でかなり懸念していた問題ではあったが、シーンによってはあまり気にならないことが分かった。しかし、音楽や映像だけで情景を表現するシーンがあったりと、作品の完成度や、参加者達がより深く楽しみ、作品世界に入り込むためにはやはり重要なファクターであるという事実は動かせない。自分達のものと、実際の作品を見比べてみたときに、普段ボーっと見ているときにはさほど気にならないような効果音やBGMでもいかにそのシーンを盛り上げているかがよく分かった。以上のことから、効果音などは例え無かったとしても楽しめるが、あればより一層楽しめるものであると言うことが出来ると思われる。

 仮説.4
  『自分達のオリジナル作品を作るのは面白い試みではないか』

 VVPの基本的なコンセプトは「ごっこ遊び」にあると冒頭にも述べたが、利用の仕方も「元のキャラクターをまねる」というのが基本的な方向である。しかし、ただまねるだけではない、自分達だけのオリジナル作品を作る、というのも面白い考え方であると思う。これは、今回の実験のシーン4・パターン2で実証された。すなわち、『関西弁ラピュタ』である。今回は関西出身者が多かったためこういう形となったが、自分達の出身地の方言で演じてみたり、或いは全く新しい脚本を自分達で用意してみたりと、まだまだVVPを楽しむ方法は考える余地が残されていると言えるだろう。

3. 問題点

 1)声と映像の同期

今回の実験の一番のポイントであり、一番の問題でもあった。これが原因となって、完成した作品を後でチェックするのに非常に苦労を要した。やはり、声と映像をそれぞれ違う媒体(テープレコーダー・ビデオデッキ)から流すのではなく、一つにパッケージングした形で流す方法を考える必要があるというのが実際のところである。

 2)効果音・BGMの問題

仮説の2でも挙げていたが、やはり効果音やBGMといった要素が欠けているのでは、作品の面白さが半減してしまうことは否めない。効果音などを自分達で入れたり出来ることもVVPの面白さになるのではないか、という意見も出てきた。

 3)セリフのタイミング

ある程度は口の動きや体の動きなどからタイミングを判断できるし、またそういったシーンが多いのも事実である。しかし、セリフをしゃべっているキャラクターの顔が映っていないシーン、或いは口元が映らないシーンなどではセリフのタイミングの取り方が至難の業となり、参加者達を悩ませていた。

 4)イントネーションや声質

作品をまねる、という観点から言えば、出身地などによるイントネーションの問題や、キャラクターに合った声の質の人がいるかいないか、という問題がある。しかし、自分達の作品を作ると割り切ってしまえば、もしくは参加することの楽しさをメインと考えれば、大した問題ではないと言える。あまり元の作品にこだわらなければ、そういったイントネーションの違いやミスキャスティングも楽しみの一つになるのではないだろうか。

4. VVPの印象と次回への課題

 今回の実験を行ってみた印象を一言で述べるならば、「とにかく楽しい!」の一言に尽きると思う。手前味噌と思われるかも知れないが、自分達の吹き込んだ声と、実際に動いてる絵がピッタリと合うと、なんだか非常に嬉しく、また楽しくなってくるものである。大勢の友人達とワイワイ騒ぎながらの「セリフ練習」や、メンバーの誰かの声が作品のキャラクターにハマった時など、とにかく笑い声の絶えない収録風景であった。それは掲載した写真からも伝わると思う。
 また、実際にやってみて「声優」という職業は決して声だけでキャラクターを演じているのではないということが良く理解できた。参加メンバーの中に過去に演劇の経験を持つ人がいたのだが、やはり聞いていて「上手い」と感じるものがあったし、セリフに合わせて自然と体が動いたりとか、キャラクターと同じ表情になったりとか体全体でキャラクターを表現していたように思う。
 面白かったところでは、仮説の4でも扱ったがシーン4を全て関西弁で収録するという試みも行った。参加メンバーに関西出身者が多かったというのも理由にあるが、これが意外と面白く、参加者達の大爆笑を誘った。これは、ただ作品を模倣するだけではない、よりアクティブに作品を楽しむというVVPの可能性を引き出した試みではなかったかと思う。 しかしながら、前述したような問題点も色々と浮き彫りになった。セリフのタイミングの問題は参加メンバーの議論を呼び、「カラオケみたいに下に字幕が出てくるようにしたら、もっとうまくいくのではないか」というような意見も出てきた。
 そういったことも踏まえて、

  ・映像と声とをマッチングさせることの出来る、もう少し踏み込んだ形のシステムの構築

  ・作品のサントラからBGMを持ってきたり、自分達で効果音用の道具を用意してみる

  ・映像に、タイミングを取りやすいよう字幕を入れる

 などを次回の実験に向けての課題としていきたい。

今回の実験のまとめ :

1. 『エデュテイメント』としてのVVP

 今回の実験から、『エデュテイメント』の構成要素の一つである『エンターテイメント』の部分に関してはかなりの好感触と有効性を得られたと言えるだろう。しかし、『エデュケイション』に関しての方向性は未だに霧の中であると言わざるを得ない。確かに、「声で演技をする声優という職業とはいえ演劇の基礎を知る必要性は大きい」というようなことを身を持って理解することが出来たが、それはあくまで「認識」であって「学習」ではない。
 また、『エンターテイメント』の分野でも、例えば今回行った「関西弁バージョン」のようにまだまだ様々な楽しみ方の方法が開拓される余地が残っている、という手応えを得た。
 次回からの実験でも、より多角的な方面から分析を行うことで『エデュテイメント』に於けるVVPの在り方といったものをより深く掘り下げて行きたいと思う。

2. これからのVVP実験の方向性

 1)声と映像の一体化
 今回のシステムでは、どうしても声と映像という二つのアイテムが存在し、収録後にもう一度見直したりという作業がどうしても困難であった。VVPの成果を一つの「作品」として見るためには、やはり声と映像を一つにマッチングさせる事が究極的な課題であり、先に挙げた効果音なども作品の完成度を高める上では欠かせない物と言える。この事はVVPのシステムを考える上で避けては通れない問題であり、今後の実験の中でも重要な位置を占める問題となっている。

 2)オリジナルの脚本によるエデュケイション
 エデュケイションのための試案の一つとして、全くオリジナルの脚本を作り、それにそってVVPを行う、という案が出ている。
 これは、元々の作品をまねるだけではどうしてもそのキャラクターを踏襲してしまうが、オリジナルの脚本では演技者自らが一から役作りを行わなければならないため、自分で演技を考える必要性が出てくる。その作業が、声優という職業を目指す人への人材育成に繋がるのではないか、という意見である。

 3)実験参加者の年齢層の拡大
 今回の実験参加者達は、年齢に4〜5歳の差はあるものの、全員二十歳以上、そして大学生であった。しかし、実際にVVPシステムが実用化されるとすれば、その主な対象者は中学・高校生であると考えられる。これは置き換えれば、アミューズメント施設を利用する修学旅行生の年齢層にも当てはまる。こういったことを踏まえて、これからの実験の中ではより幅広い年齢層の参加者(低年齢層だけではなく、高年齢層も)を募り、データの収集を図りたい。

上記のような目的を持たせた実験を今後幾度か行い、細かいデータを集めた後、最終的なVVPのサンプルを仕上げるようにする。

3. VVPに於ける「冒険活劇アニメーション」
 今回実験に使用した『天空の城ラピュタ』は、既に本文でも述べたようにアニメーションの中の大まかなジャンル分けで言えば、「冒険活劇」というジャンルに含まれる。概してこういったジャンルの作品は、比較的作品中でのドタバタ劇や、コメディータッチのシーンも多く含まれると言える。これは、「冒険活劇」というジャンルの作風が、「気のいい仲間達」、「コメディー色の強いドタバタシーン」、「アニメーションならではの、少しオーバーなアクションシーン」といった物を数多く内包しているからである。
 また、実験参加者達の声にも多く聞かれたが、大勢の仲間達とワイワイ騒ぎながらのVVP体験は非常に楽しいものである。そして、「冒険活劇」という作品ジャンルはそれを可能にする。
 以上のようなことから、今回の『天空の城ラピュタ』のような「冒険活劇アニメーション」は、VVPを大人数で利用する際には非常に相性のいい作品ジャンルであると結論づけることが出来る。


VVP

VVP実験1

VVP実験2

VVP実験3