知事リレー講義
ライン
    2008年4月17日          鳥取県  平井 伸治 知事

真の環日本海時代における鳥取型ガバナンス

 平井知事は、東京大学卒業後、自治省に入省されたが、1999年片山前知事に声をかけられ、その右腕として鳥取県で活躍されていた。そして、昨年4月に、片山前知事の後任として鳥取県知事に就任されたのである。


 平井知事によると、地域を取り巻く現状は非常に厳しいという。かつては、経済が右肩上がりに伸びていき、それにあわせて税収も自ずと上がることが期待できた。しかし、今は状況が違い、限られた資源の中で、市民社会の成熟を背景として何を選択していくのか、その過程が重要とのことである。


T.鳥取県の資源と環日本海


 鳥取県には、鳥取砂丘・大山・様々な温泉の他、国宝の投入堂・妻木晩田遺跡など有名な史跡がある。また、青山剛昌氏(「名探偵コナン」の作者)、水木しげる氏の出身地であり、まんが王国ということもできる。更には、食の都としても自慢できるほど、美味しい食べ物に恵まれている。
 そして、鳥取県は日本海側に位置する自治体であり、対岸のアジア諸国との貿易を通して、環日本海時代を切り開いていきたいとのことである。「環日本海」という言葉は、以前は日本海側の色んな自治体が使っていた。しかし、平井知事によれば、鳥取は約2千年前の昔から対岸の朝鮮、中国と交流してきたという。その証拠に、鳥取県内の青谷上地遺跡からは、朝鮮からの文化流入を示すものがたくさん出土している。
 また、鳥取県は、東アジア地域との交流も盛んであり、特に姉妹都市として活発に交流をしている。例えば、韓国との姉妹都市の交流は、日本ではもっとも盛んである(もちろん、鳥取県の姉妹都市の交流は、その他に中国、ロシア、台湾にまで広がっている)。とりわけ、韓国の江原道との交流は近年に始まったものではなく、古くは江戸時代に江原道の人たちを手厚く保護したことにまで遡ることができる。平井知事によれば、このような心のつながった交流が、やがて経済の活性をもたらす交流にまでつながっていくだろう、とのことであった。
 そして、東アジア圏における環日本海時代を見越して、鳥取県は東アジアのゲートウェイを目指した取り組みも行っている。まず、鳥取における空の玄関口としては、米子空港が挙げられる。昨年、ソウル便運休の声が上がったが、それを乗り越えて、今は観光客を呼び込んでいるという。次に、水の玄関口として、境港がある。そして、今、新しい航路の開設計画を進めているという。なぜなら、東アジアにおける相互交流とは、端的には人・物の交流だからである。また、日本では現状、太平洋側に物流拠点が集中しているが、これは日本海側から見た、東アジア地域とのルートとしては非効率ということになってしまう。


U.成熟市民社会における県政の運営


 次に、対岸交流から県政に目を向けると、ガバナンス、県民との協働というテーマが浮かび上がってくる。平井知事によれば、県庁の運営スタイルとして、県民とどう関わりをもち、県政をいかに担っていくかが大切になってくるという。
 現在、日本も市民社会の成熟、変革を迎えているが、そのきっかけは1995年の阪神淡路大震災におけるボランティア活動である。これをきっかけとして、市民によるボランティア活動の認識が開かれることとなった。
 そして、鳥取県でも、ボランティア活動は盛んに行われている。ある調査によれば、ボランティア行動率は全国1位で(2位は隣の島根県)、3人に1人がボランティアをしている計算になる。アメリカ、ニューヨークにはブライアントパークという観光名所があるが、これはかつて麻薬の取引場所だったものをNPOが運営することで変えていった。鳥取でもこのような取り組みを目指して、鳥取版河川・道路ボランティア促進事業を行っている。これは、単なる参加だけでなく、NPOに対して運営管理、改善まで含めて任そうという取り組みである。
 また、企業とも協働事業を行っており、とっとり子育て応援パスポート事業を展開している。


V.鳥取県の行財政改革の取り組み


 このように市民との協働を目指すなかで、県庁自身においても改革に取り組んでいる。財政面でいえば、三位一体改革の影響を受けて、県財政は厳しい。実際、H15の決算額に比べて、H20年度の予算額は減少している。平井知事は、このように財政事情は難しいところであるが、それでも透明性を確保して、財政の運営については公開するようにしているという。
 その他に、行財政改革として、鳥取県は職員定数の削減、広告収入・ネーミング権などによる新財源の確保、兼営施設の民間委託など事業の見直しを進めている。このうち、職員定数の削減は、おそらく全国的に行われている職員一律カットよりも、長期的には厳しいものだと平井知事はとらえているという。その理由としては、ポスト(職位)の見直しが含まれているからであり、役職や仕事内容を含めて、固定的な職位でなく、適正なものを目指すからである。その結果、鳥取県では、全国平均と比べても、管理職の課長級以上が少なく、現場に近い主事のほうが多くなっている。
 更に、県の予算編成のプロセスについても透明化を図っており、その過程は県庁のホームページで公開している。それは、予算の編成プロセスに、県民の意見を反映させていくことを狙ったものでもある。


W.道路特定財源について


 ところで、現在、道路特定財源が議論の的となっている。これについて、簡単に鳥取県の状況をいえば、鳥取県はまだ「陸の孤島」である。なぜなら、次のような状態が、残されているからである。例えば、中国自動車道に乗るまでに約70kmもかかるような地域があったり、また全国の中で唯一、県庁所在地まで高速道路がつながっていない自治体だからである。本質的にいえば、どこに道路をつくる必要があるかという議論と、それを踏まえた上での道路をつくるための財源がどれだけ必要で、どう確保するのかという議論とは別に行われるべきではないか。
 また、国政をめぐる状況をみると、与野党や二院制である衆参両議院で意見が異なるということはありうる。しかし、その違いがあるからこそ、きちんと話し合い議論をする、というのが国の果たすべき役割ではないのだろうか。


X.最後に


 最後に、ゲーテの次の詩で締めくくりたい。ゲーテは、「市民の義務」という言葉を残している。
   「銘々自分の戸の前を掃け、そうすれば、町のどの区も清潔だ。
    銘々自分の課題を果たせ、そうすれば、市会は無事だ。」
 実は、義理の弟は立命館の理工学部の教員だったが、昨年がんのために亡くなった。しかし、彼は幸せそうだった。なぜなら、自分の役割として教鞭をとるということを意識し、それを全うしたから。ゲーテの詩からいっても、社会、地域をよくしていくというのは、そういうことなのではないだろうか。


質疑応答


 講義後に質疑応答において、学生より1点質問があった。

@市民と協働したまちづくりのためには、自治体の適正規模があるのではないか。昨今の市町村合併は逆行しているのではないか。
→二つのベクトルが、必要だと考えている。一つは、スケールメリットである。規模が大きくなることで、可能となるものもある(例えば、福祉の予算化など)。もう一つは、デモクラシーの規模。活動をするのに、あまり大きくないほうが良いという場合もあるだろう。この二つのベクトルが、必要だと思う。







県庁HPへ
県庁HP




 


Copyright(c) Ritsumeikan Univ. All Right reserved.
このページに関するお問い合わせは、立命館大学 共通教育推進機構(事務局:共通教育課) まで
TEL(075)465-8472