JASRAC寄附講座 コンテンツ産業論1 立命館大学産業社会学部

1月7日

 第十三回目は、立命館大学産業社会学部教授の木津川計氏より、「文化のかつてない世代間ギャップはなぜ起こったのかー演劇・漫才・音楽の場合ー」ついての講義が行われた。(以下はその要約)

近年、文化状況の変化に順応する若者と遅滞する老人の二極は、世代間のギャップをますます大きくし、いつの時代でも見られる世代間のギャップとはいえなくなってきた。この「世代間のギャップ」は、若者はもちろん子どもまでも巻き込んで、若者層一極の中の個別化をも進行させている。
 この文化の二極分解は二つの時期から起こった。一つの時期は、1969年大学紛争以後70年代に、権力を持たない若者たちが「日本型文化大革命」を起こし、その革命が演劇、漫才、音楽を中心に引き起こした文化の変容からであった。もう一つの時期は、90年代後半から若者たちに携帯電話が爆発的に普及し、情報流通の利便性とコミュニケーション範囲が飛躍的拡大をもたらせたケータイ・メール文化の衝撃からであった。この二つの時期の衝撃が、二度の文化的津波現象として以前の文化的価値観を押し流したのである。文化の二極分解、世代間のギャップはこのようにしてもたらされたのである。

演劇の二分について、若者世代が支持するのは「小劇場」であり、それに対するもう一極は「新劇」である。この二つは全く価値観を違えている。新劇ファンには小劇場がくだらなく感じる。そのくだらない理由が小劇場ファンにとっては面白い理由なのである。例えば、新劇ファンが「小劇場の『リアルでない』点が嫌いだ」と言うことに対して、小劇場ファンは「小劇場の『嘘・虚像が良い』点が好きだ」と言うのである。高齢化し減少する新劇ファンと若者主体で増大する小劇場ファンという構図で演劇文化の二極分解(世代間ギャップ)を鮮明にさせたのである。

漫才の二分について、この国最初の漫才作家・秋田實はしゃべくり主体の漫才を育て、「家中誰もが安心して笑える笑い」を作笑術の基本に、笑いの平和主義を終生貫いたが、60年代、70年代と年を経つにつれて崩れていった。そして80年、東京ではツービート、大阪では紳助・竜助が人気スターとなった。その笑いの特徴は「強者が弱者を笑う暴力的な笑い」であり、笑いの平和主義は粉砕された。
 その後漫才の持ち時間が10分を切り7分6分となっていき、会話のやりとりを楽しむ「しゃべくり漫才」はしだいに苦しくなった。今日の漫才の主流はピン芸人へ向かっている。しかし、そのネタは多く感性的で若者を意識するため今日的であり、変化に遅滞している高齢者に理解はできない。そのためお笑いの世代間のギャップは大きくなるばかりなのである。

音楽の二分について、日本における作曲の原則は「言葉のアクセントをメロディととらえ、アクセントに従って作曲する」というものだ。山田耕作の「からたちの花」や本居長世の「赤い靴」はその原則をしっかり守って作曲されている。しかし、ビートルズ以降その原則は崩れ、アクセントを一切無視しての作曲が現れ始めた。近頃のJポップの歌手たち、例えば、浜崎あゆみ、大塚愛などの曲は、大きな音差と早いテンポでアクセントにとらわれない奔放さを売りにしている。しかし、その奔放さだから高齢者はとても歌えなく、覚えられず、音楽の世代間のギャップは広がっている。

若者と高齢者がすべて通じ合えることは不可解だが、同じように全く通じ合えないということも不可解である。本も読まず対面の会話もない若者たちだが、やがて社会人になれば不必要な内容のメールの存在に気づくだろう。他者を思いやる心を喪失してしまわないように、高齢者は若者に優しく、若者は高齢者にあたたかい、そんな人間的つながりの回復につとめたい。子どもは文化を食べながら成長するのである。おとなも文化の影響を受ける。だからやさしさとしての文化を地上にあふれさせよう。そんな地上の構築も今ならまだ間に合いそうなのだ。



「1970年という年の重要性」
 ・1960年の安保闘争は10年後に持ち越し
 ・1970年の日本万国博は64218770人が来場
 ・
万博は安保闘争を抑えるために

「団塊世代の犇き合いによる激発」
  ・1949年270万人の第一団塊世代
  →1968〜69年の大学紛争
  ・1973年209万人の第二団塊世代
  →いじめ・校内暴力
  

Jポップ」
  ・邦楽も歌謡曲も演歌も、さらにはロックやフォークと呼ばれたジャンルをすべて解体してシャッフルし、再構成した名称
    
   

少子・高齢社会の困難」
  ・一生涯政府から受け取る額
  →60歳以上 約5600万円の受益超過
  →30歳代  約740万円の負担超
  →20最未満 約3900万円の負担超
  

「CDが売れなくなった理由」
 ・成人層以外の複数の年齢層にまたがって魅力を持つ歌や歌手・バンドを育成しておくことを怠った
 ・苦し紛れの作戦が「リバイバル」
 


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