第4回 2007.5.12
辻居 幸一 先生(中村合同特許法律事務所 弁護士、弁理士)
テーマ「創造文化と著作権法」


講師:辻居 幸一(つじい・こうちい)氏

1979、中央大学法学部卒業。翌80年に司法試験に合格。
1983年、中村合同特許法律事務所入所。
1988年、米国コーネル大学ロースクールに入学。
1989年、同大学を卒業し、NYのHughes Hubbard & Reed事務所に入所。
また、同じ年の10月には米国ニューヨーク州弁護士試験に合格。
1990年に帰国し、現在は中村合同特許法律事務所パートナー。
得意分野は「知的財産法」。
共著に『日米知的財産訴訟』(弘文堂)、論文に「特許権侵害における逸失利益の算定」(発明協会)、ほか。

 

「創造文化と著作権法」


はじめに

 私が所属している中村合同特許法律事務所はどんな事務所かというと、弁護士が18名、弁理士が40名以上、職員等も150名以上の、ちょっとした中小企業みたいな会社です。みなさん弁護士と聞くと、離婚だ、交通事故だ、相続だといったような事件を思い浮かべるかもしれませんが、私の事務所ではそういうことはほとんどやりません。では何をするのかというと、「知的財産権」にかんする業務をしています。特徴は、依頼者が国内だけではなく外国からの場合もあり、国際的な業務が多いというところにあると思います。たとえば、有名な企業の「商標権」、それも世界中の「商標」の管理などを行ったりしています。

今日私がお話するのは「創造文化と著作権法」という題目ですが、法律の条文を説明するのではなくて、その条文が現実でどのように適応されているのか、ということをふまえてお話したいと思っています。法律とは、条文を見ればすべてが書いてあるという問題ではなく、つねに、これは著作権法の問題なのか、あるいは他の法律の問題なのか、という思考検討が必要な分野です。場合によってはその両方の問題だということもあり、相互の法律が交錯していることもたくさんあります。また「著作物」といっても非常に広範で、あらゆるものが著作物になりえる時代ですので、それだけにあいまいな部分もあります。


1.知的財産権の種類

 「知的財産権」(Intellectual Property Right)とは何かというと、「人間の精神、思想の知的財産物にかかわる権利の総称」で、具体的な「物」に対する「所有権」とは違って無体物に対する権利ですので、「無体財産権」とも、「知的所有権」とも呼ばれています。「知的財産権」にはさまざまな種類があります。

@特許権……「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想のうち高度のもの」(特許法2条1項)で、これを保護するもの。
 知的財産権の代表としてよく知られているものが、この「特許権」です。「特許権」の保護は国家として重要視されているもので、そのために、ここ5〜10年の間にさまざまな見直しがされてきました。ちなみに「職務発明」という言葉、これも「特許法」のひとつです。これは、企業の従業員が発明をしたときに、その権利を会社に譲渡するか。もししたときにはその譲渡対価はいくらか、ということです。有名な話ですと「青色ダイオード」などがこれにあたりますね。ちなみにこの事件は、地裁判決の段階では200億という莫大な金額を認容しましたが、結局高裁では数億円に減額されました。

A実用新案権……「考案」とは「自然法則を利用した技術的思想」(実用新案法2条1項)で、これを保護するもの。
 出願さえあれば登録されるので、中身の審査は現実には行われていません。

B意匠権……「意匠」とは物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるもの(意匠法2条1項)でこれを保護するもの。
 いわゆる「工業デザイン」と呼ばれているもので、たとえば椅子の形、眼鏡の形などがそれに当たります。

C商標権……「商標」とは文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらの色彩との結合で、これを保護するもの。
 いわゆる「ブランド」ですね。「立体的形状」も保護の対象になりますので、ペコちゃん人形やカーネル・サンダース人形などの三次元のものも、保護の対象になります。アメリカでは「色」も商標として保護されるのかといったことも議論されています。さらに「におい」はどうなるのかなど、商標の保護対象はどんどん広がってきています。この「商標権」は、更新すれば永久に権利が保護されます。それに対して@特許権、A実用新案権、B意匠権については、一定の期間が過ぎれば誰でも使えるようになるというのが基本的な制度です。

 知的財産権のなかでも以上の@〜Cは「工業所有権」(Industrial Property Right)と呼ばれ、特許庁に対する登録手続きが必要で、有効期間にも制限があります(C商標権のみ例外)。

D著作権……「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)で、これを保護するもの。
 「表現を保護するもの」だとよく言われますが、コンピュータプログラム(同法2条1項10号の2)やデータベース(同10号の3)なども、保護の対象になっています。

E不正競争防止法……(1)周知ないし著名な商品等表示の保護(不正競争防止法2条1項1号ないし3号)、(2)営業秘密の保護(同法2条1項4号ないし9号)。
 (1)は商標登録のないものでも有名なものであれば保護されるというもの、(2)は情報を保護するというものです。

このようないくつものかたまりを「知的財産権」と呼んでいます。D及びEの権利に関しては、@〜Cと違って一切の登録手続きが不要です。著作権の基本というのは、なにかクリエイティブなものをつくれば、それだけで権利が発生するというわけです。また、@〜Eに共通する知的財産権の特徴は、いずれも、権利者に「独占権」を認め、侵害に対して損害賠償に加えて差し止めが認められます。いわゆる交通事故などの「不法行為」においては金銭賠償が原則(民法709条)になっていて、差し止めができないことになっています。なにか悪いことをやられたら、「やられた後」にお金でそれを賠償してもらう。しかし、知的財産権の場合には、「やられている」あるいは「やられそうになる」行為を差し止める権利が認められています。そのほかにも「パブリシティーの権利」という、著名人の「名前」や「肖像」などが保護される権利などもあります。

 

2.著作権と著作物

 著作権とは、著作者(2条1項2号)の著作物(2条1項1号)に対する権利です。基本的に著作者は、あるものをつくった時点で「著作権」を取得します。これが原則です。手続きも要らない。しかしながら、著作者は「著作権」を譲渡することができます。ですから、ある人物がずっと著作権をもっているとは限りません。これと対にあるのが「著作者人格権」(18条ないし20条)です。要するに譲渡できない権利で、著作者であれば永久に保持し続けることになります。仮に著作者がこの「著作者人格権」を譲渡したいと思ってもできません。この「著作権」(譲渡できる)と「著作者人格権」(譲渡できない)の違いを、覚えておいてもらいたいと思っています。

 もうひとつ、「著作隣接権」(89条ないし104条)というものがあります。この権利は、著作物ではないけれどそれに近い「物」、それに近い「人」に与えられるもので、たとえば実演家やレコード制作者や放送事業者が、この著作隣接権を有しています。みなさんは歌手や俳優など、いわゆるアーティストが著作者だと考えている場合が多いと思うのですが、彼らは実演家で、著作者ではなく、むしろ「著作隣接権」を有しています。

 著作権の保護期間は著作者の死後50年、特許であれば出願から20年です。映画の著作権については、最近の改正で公表後70年になりました。古い映画なんかについては、旧著作権法の時代で、著作者の死後38年という保護期間が定められていました。

著作権は「権利の束」といわれるほど、さまざまな権利が含まれています。そのなかでも重要なのは「複製権」(21条)といわれるものです。「複製」とはなにかというと、「有形的に再製すること」であるとされています。ここで一番大事なことは、「複製権の侵害というためには、著作物へ依拠して得られた物が著作物と実質的類似性を有することが必要である」という点です。端的にいえば、それを「見て」つくることです。見ないでたまたま同じものをつくっても、それは「複製権」の侵害にはなりません。コピーとは、「本物」があってそれを「見て」同じものをつくることです。依拠については、直接的にそれを「見ていた」という証拠がなくても、「こんなものは見なければできない」というくらい同一、または類似している事実があれば認められます。「複製権」以外にも、「譲渡権」や「貸与権」、「頒布権」などもあります。

 

次に、「著作物」とは何かを説明します。著作物の概念については、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されています。しかし、いわゆる事実としてのデータ(例:交通事故の統計、天候のデータベース、スポーツの結果等)は著作物とはみなされません。ただし、「これらの事実、データの選択又は配列に創作性があれば、編集著作物」(12条1項)となります(例:理化学年表、経済自書、辞典等)。そして著作物は「創作的」でないといけません。さきほどの「複製権」でもありましたが、模倣したものでは著作物とは認められないのですね。「表現」にかんしては、外部に表されたものでなくてはなりません。

著作物の種類については(1)言語の著作物(10条1項1号)(例:小説、詩、随筆、脚本、論文、講演)や、(2)音楽の著作物(10条1項2号)(例:交響曲、弦楽曲、行進曲、ジャズ、ポップス)、(3)舞踊の著作物(10条1項3号)(パントマイムなどの無言劇を含む)、(4)美術の著作物(10条1項4号、2条2項)(例:絵画、漫画、版画、彫刻)、(5)建築の著作物(10条1項5号)、(6)図形の著作物(10条1項6号)(例:地図、図面、模型)、(7)映画の著作物(10条1項7号、2条3項)(例:劇場用映画、テレビ用映画)、(8)写真の著作物(10条1項8号、2条4項)、(9)プログラムの著作物(10条1項9号、2条1項10号の2)、などがあります。

 

【判例1】LEC違法コピー事件(東京地判平13.5.16判時1749号19頁)
◆原告ら(アドビ等)は、PCプログラムを製造、販売。
◆被告(LEC)は、当該プログラムを違法に複製。
◆原告らは、被告に対し、正規品の2倍の額の損害賠償等を請求。
☆争点@正規品購入で損害が解消されるか。
     A原告の2倍賠償請求は認められるか。
☆結果:@、Aともに認められなかった。

注)上は辻居氏が講義中に挙げた「参考判例」のうちのひとつ。その他「PC-VAN OLT名誉毀損事件」、「大学受験参考書事件」、「学習教材引用事件」は省略。

 このようなソフトウェアの違法コピー問題は結構生じています。ソフトウェアの保護団体では、密告制度を設けています。今後気をつけなければならない問題ですね。

 

3.応用美術の保護

 応用美術とは、「鑑賞を目的とする純粋美術に対し、実用に供される物品に応用されることを目的とする美術」のことをいい、いわゆる「工業デザイン」のことを指しています。「応用美術」とは、今までの伝統的な見解では著作権保護の対象にはならないというのが原則です。これに対して「純粋美術」というのは著作権保護の対象になります。なぜ、応用美術については著作権保護されないのかというと、「工業デザイン」は「意匠法」によって保護されているからなんですね。この「意匠法」の保護を受けるためには出願登録の手続きをしなければなりません。しかも期間が短い。それに比べて著作権はというと、無審査主義で無方式主義、さらに保護期間も長い。このような、「意匠法」との交錯があるわけです。現在ではこれらのバランスを検討する必要があると考えられています。

注)講義中で引用された参考判例「木目化粧紙事件」、「ゴナ書体事件」、「自動車データベース事件」は省略。

 

4.キャラクターの保護

 みなさんにもなじみの深いキャラクターですが、これらも著作権で保護される対象です。あるキャラクターを使ったときに、それが著作権の問題なのか、それとも商標の問題なのかということは、よく論じられます。

【判例2】ポパイ表示事件(最高判平2.7.20判時1356号132頁)
◆繊維関係を扱う原告会社は、「ポパイ」の商標権者。
◆被告会社は、漫画「ポパイ」の許諾のあるマフラーを販売。
◆原告は被告に対し、商標権侵害を理由に販売差止、損害賠償を請求。
☆争点:漫画「ポパイ」の許諾のない原告請求は、権利濫用にあたるか。
☆結果:原告側の請求は権利濫用として認められなかった。

注)その他「ときめきメモリアル・アダルトアニメ映画化事件」、「競走馬名パブリシティ事件」は省略。

 商標権は基本的に早い者勝ちなので、早く登録手続きをした者が優先的に登録することができますが、本来他人が創造したものを行使するのは許されないということで、このポパイ事件の原告側の要求は認められませんでした。

 

5.著作者人格権

 「著作者人格権」には大きく分けて3つの権利(公表権、氏名表示権、同一性保持権)があります。そのなかでも一番問題にされるのは「同一性保持権」(20条)と呼ばれるもので、その定義は「著作物及びその題号の同一性を保持する権利で、著作者の意思に反して変更、切除その他の改変を受けることのない権利」です。著作者の同意がなければ一切の変更は許されないわけです。もちろん同意があればいいわけですが、同意なしに変更をしてしまうと、この権利の侵害になってしまいます。

【判例3】スウィートホーム事件(東京高判平10.7.13知的裁集30巻3号427頁)
◆原告は、映画「スウィートホーム」の脚本を著作し、かつ同映画を監督。
◆被告(東宝、伊丹プロ)らは同映画の製作者であり、ビデオ化・テレビ放映の際に同映画をトリミング。
◆原告は被告に対し、同一性保持権の侵害等を理由に損害賠償請求(2審で追加)。
☆争点:原告の同一性保持権を侵害したか。
☆結果:権利の侵害は否定された。

注)その他「RBGアドベンチャー事件」、「入選句添削事件」、「七人の侍事件」、「キャンディ・キャンディ事件」は省略。

この事件の場合、形式的には同一性保持権の侵害にあたりそうなのに、それが否定されました。
 テレビ上で劇場用映画が放映される際に、上下に黒い帯があるのをよく目にすると思います。本来はトリミングしてテレビのサイズに合わせますが、監督のなかにはこれを嫌がる人たちもたくさんいますので、そのまま放映されることになります。その場合、黒い帯が見られることになるわけです。見る側にとっては少々見にくくても、多くの監督は自分のカットがトリミングされることを好みませんので、そのまま放映してほしいという気持ちがあるのだと思います。この事件の場合、原告は黒澤清さんでした。どうして同一性保持権の侵害にあたらなかったのかというと、(1)はじめに監督がトリミングについての了解をしていたということ、(2)トリミングが通常行為であること、(3)プロの監督である伊丹十三氏もトリミングに立ち会った、などの理由により否定されたわけです。

 

おわりに

最後にいくつか言いたいことを述べて終わりにしようと思います。
 これまで判例をいくつか挙げてご紹介しましたが、「それ」を本当に保護すべきかどうかというのが弁護士の議論で、それは法律の条文に書いてあるわけではありません。仮に保護すべきであっても、それをどのように保護すべきか。このように知的財産権、著作権はまだまだ未知の開拓分野で、ある問題が起こっても議論を重ねながらの検討が必要です。そのときにどんなことを考慮しなければならないかということが非常に重要になってきます。たとえば(1)「著作者の保護」。クリエイティブなものをつくった人が保護されなければ本当にいいものは出てきません。(2)「著作物の円滑な利用」。誰もが自由に活用できるということ。ユーザーの立場から物事を考えていく視点が求められていると思います。(3)「産業政策・文化政策」。どのようなものを保護すべきか。さきほどのデータベースの問題もありますが、どこまでが「表現」=保護の対象になるのかということも非常に重要な問題です。(4)「投資の保護」。いいものを作るためにはお金が必要なわけで、投資をする人を守っていくことも必要です。これらのバランスをとりながら、法律を解釈・成立・運用していくことが重要です。

また、著作権法の分野では利害の対立が鮮明です。たとえば音楽ひとつをとってみても、レコード会社、音楽出版社、作詞家、作曲家、歌手、プロダクションなど、さまざまな人たちに支えられることによって、音楽産業は成り立っていることがわかります。このような人たち、団体が、それぞれ自分たちの利益を追求しているわけです。映画産業でもそうで、かならず利益の相反があるわけです。弁護士の仕事はあくまでも依頼者のために権利を主張することですが、そこでもやはり、依頼者以外の人たちとの利益のバランスを考えていかなくてはならない、そのバランスの中でどのように弁護していくかということが求められるわけです。

ここまで駆け足で話してしまって、みなさんにとっては難しい話も多かったかもしれませんが、みなさんの社会生活や研究課題のなかで興味をひくものがあればと思います。今後、みなさんがさまざまな研究テーマを考える上で、少しでも手がかりを提示できる機会になったらと思います。

 

以下、質疑応答の要約

Q.森進一さんの「おふくろさん」事件などで、作者と歌い手の対立があったが?
A.一般の方はよく、森さんは「おふくろさん」を世に広めた人だから地位があるのではないかと言うが、著作権法で大事なのはやはり「著作者」。その点、森進一さんは著作者ではない。著作権を持っているのは作詞家、作曲家であり、アーティストが持っているのは著作隣接権に過ぎない。その立場の違いをよくわかっていないといけない。

Q.著作権の保護期間を50年から70年にしようという動きがあるが?
A.どっちがいいか悪いかを決めるのは法律家というよりも政治家の問題であると思う。ただ、私自身は著作権を保護するという立場で仕事をしているので、法律としてはできるだけ保護が厚いほうがいいとは考えている。厚く保護すればするほど、いいものは出てくると思う。

Q.グローバル化のなかで仕事をするにあたって、何か必要な能力等があれば。
A.先日参加したシカゴでの会議には国内外を含め一万人ほどの人が来ていたが、そこでは中国人も、アフリカ人も、フランス人も、もちろん日本人も、みんな英語で会話をする。英語というのは、今みなさんが思われている以上に国際語として確立されていることを認識して欲しい。

辻居氏は、先月もシカゴに渡るなど、国際的な活躍をされている立場から、国際語としての英語の持つ役割が大きいことを強調して、講義を締めくくられた。

 
―参考文献―
『著作権とは何か』(福井健策、集英社新書)
『著作権の考え方』(岡本 薫、岩波新書)