■さんしゃびと »

2012/7/20

No.9「リアクションをアクションに変える。」
●1999年卒:渋谷 敦志さん

フォトジャーナリスト、そして産社に決めたきっかけ

 はじめまして。フォトジャーナリストの渋谷敦志です。1999年に産業社会学部を卒業して以来、写真を人生の中心においた生活を続けています。これまで訪れた国は5~60になります。この1年はやはり東日本大震災の被災地での取材が中心ですが、その他ソマリアの飢餓の現状、中国・四川大地震の復興、ウガンダのエイズ遺児、ブラジルの地球サミットなども取材しました。

 僕が最初に写真に興味を持ったのは17歳のときです。受験のための勉強に意味を見出せず、海外への漠然とした憧れを抱いていた頃、図書館でベトナム戦争を記録した一ノ瀬泰造や、澤田教一ら戦場カメラマンの本に出会ったのがきっかけでした。これだ!と思いました。「なりたい」ではなく「なる」と根拠もなく思ったから不思議ですが、この時は戦争の現実よりも、過酷な現場に飛びこんで人間に肉薄するカメラマンの生き方をかっこいいと思ったものでした。そうと決まればと、大学ではフィールドワークやジャーナリズムが学べそうな社会学をと思い、大阪の実家から通える立命館大学の産業社会学部に絞ったのでした

在学中、自分の価値観や生き方を大きく揺さぶった出来事

 わりと明確な目的を持って産社に入ったはずだったのですが、授業を受けながら「こんな勉強しても意味がない」と感じて悶々とする自分がいました。そんな一回生のある日、確か一般教養の「人間と文化」の講義で、学生に熱く語っている(ように見えた)小澤亘先生と直接お話する機会があり、大学をやめて海外に行きたい、と告白したのです。すると、「ひよっこだな君は。環境のせいにして、何をやっても駄目だ」と叱られました。甘い考えに自覚がなかったわけではないのですが、面と向かってダメ出しされて、「何を」と反発したものです。こうなったら行動で示すしかないと奮起し、本を読み、写真を独学し、バイトに励んでいた冬休みの最中に阪神淡路大震災が起きたのでした。

 価値観や、生き方そのものを大きく揺さぶる出来事でした。しばらくして、カメラと白黒フィルムをリュックに忍ばせて被災地に入りました。しかし、被災者の方々を前にして撮れなかった。カメラをリュックから出すことさえできなかったのです。人間を撮ることがこんなに苦しいのか、初めて経験した思いでした。そしてそのまま何もせずに引き返したのです。自分は一体何者なのか、写真に何ができるのか、どんな社会を望むのか。容易に解の出せない根源的な問いで頭がいっぱいになり、同時に撮れなかった、何もできなかった苦い経験が滓のように心に残りました。

 もっと世界を知りたい、もっと自分を鍛えたい、そう感じていた僕は、ブラジル留学制度のことを知り、そこで働きながら写真の修業をしようと決意したのです。あらためて小澤先生にお願いし、推薦状を書いてもらいました。あしなが育英会による震災遺児のための募金活動に参加したり、ブラジル料理レストランで皿洗いをしながらポルトガル語の習得に励んだりして、二回生はあっという間に終わって、1年間休学してサンパウロの法律事務所で研修しました。そこで僕は写真で人道支援や国際協力の分野で働きたいというビジョンを持つようになったのです。留学中に小澤先生から手紙がありました。「君の席はあけている」と。帰国後は小澤ゼミで指導を受けながら、フィールドとアカデミズムを往来し、卒業後すぐにフォトジャーナリストとして活動を始めれる基礎体力作りをしたのです。

そして、今、感じること。。。

 卒業後、緊急医療支援のNGO「国境なき医師団」によるフォトジャーナリスト賞を受賞し、それを機にアフリカの内戦の地やアジアの辺境に赴くようになり、あっという間に12年が過ぎてしまいました。

 そして昨年の東日本大震災。不遜なことですが、阪神淡路大震災よりも大きな災害がまさか日本で起きるとは想像できなかったので、しまった、と思いました。一年以上たった今も復興はままならず、原発の問題も絡んで、「人間とは何か」「どんな社会を望むのか」という大学一回生の時に抱いた大きな問いはより深刻さ切実さを増して僕に突き刺さっています。

 「自分に何ができるのか」との問いを一人ひとりがそれぞれの形で持ったと思います。この心の中のリアクションをそれぞれのポジションでアクションに変えていくことが大事なんだと感じているのですが、大学はその術を学ぶための貴重な修業の場なのです。そういう類のありがたさは、だいたい卒業して気がつくものなのかもしれませんが。 ここから、将来一緒に何かやれる仲間が出てくるのが楽しみです。

●渋谷 敦志(しぶや あつし)

卒業年月日 1999年3月 卒業
出 身 地 大阪府
現 住 所 東京都
勤 務 先 フリーフォトジャーナリスト
ゼ ミ 名 小澤亘ゼミ
所属サークル
団 体
-