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2009年7月11日 講師: 花ア 育代

大岡昇平の戦後文学

 大岡昇平の戦後は、俘虜(捕虜)生活から始まりました。アジア・太平洋戦争末期、敗色濃いなかを一兵卒としてフィリピンに赴き、駐屯していたミンドロ島の山中で、米軍の襲撃を受け、その俘虜となりレイテ島で俘虜生活を送るうち、敗戦を知ったのです。やがて日本への帰還後、大岡は、『俘虜記』「武蔵野夫人」「野火」といった、大岡にとってのみならず戦後文学においても代表的な作品を矢継ぎ早に発表していきます。それらの作品にはいずれも戦争―戦場とともに俘虜のことがきわめて重要なものとして描かれています。この姿勢は戦後二十余年経ってさえ保持され続けていきます。それはたとえば『レイテ戦記』などをみても明らかでしょう。では兵士―俘虜とは、戦後の大岡にとって、大岡文学において何であったのでしょうか。戦争を俘虜として生き残った人間の文学表現において、なにが可能であり、またなにが不可能であったのかということをも考えつつ、大岡の戦後文学の内実を考究していきます。

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