知事リレー講義
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    2008年6月26日            前大分県知事 平松守彦様
 


地方自立への政策と戦略 
    −アジア・アフリカへ広がる一村一品運動―


 この知事リレー講義は7年前に始まったが、その時の講師のトップバッターが実は平松前知事であった。1979年に大分県知事に就任され、その当時はまだ主流であった陳情政治を変えようと試みられた。なかでも、村に何があるかを見つけてそれを育ていく、「一村一品運動」が有名である。また、立命館のアジア太平洋大学の設立にもご尽力を頂いた。そして、知事をお辞めになられてからは、それまでのご自身の活動を学術的にまとめられて、本学で博士号(政策科学)を取得されている。。






T.はじめに


  私は大分市の出身なのだが、別府温泉はある程度知られていても、大分県というのはあまり知られていなかった、というのが以前の実態である。そんな中、私は1975年に当時の知事に誘われて副知事になり、その知事が引退した1979年に知事に就任した。そして、2003年まで6期24年勤めた。




U.地方自立の必要性



  知事になって痛感したのは、もっと地方が権限をもって自主自立を進めていくことの必要性である。例えば、予算のことでも、月に3回は東京へ行かないとならない。そして、その3回とも、全て1泊2日で泊まってくることになれば、1ヶ月に6日は東京、つまり1年のうち約2ヶ月半は東京にいることになるのである。それに、東京へ行くのは「上京」、電車も「上り」という。東京は偉いということなのだろうか。
 明治以来、日本は中央政府が主導している。皆さんにも考えて頂きたいのだが、実は英語にも中央政府を表す単語はない。アメリカなら、連邦と州しかない。連邦は中央ではないのである。
 日本でも、東京が全てやるというのでは尚更、東京への集中が加速する。それでは、日本はうまくいかないのではないだろうか。地域の自立が必要だろう。


V. GNS社会と地域発展の戦略


 一般には、GNP、つまりGross National Product、意味は国民総生産であるが、これが社会の豊かさの指標となっている。しかし、所得を上げることだけでいいのだろうか。
 そこで、私はGNS社会というのを提唱している。GNSとは、Gross National Satisfactionの略で、地方で暮らすことに満足する社会を目指しましょう、ということである。
 そのために私は、二つの地域発展の戦略を考えた。内発的発展と外発的発展である。内発ということで取り組んだのが、一村一品運動である。また、外発的なものとしては、企業誘致がありえる。しかし、これには公害や過疎などの問題が伴いがちであり、問題もある。そこで、地域発展の戦略として、私は既に地元にあるものを活かすという内発的なやり方こそ、地域にある資源、文化で活発していくことになるのではないかと思う。
 また、人材も東京に集まってしまっているので、人材の育成も地方でできないかと考え、アジア太平洋大学を立ち上げた。東京で学び、そこで生活するというのでなくて。地域で考えて活性化していく、その中で若者も育っていく。このやり方、決め方こそ、日本の新しいやり方になりえるのではないだろうか。


W.ローカルにしてグローバルということ


 私は知事を6期務めたが、その24年で大分の県民所得はおよそ倍になり、そして九州で見れば、福岡も抜いた。それを支えたのが、一村一品運動である。その根底にあるのが、「最もローカルなものが、世界に広まる」というグローカルの発想である。
 例えば、どんこと呼ばれる干し椎茸。これは安全を売りに、中国にも輸出しているし、日本でも34%を占めている。また、カボス。これは農協がジュースとして売っている。これは付加価値をつけることでうまくいった、一つの例である。なぜなら、カボスをそのまま売ってしまえば農家の売り上げは微々たるものだが、彼らが自分たちで工夫してジュースにして付加価値をつけたから、自らの売り上げとできたのである。更に、焼酎。昔は、大分にお客さんがやってきても、地元の者は自分たちの焼酎を恥ずかしがって出そうとしなかったくらいだった。それを私も自ら東京で売りにまわって、今では日本で有数のものとなった。
 これが一村一品運動の成果であり、工場の誘致ができなくても、地元の産品を工夫して全国へ売ることでブランド化が十分に可能なのである。自動車工場を誘致するよりも、よっぽど所得を高めることができる。
 また、湯布院は全国的に有名だが、ここも観光客が増えた。人口は11,000人だが、観光客は2004年には288万人となった。最近ではグリーンツーリズムも開催しており、全国の先駆けの存在となっている。
 先ほどカボスの話をしたが、農業もただ市場で売るだけなら1次産業である。しかし、加工して売ることで2次産業となり、自らがサービスして売ることで3次産業となる。つまり、1+2+3=6次産業であり、それがこれからの農業なのである。
 そして、一村一品運動は知事からの命令ではない。自主自立、創意工夫の取り組みである。補助金がもらえるからというのではない。失敗してもあきらめない。このように地域の活性化はあくまでも民間の発意であり、そして行政がやるのはその後押しである。一村一品運動で大切なのは「継続は力なり」。失敗してもあきらめずに、自分たちで考えて続けることである。



X.ローカル外交とソフトパワー

  大分県のある九州の位置は、韓国、中国、そしてアセアンの国々と最も近い場所にある。19世紀はイギリス、ヨーロッパの時代。20世紀はアメリカの時代だった。そして、21世紀は東南アジアの時代である。なぜなら、この地域の人口、経済はこれから世界で最も伸びると考えられているからであり、大分、九州はその主役足りえる場所に位置している。
 東南アジアも大都市に産業が集まり、農村は栄えていないという構図がある。しかし、最近ではこれらの地域も一村一品運動に取り組んでいる。私もよく呼ばれたりして、出かけている。
このように、一村一品運動はローカルな外交を展開していて、それはソフトパワー、スマートパワーと呼ぶことができる。それは、ハーバード大学のナイ教授の言葉であるが、軍隊などのハードパワーでは国際交流はできない。無理がある。一村一品運動のような、ソフトパワーこそ交流を促すといえる。それこそが、グローカルな外交なのである。


質疑応答


  






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