知事リレー講義
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    2008年6月12日         
     特定非営利活動法人パブリックリソースセンター理事・事務局長 岸本幸子様
 


NPOの社会的役割 −社会変革の担い手―

 本日ご講演いただく岸本様が2000年に立ち上げられたパブリックリソースセンターは、日本の先駆的なNPOである。










T.はじめに


  この講義は知事リレーであるが、私は知事ではない。しかし、この講義のねらいというのは、地方自治・公共サービスに関連する話ということで、市民の側からの立場ということに学生の皆さんも興味があると思う。そこで、今日は民間の非営利として活動するNPOについて、そしてどのような問題があるのかをお話したい。また、将来的にはぜひ担い手になってほしいとも思っている。
 私の自己紹介をすると、最初は調査機関で働いていて、80年代に調査をする中で、NPOを知った。また小さなまちづくりにも関わっていたので、そこで寄付やNPOの財政基盤に興味をもって、アメリカで研究をした。その後、日本でNPOを立ち上げたのである。
 パブリックリソースセンターでは、社会変革のためのお金の流れと人材をつくりたいと考えていて、そのための調査、活動をしている。専門としては、社会的責任投資などお金の流れを通して世の中を変えていく、というのが背景にある。




U.NPOとは何か



 1980年代というのは、実は新しい市民活動が登場した時代である。例えば、1983年には「高齢化社会をよくする女性の会」が発足しているが、これは介護を個人だけの問題でなく、社会として取り組もうという問題意識があった。また、1985年には「東京シューレ」というフリースクールが発足するが、これも従来の教育とは違うあり方を提示するというものであった。このように、80年代には当事者が、自分たちだけでなく、社会全体としての問題なのではないか、と動いた時代だといえる。
 それ以前が行政・企業と対立し闘争するものであったのに対して、これ以降は提案型の活動となっていった。当時まだNPOという言葉はなく、こうした活動の公的な受け皿もなかった。財団や社団法人の設立は敷居がとても高く、この世界にいる人たちでアメリカやイギリスの法律を調べることもやった。そして、95年になって特定非営利活動促進法が生まれたのである。




V.NPOの社会的役割


 私がNPOに最初に出会ったのは、実は子供が生まれた時。当時、今からおよそ25年前だが、まだ男女雇用機会均等法もなく、人事やキャリア制度も男女別のものであったものの、会社は育児と仕事の両立に理解を示してくれた。しかし、役所が問題だった。子供をゼロ歳児保育で預けたいのならば、新年度の始まる4月に生まれるよう計画的にやりなさいと言われたのである。そこで、民間のベビーシッターや保育サービスを探したが、どこにもそういうサービスはなかった。当時は、行政にも企業にも、働く女性の育児を支援するサービスはなかったのである。
 そして、その中で共同保育という、働く親や地域の人たちが行っているところで子供を預けながら、子育てと仕事を進めていくことができた。
 これが、私がNPOと出会った最初であるが、ここからNPOの役割というのを次のようにいえると思う。まず第一に、行政も企業もやっていない先駆的なサービスを、NPOがやっているということ。第二に、NPOというのは自己表現、自己実現の場ということ。私は、共同保育を知ってプレッシャーから解放され、とても助かった。第三に、社会的な変化をNPOは促進するということ。確かに、少子高齢化という社会的な変化はあるが、それとプラスしてNPOが変化を進めてきたという面は否定できないと思う。
 いまNPOに関心が高まっている理由の一つは、社会問題が山積していることにあるのではないだろうか。しかも、問題が複雑化、複合化している。行政が対応しにくいのは縦割りというだけでなく、その問題に対して全人的に取り組むことが求められているからだと思う。NPOなら、多面的につなげていくことが期待できる。
 また、NPOが存在する理由として、「政府の失敗」から説明しようとする場合があるが、これは本質とはいえない。最初は、民間の問題を抱えた当事者から始まっている。それを捉えることが、重要なのではないだろうか。

W.NPOのマネジメント


 ここまでNPOは社会性を担っているという話をしてきたが、しかし、NPOのマネジメントはとても大変なものである。
 非営利ということでよく間違われるが、儲けてはいけないというのでなく、「収益を分配しない」という非配分の原則という意味である。ここは誤解しないでほしい。
 NPOのマネジメントは、ミッションを実現できているかどうかで評価されるものだと思う。例えば、地域の活動でよくあるものに配食サービスがある。これは、営利のお弁当屋さんとは全く違う。設立の目的も食材、サービスの付加も違う。例えば、企業も同じサービスをすることはあるが、そこには収益を出せるマーケティングが前提となってくる。しかし、NPOの場合だと、誰もがこのまま地域で暮らしていってほしいと願って、活動をしている。また、NPOの場合、ドライバーさんや野菜を提供してくださる方など、支えてくれる第三の資源提供者がいる。それが、私は「パブリックリソース」だと考えている。つまり、NPOは社会を変える意思を受けて活動をする。
 このように、NPOのマネジメントには、二つの側面があるといえる。それは、言い換えれば二つの顧客がいるということ。サービスの受益者と第三の資源提供者。それでは、なぜ支援、サポートをする人が現れるのか。それは、そこに共感があるから。それでは、なぜ共感するのか。それは、そこにミッションがあるから。だから、NPOのマネジメントでは、ミッションが根底に来る。日々、仕事をしていると、事業の拡大や職員の雇用に意識がいきがちだが、本当はこっちが一番難しい。



X.他のセクターとのコラボレーション

 協働、パートナーシップということがいわれるが、それは本来、違う能力をもった者どうしが共通の目的に向かっていくこと。行政には、公平・平等が価値として求められる。それに対して、NPOは課題と意思のあるところに、個別に対応できる。それで、行政とNPOが協働することで、公共サービスへの量と質に対応することが可能となってくる。
 しかし、行政によるパートナーシップの条例や制度は、現状ではNPO特別枠みたいなものになってしまっているのではないか。しかし、そうでなく、日常、普通に行われるものとしての枠組みが必要になってくると思う。例えば、NPOはなかなか公的な機関のネットワークに入っていけないという問題がある。それを、情報の共有、予算、公的機関としてのNPOの立場などを特別枠でなくて、通常のものとできるよう自治体の職員に意識改革が求められていると思う。
 施設の指定管理者制度にしても、その施設の公的な目的を知っている行政の職員が少ないために、現状はあまりうまくいっていない。発注する側の自治体が何が提供されるべきなのか理解できていないので、運営費などの価格が評価にすりかわってしまっている。






Y.NPOの直面するチャレンジ

 社会的な存在としてのNPOということを話してきたが、そのような存在だからこそ、NPOには社会的な事業体として、組織の持続可能性が問われる。今、実はNPOの6割が1千万円以下の財政規模でやっている。そして、1千万円以上あるNPOでも、有給職員がいるのは6割にすぎない。同規模の企業と比べると、財政、雇用が不安定。このような雇用の不安定さが、NPOの組織としての持続可能性を弱めてしまっている。
 しかし、一方で、それと別に、例えばフリーターやシェルターにいてこれから自立していこうという人などが、一定期間、社会に出ていくための働く場としても、NPOには役割があると考えている。
 NPOで働くことに興味を持っている方もおられると思う。NPOで働くというのは、起業家的なセンスが必要になってくる。そこで雇ってもらう、という気持ちではとてもやっていけない。ある社会問題に対して、それを解決していくための事業をする。そのために入っていくのだという気持ちがいる。
 そして、皆さんにはぜひ、ずっとでなくてもいいので、一時的にでかまわないから、人生のどこかでNPOで働いてみてほしいと願っている。社会の知らなかった側面が見えてくると思う。また、もう一つ。寄付やお金によっても、社会を変えていくことはできる。例えば、「ガンバNPO」というオンラインのサイトで寄付をすることもできる。ぜひ就職してから、初任給の0.5%でも、千円でもいいから寄付をしてみてほしい。これからの人生の糧になるだろう。



質疑応答


  最後に、学生より以下の質問があった。
 @NPO支援に対して行政ができることと、NPOどうしの連携を深めていくにはどうしたらよいか。
→三つあると思うが、一つは支援から、真の意味でのパートナーへと考えを変えていくこと。支援というのは、発想としてもう古い。二つ目に、行政にできるのは、NPOが出している決算、収益のデータをオンラインで公開すること。各NPOの情報は行政に集まっているのだから、これを公開することで各NPOを地域で知ってもらうための契機とできる。三つ目に、NPOを支える仕組みを官民協働で、地域の中でお金が回る仕組みをつくれるとよいと思う。
 A市民活動への参加は希薄していないか。
→地縁ということでは、確かに地域コミュニティでの関係性は希薄になっているかもしれない。しかし、一方で、課題ごと、よくイシューというが、それは高まっていると思う。例えば、学生のスタッフやインターン、あるいは定年後の第二の人生としてというは、この10年で増えていること。ただ、30代、40代の働き盛りの人たちにNPOに入ってきてほしいとは思う。







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