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2007年度研究会報告

第25回(2007.10.13)【第15回講演会】

テーマ 『民衆の対抗暴力の可能性と不可能性─フランツ・ファノンを手がかりにー』
報告者 鵜飼 哲(一橋大学教授)
酒井 隆史(大阪府立大学教授)
萱野 稔人(津田塾大学准教授)
報告の要旨

暴力論研究会第25回研究会は『民衆の対抗暴力の可能性と不可能性フランツ・ファノンを手がかりに」と題して、アルジェリア戦争期に活躍した暴力論の思想家フランツ・ファノンをとり上げ、シンポジウムを行なった。

萱野稔人氏は「対抗暴力の可能性と正当性」というテーマで、ネグリ=ハートにおける手段としての対抗暴力についての議論を検討し、「暴力の使用もまた民主的に組織されなければならない」とする彼らのテーゼに対して、その可能性に疑義を提示し、非暴力的な手段による暴力のコントロールの可能性を主張された。近代国家による暴力の独占に対して暴力によって対抗するのではなく、暴力によらずに暴力を制御する可能性の模索が必要なのである。

酒井隆史氏は、「フランツ・ファノンとマルコムXー情動と反暴力 anti-violence」というテーマで、暴力による主体の解放を目指したファノンに対して、今日の非暴力的直接行動のムーブメントを紹介され、さらに、ファノンとマルコムXにおける暴力の位相に言及された。人種差別的状況を闘った両者において「治療=回復」としての暴力という主題が見られることを指摘された。そのうえで、ガンディーにおける「治療=回復」としての非暴力との対照において、ファノンにも「反暴力」の思想が見られることが主張された。

鵜飼哲氏は、「暴力の彼方に何(か)が(垣間)見えるか」というテーマで、政治運動の中での「抵抗」の概念を軸に、非暴力的運動と暴力的闘争が共有しうるものがあることを語られた。さらにファノンの再読が、「人種主義の脱構築」(バリバール)という視点から90年代以降広まっていることを指摘された上で、ファノンにおいて「暴力の彼方」に目指されているものを語られ、ファノンにおいて供犠的革命の彼方に「赦免」を見出すことが可能かどうか、を考察された。社会的情動と民衆間暴力の分析の中で、ファノンは暴力を邪悪視せず、その彼方をめざすものを指示していたのではないか、と述べて締めくくられた。

ファノンの再評価において、ファノンを「暴力」の思想家としてとらえるだけではなく、民衆の抵抗における非暴力的抵抗との関連が指摘され、現代の対抗暴力論においてなおファノンの思想の持つ意味と可能性が示されたと言えよう。

シンポジウム後はフロアからの質問も相次ぎ、多くの討論が活発に行なわれた。

加國 尚志

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