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2009年7月18日 講師: 中川 成美

戦後を生きる−忘れ去られた者たちと文学−

 戦争を語る、あるいは書くということは、戦争の現場を描くことだけではない。戦乱の災禍がどのように人間の運命を変えてしまうかということ、またその過酷な運命に苦難を強いられても人間は生きていかなければならないということが、戦後をめぐる物語には常に描かれている。しかし、第二次世界大戦から半世紀あまりを経た現代、私たちはその物語を忘れてしまった。忘れられた多くの物語は文学という領域の中にじっと静かに再び見出されるのを待っている。
 今回、私は池田みち子の戦後諸作を中心に、作家たちが描いた戦後の人間の悲しみに満ちた人生を辿ってみようと思う。池田たちが追求した人間たちの極北の姿を通じて、私たちは何に気づかなければならないのだろうか。人間はなぜかくも忍耐強く、崇高なまでに寡黙なのであろうか。彼らや彼女らが飲み込んでしまった言葉を作家たちは作品のなかに再現した。その言葉を読者はどのように受け止めていけばいいのか。私たちの内なる泡立つような感情を手がかりに、失われた、忘れられた、あるいは忘れようとした物語を読んでみたい。

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