JASRAC寄付講座コンテンツ産業論 第1回

※講演の内容に関しては、主な内容の抜粋となっております。また、用語に関しては担当者が適宜注釈を付けていることがあります。

第1回 講義概要

開講式

武田 勝正氏(JASRAC文化事業部部長) 開講式挨拶

JASRACは1939年に設立された音楽著作権管理事業者で、国内外合わせて約710万曲の作品について権利を保有し、演奏会、テレビ・ラジオ放送、CDなどの録音、インターネットでの音楽配信などにおいて著作権処理の窓口としての役割を担っています。またJASRACでは公益的な文化事業も行っており、その一貫として平成16年度から立命館大学産業社会学部に寄附講座を提供させていただいております。京都には世界的なハイテク企業が数多くあり、最先端技術を有する企業で生み出される製品はまさに知的財産のかたまりです。著作権、特許権などの知的財産権は国の文化や産業の発展の基盤となりますし、資源の乏しい日本において知的財産権制度は必要不可欠な制度です。各界の第一線で活躍されている方を講師に迎えるこの講義は、皆さんにとってそのような知的財産権についての知識や理解を深める絶好の機会となるでしょう。積極的な受講を望みます。

國廣 敏文教授(立命館大学産業社会学部長) 開講式挨拶

JASRAC寄附講座は今年で3年目に入りますが、今年度も第一線で活躍されている著名な講師を招き、ここでしか聞くことができない講義をしていただきます。日本は優れた多くの知的財産を持っており、産業としても文化としても今後重視していかなければならない分野です。ここで学んだ知識を社会や将来の進路の中で生かしてほしいと思います。

講師プロフィール

甲野 正道氏(文化庁長官官房著作権課長)

1957年7月生まれ。1981年文部省入省。以降、文化庁著作権課法規係長、在米国日本国大使館一等書記官、内閣官房内閣参事官(知的財産戦略担当)などを経て、2005年7月より文化庁長官官房著作権課長に就任し、現在に至る。

講義:「著作権行政の最新課題」

概要:著作権問題の最前線で実際に政策に関わっておられる甲野氏からは、今現在最も緊急の課題となっているトピックについての説明があった。MDプレイヤー、iPodなどのデジタル複製機器の普及に伴って「私的録音録画保証金制度」の見直し論議、通信メディアの発達に伴って生じてきた「放送と通信の融合」の問題、そして著作権の根幹に関わる問題としての「著作権の保護期間の延長」についてである。

現在の著作権制度にはどのような課題があるのか、どのような方向に動いていくべきなのか。現行の著作権制度の概要や課題、今後の制度の検討を通して、行政がどのように捉えているかを述べたいと思います。

著作権制度の概要

著作権制度とは、「著作者に著作物の一定の利用について、排他的な権利を与えるとともに、権利侵害に対して一定の救済措置を設けている制度」です。例えば、CD1枚をコピーするには、作詞家、作曲家、歌手、演奏家、レコード会社などの多くの権利者から許諾を得る必要があります。個人や家庭内で利用する「私的複製」などには権利は及びませんが、インターネット配信などビジネスとして利用する側からすると面倒な手続きが必要で、制度を変えて使いやすいようにしてほしいといったような意見があります。

1. 私的録音録画補償金制度

個人や家庭内でのコピーが自由にできるということは消費者にとっては便利ですが、デジタル録音・録画により音質や画像の劣化がほとんど見られなくなった現状では、そのことがCDの売り上げ減少につながるなど権利者の利益を侵害することになります。そのためデジタル複製については、一定の録音・録画機器や媒体(CDやMDなど)を購入する際に利用者が"私的録音録画補償金"を支払うというしくみになっています(機器1台当たり400円〜500円程度、媒体1枚当たり2円〜4円程度)。しかしこの私的録音録画補償金制度には以下のような問題点が挙げられています。

こういった課題を解決するために、私的録音録画制度については今後抜本的見直しが行われます。できるだけ多くの審議会を開いて結論を出していかなければならないと当局としては考えています。

2. IPマルチキャストと著作権

IPマルチキャスト放送とは、光ファイバーなどの通信回線を用いた、有線放送とほぼ同様のサービスを提供するものです。放送を受信して再放送する場合、これまではIPマルチキャスト放送では「著作と著作隣接権(音楽の例では、著作権=作曲者・作詞者が保有する権利、著作隣接権=レコード会社や演奏者が保有する権利)の両方の権利者の事前許諾が必要」となっていました。著作隣接権の処理まで必要となっては、手続きが煩雑なため実質的に再送信は難しいという通信事業者などの主張があり、有線放送並みの取り扱いになる(著作権者のみの許諾を得る)ことになりました。ただし今回認められるようになったのは放送の再送信のみで、オリジナルのコンテンツを調達するなどして行う「自主放送」でのIPマルチキャストの扱いは今後引き続き検討することになりました。

3. 放送番組のオンデマンド配信

放送番組をネットで配信するためには、放送事業者が番組をネットに提供することと、実演家・レコード製作者などの権利者との手続きを円滑にすることが必要となってきます。「放送と通信の融合」*と言われている中、放送事業者と実演家・レコード製作者の間で合意が進む動きがあるなど、今後インターネットでの番組配信は増えていくと思われます。

*キーワード解説「放送と通信の融合」を参照。

4. 著作権の保護期間の延長

著作権は現在、死後50年まで保護されていますが、これを70年に延長すべきではないかという議論があります。欧米諸国では既に70年になっており、国際協調の観点から必要であるという視点や、文化の促進という視点、例えば『星の王子さま』の保護期間が切れたことにより様々な解釈での翻訳が可能になったなど、他の作品を自由に利用できるほうが新たな創作につながるのではないか、というような様々な意見があります。既に2004年1月1日からは映画の著作物のみ70年に延長されましたが、そこで問題となっているのがいわゆる「1953年問題」です。映画『ローマの休日』など1953年公表の映画を、保護期間が切れたとしてDVDを安価で販売したメーカーに対し、著作権を保有する米国映画会社が差し止めを申し立てました。文化庁としては、「著作権保護期間が終了した2003年12月31日午後24時と、改正法施行の2004年1月1日午前0時は同時で、改正法が適用されるため1953年公表の映画の保護期間は延長され70年間保護される」との見解を示しましたが、東京地裁は「2003年末で同作の著作権は切れている」と判断し、申し立てを却下する決定をしました。現在、知的財産高等裁判所において審議中で、近々判断が下されると思われます。

以上、現在の著作権制度の概要と最新の話題について、理解を深めていただけたしょうか。今後の授業の参考になればと思います。

関連情報

文化庁(「著作権Q&A」も)

著作権と文化(Yomiuri Online内の連載コラム)

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