立命館土曜講座 開催講座一覧


2009年7月25日 講師: 井口 時男

役立たずの兵隊たちの戦場 −富士正晴、田中小実昌等−

自分の兵隊体験を小説化した作家は多いが、文学青年(中年?)だった彼らは総じてあまり優秀な兵隊ではなかったようだ。なかでも、富士正晴と田中小実昌はダメ兵隊の双璧だったように思う。しかし、彼らの小説は素晴らしい。一方で、火野葦平や田村泰次郎は、戦後文学の多くがダメ兵隊の小説であることについて、文学作品として優れたものであることは認めながら、心底からは尊敬する気持ちになれないという感想を漏らしている。一人の兵隊の無能や怠慢は隊員全員の危機を招きかねないのだから、これも当然の感想だ。ここには、文学の倫理と兵隊の倫理(ひいては現実倫理一般)の矛盾という問題がある。そのことを考えてみたい。

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