知事リレー講義
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    2008年4月24日          福井県  西川 一誠 知事
 


「ふるさと」のために何ができるか 〜ふるさと貢献のシステムづくり〜

  西川知事は、ふるさと納税を提唱されている。現在2期目にあたるが、その福井県は原発が15基あり、その数は全国一である。また、高速増殖原子炉のもんじゅも位置している。


T.福井県の概況


 NHKの朝の連続テレビ小説で「ちりとてちん」を放送していたが、あれは舞台が福井県小浜市である。また、今年、福井県庁が新採用したなかで立命館の出身者は2名おり、全体でみれば立命出身者は約50名いる。


U.福井県と白川静先生


  漢字学、文字学の権威であり、立命の名誉教授でもある白川静先生は、福井県の出身であられる。その縁もあり、福井県では白川文字学を小学校で進めている。皆さんは、立命の学生でもあるので、何でもいいから白川先生の本を一冊は読んでほしい。それは、また日本人として漢字学に触れる、ということも意味する。


V.福井県の暮らしやすさ


 福井県が、住みやすい場所であることを示すデータはたくさんある。例えば、都道府県の人口当たりで社長が最も多いのは福井県である。この他にも、車の保有台数、貯蓄高、出生率、共働き率も日本一である。また、失業率は全国で最も低い。
 このように福井県は住みやすいところであるのだが、しかし、住みやすいのと住んでみたいというのは違うかもしれない。これを、今後、福井県に住みたいと思ってもらえるようにしていくことが、仕事の一つと考えている。


W.マニフェストについて


 前回、前々回とマニフェストを導入し、それに沿って政治を進めている。昨今、マニフェストを用いる政治家が増えているが、マニフェストは政治の標準になりつつあるのではないか。
 最初のマニフェストでは「福井元気宣言」、そして2回目では「福井新元気宣言」というものにした。「元気」という言葉を使っているが、最初の頃はまだそのような言葉を政治に用いることは少なかった。しかし、政治にはわかりやすい言葉が必要だと考えて、「元気」という言葉をマニフェストに入れている。


X.学力と希望学について


 昨年の学力統一テストで、福井県は秋田県とともに、全国一位であった。しかし、私は詰め込みだけでは、子供の学力は上がらないだろうと考えている。家庭、地域といった生活の暮らしやすさも影響する。その意味で、福井県は暮らしやすいので、成績がよいのかもしれない。
 また、現在、希望学という学問が生まれつつある。これは現在の、その時点で幸せかどうかというものではなく、「個人が希望を持てているか」「社会が希望を持てているか」について、考える。福井県では、大学と連携してフィールドワークを試みている。


Y.大都市との関係


(*講義の資料として、「『ふるさと納税』に関するアンケート」が配布されており、この箇所を話すにあたり、知事より記入のお願いがあった。)

 大都市と地方との関係は、格差社会に関する議論につながっている。現在、次のような論調がみられる。それは、「大都市は地方の面倒をよく見ている。しかし、地方は自立せず、公共事業に頼ってばかりだ。大都市は、一生懸命に働いてがんばっているのに。」というものだが、本当にそうだろうか。
 例えば、関西地域の電力の半分は福井から供給しているし、水の7割は琵琶湖に頼っている。このように、ライフラインの資源は地方が大都市に提供している。料金を払っているから当然だという人もいるかもしれないが、緊急時のことなどを考えると、必ずしも経済レベルで済む話だけではない。
 その他に、例えば、福井県は生活面の取り組みとして、3人目の赤ちゃんは検診が無料、結婚については「迷惑ありがた」運動(*迷惑ではあるが、ありがたいので)を展開し、行政が支援している。その成果もあり、毎年50〜60のカップルが誕生している。このように、福井県では子供が生まれる前から支援に取り組んでいるが、しかし、大学進学で県外へ出た若者のうち、1,000人しか戻ってこないという現実がある。実は、大学に進学する年齢に当たる18歳までには、1,600〜1,700万円のお金がかかっている。
 福井県に帰ってこないとしても、何らかのつながりは保ちたい。また、大都市が地方の面倒をみて、地方は何もしていないという論調からも心外に感じる。地方は、このように大都市へ人材の供給をしている。ふるさと納税は、地方と大都市との関係を考え直すための、きっかけになれば良いと考えている。
 また、ふるさと納税を提案した背景には、日本人のライフスタイルや働き方に合わせた税制度があったもよいのではないか、と考えていることもある。


Z.ふるさと納税


 ところで、皆さんは今までに何回、引越をされているだろうか。私は、就職してから17回も引っ越している。しかし、それでも、ふるさとといえば、福井である。なぜなら、出身地でもあり、現在は住んで仕事もしているから。「ふるさとはどこか」というのは、人によって様々だと思われるが、そのことがふるさと納税とも関わってくる。
 現在、国会では、地方税とガソリン税の改正について審議している。地方税は今、直接税となる個人住民税として、地方へ直接収めている。ふるさと納税では、そのあり方を考えてみたい。具体的には、個人住民税のうちの1割をふるさとへ納入してもらえませんか、というものである。そして、その1割が今住んでいる都市に対しても、また差し引かれてしまうかというと、いくつか条件はあるものの、基本的にそのようなことはない。
 このように、ふるさと納税では1割だけではあるが、税金をどこに納めるかについて自分で決められる、「納税者主権」の考え方となる。明治の近代化以来、日本では住んでいる場所で、納税するという仕組みだった。しかし、ふるさと納税が実施されると、「ふるさとはどこか」という発想が生まれてくることになる。大局的にみれば、そのことは地方と大都市の関係に変化をもたらすと思う。
 そして、ふるさと納税が進めば、自治体間に競争がもたらされることにもなる。なぜかといえば、納税者がどこを自分のふるさととして認めるのか、問われることになるので。自治体にはPRが求められるようになるし、更に具体的な努力も必要となってくる。違う見方をすれば、これは納税の監視ということになるだろう。


[.寄付文化


 ある調査によると、日本の寄付総額は6千億円ということだが、これはアメリカと比べるとあまりに桁が違いすぎる。政治学的にいえば、公と民の関係ということになるが、寄付文化が日本でも進めば、公と民の関係の変化にもつながる。
 ふるさと納税が進むことによって、日本でも寄付文化が広まるきっかけになれば良いと考えている。法案が審議中ということはあるが、その行方を見守りたい。


質疑応答


 最後に、会場より以下の質問があった。

@自分にとっての「ふるさと」がいくつかあるような場合、分割して納税することはできるか。
→やはり1割なので、都道府県か市町村のどちらかに納めるということにしていただけると有難い。私としては、ふるさとに納められる税の割合が1割ではなく、3割などもう少し増えるとよいと考えているが、実際にはいくつかの議論がある。

A納税者主権というのは、他の分野でも広がりを見せているのか。
→千葉県市川市の例として、1%支援制度というのがある。これは、個人住民税のうち1%を自分の選んだ団体に使ってもらおう、というもの。そのような例があるが、受益と負担のバランスから、制度面で工夫がなされていくとよい。現状では、制度のために、必要以上に税が大都市へ集まってしまっているという側面がある。

Bふるさと納税に関するアンケートで、北海道や沖縄県など、観光地として有名であるが故に「ふるさと」として選ばれ、税を集めやすくなるのではないかという意見がある。これは、ふるさと納税の本来の趣旨とは外れないか。
→そこには、二つの側面がある。まず、納税者の教育、自覚という側面。例えば、ある地方が何か面白いことをやっているからといって、それで納税をするというのは、本来の税のあり方ではないと思う。したがって、納税者の側にも税の本来の仕組み、趣旨を理解してもらうという面が出てくる。次に、「ふるさと」を決められないという問題。制度上、「ふるさと」をどう定義するのか。そこも進めていかないといけないと考えている。

C福井県として、ふるさと意識を醸成する施策はどのようなものがあるか。
→一つは、ホームページを活用している。もう一つは、福井県の政策が全国のモデルになるよう、事業に取り組んでいる。





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