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  • 音楽への探究心

文学部  教授  宮本直美

我慢強く文化を育てていく姿勢が、
交響曲の格式を作り上げた。

19世紀欧州でのオペラ人気は凄まじく、
一部の公演だけでも人が集まるほどだった。
「一方、今でこそ、クラシックコンサートの主役とされる交響曲は、
売れない音楽の典型でした」と彼女。
声楽>器楽という音楽観が強くあった上に、
言葉を持たず、しかも長い交響曲は一般聴衆には難解過ぎた。
では、なぜ交響曲が現代のような格式と人気を誇るようになったのか?
それを紐解いたのが彼女の研究。
旋律や技法ではなく、音楽が社会にどのような影響を与えたのかに着目。
「大きな要因としては、難解な交響曲を理解することが、
教養人としてのステイタスにつながるという風潮を作り上げたことがあげられます」
知識人達は人気のオペラ曲と交響曲をセットにし、
聴衆に繰り返し聴かせることで耳を慣らし、
芸術文化としての確固たる地位を半世紀かけて築いていったという。
難解であることを逆手に価値を生み出した交響曲。
それがコンサートで演奏される音楽の幅を広げ、音楽文化に豊かさをもたらした。
「彼らの努力がなければ交響曲は、現代になかったかもしれない」と語る。
市場価値のみに依拠し切り捨てるだけでなく、
我慢強く文化を育てていく姿勢が、今求められているのかもしれない。