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2018/1/25

No.73「全プロセスに一貫して関ること」
●2015年修了:野口 陽平さん

興味拡散タイプを受け入れてくれた産社

 産業社会学部を選んだのは「いろいろできそう」という勝手なイメージからでした。中学生のときに臨床心理学や犯罪心理学、精神病理・カウンセリングなどに関心をもち入門書などを読んでいるうちに、漠然と「特定個人の心理」の問題をいくらやっても自分の問題関心は解消できそうにない、と考えるようになりました。その後、政治経済やメディアの社会・人に対する影響に興味が広がり、政治(法律)だけでもなく、経済だけでもなく、メディアだけでもなく、ということで「産社」を選びました。

 1回生の基礎演習が山口歩先生で、「科学は発展していると思いますか?」というのが第一声でした。山口先生から学んだLCA(ライフサイクルアセスメント)という概念はいまでも思考の基礎になっています。LCAは製品の原料調達から製造、廃棄までの全過程を通じたエネルギーコストや生態系への影響を評価する考え方ですが、モノゴトのはじめからおわりまでの全プロセスでのコストバランスや実情をわかって事業を進めるという考え方として、現在も自分のなかでいきづいています。大学院に進み、産社と社研(社会学研究科)には都合13年ほどお世話になりました。

経験をつなげる

 大学院では、アイデンティティ論や権力論を軸に、フランスの社会学者ブルデューの理論研究をしていました。彼が初期に農村のフィールドワークをしていたことも後押しになり、修士課程に入ってから農村のまちづくりやフィールドワークという全く新しい分野に入っていきました。

 結果的にそこでの出会いと経験がその後のキャリアを方向づけたと思います。vol.67の山田大地くんも書いてくれている「りつまめ」に結実した京北プロジェクトの立ち上げに参画したり(景井先生と深夜まで某省への申請書を書いていたのはいい思い出です)、京北の野菜を都市部で販売する(都市農村連携の社会事業型の)移動式八百屋「右京ベジトラック」を学生の仲間と作って運営したりと、複数のプロジェクトの企画運営を数年かけてやっていました。自分たちで野菜をつくり、農家さんから仕入れもし、車で運び、店舗をつくり運営し、在庫管理などなどもしと、ビジネスの原型をはじめからおわりまで一貫して自分で経験することができたのは今も強みになっています。

 そのような経験を経て、農村まちづくりの先進事例を牽引する神戸大学農学部の地域連携研究員として勤務することになりました。

地域特産品開発の伴奏者として

 社研での「りつまめ」の経験もあり、その方法をブラッシュアップする形で「コベクロ」という黒豆でつくる納豆商品を開発しました。これも大学(神戸大学篠山フィールドステーション)との連携商品ではありましたが、製造所の選定調達やパッケージデザイン、取扱いをお願いする販売店舗への営業(高速道路のサービスエリア等)、ホームページ制作なども含めた、ブランディングもマーケティングもセールスもやるという点では大学が関わる商品開発のなかではかなり特異だったと思います。大学が地域と共同開発する商品はなかなか地域に根付かず自然消滅する例も少なくないですが、「コベクロ」は今年3月に地域組織が株式会社化するまでに成長をしています。

 研究員退任後、兵庫県篠山市地域おこし協力隊の第1期として参画し、そのときのメンバーで農村まちづくりの会社を共同で興しました(合同会社ルーフス)。現在はUターンし、野口写真(現・株式会社エクボスタジオ)の次期4代目としてフォトグラファーをしています。こちらはまだまだ修行の身ですが、2017年には幸運にも日本最大のスクールアルバムコンテストで大賞を受賞することができました。

大学は世の中で話題になる8年先のテーマを扱っている

 「研究」となるともう少し先の世界をやっていますが、大学の授業で教わるテーマ、つまり大学教育で行われるテーマは世の中を8年先取りしている、と個人的に考えていましたし、いまもだいたい同じ考えを持っています。

 現に、東北大震災後、原発問題で電子力発電に関わるさまざまな政治や法律の構造が明るみにでましたが、当時のニュースやジャーナリズム界で語られていた話のほとんどは、山口ゼミ(環境技術論ゼミ)で、あるいは学部で、すでに習っていた内容でした。

 少なくとも社会学の分野では、大学や研究業界で「常識」となっているレベルのものが人口に膾炙するまでにそれなりのタイムラグがあるように思っています。大学の世界から離れて3年ほどが経ちましたが、だからこそ、ちゃんと「知」のアップグレードができる環境に身を置かないといけないなと常々考えて仕事をしています。

●野口 陽平(のぐち ようへい)

卒業年月日 2015年3月 修了
出 身 地 滋賀県
現 住 所 滋賀県
勤 務 先 ㈱エクボスタジオ
ゼ ミ 名 山口歩ゼミ(学部)
景井充ゼミ(大学院)
所属サークル
団 体
軽音楽部