知事リレー講義
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   2008109            高知県知事 尾崎正直様
 


「地方の中の地方はどう生きるか」

 尾崎知事は、1967年生まれの41歳。大阪の橋下知事が登場するまでは、全国で最年少の知事であられた。橋本前知事の後を受けて、昨年の12月に就任された。

















T.高齢化の経済への影響


高知県というところは、地方の中の地方だと思う。そのような、いわば「田舎の中の田舎」がどう生き残ればよいのか、それを今日は皆さんにお話しようと思う。なぜなら、高知県の高齢化率は全国よりも高いのだが、そうした少子高齢化の問題はこれから全国に広がっていくことになるからである。特に、学生の皆さんが40代になった時、そのインパクトに最もぶつかることになると思う。是非とも、知恵を絞って立ち向かっていってほしい。
 高齢化によって、人口が減れば、その分、経済へも影響が出る。例えば、消費が減ったり、主な働き手の人たちが減ったりすれば、お金を使う人たちも減ることになり、大不況になっても不思議ではない。このように、人口構成の変化が経済に及ぼす影響はとても大きい。
 そのことは、かつての高度成長を振り返ってみても分かる。高度経済の時代というのは、農村から都市へ働き手が出てきて、それに伴い消費も伸びた。それが、オイルショックによって一服感が出て、高度成長も終わりを告げたのである。
 また、高齢者が増えたことにより、高齢者向けの商品、例えば、福祉関連のものなどは売れるようになっている。一方で、若者の割合は減っているので、若者向けのものは売れなくなってきている。例えば、かつてのディスコのようなものは今ではあまり見られない。
このように、人口構成の変化は、経済に大きく影響する。
 そのような人口における高齢化の影響は、高知県ではすでに始まりつつある。例えば、91年より人口が自然減の状態となっているが、これは全国よりも10年早いといわれている。高知県の経済状況も、あまり著しくはない。県民所得は全国46位で、有効求人倍率も全国は回復の傾向にあるにもかかわらず、高知県はほぼ横ばい。新規高卒者も、県外での就職が多い。
なぜ、高知県の経済は回復しないのだろうか?私は知事になるまで財務省で仕事をしていたが、そこで気づいたことが一つある。それは、愛知県のように有力な地場産業を抱え、海外に輸出しているところは強いということである。つまり、外へ打って出られることが望ましいといえる。ただ、輸出といった場合は実際には大変なので、せめて他県に経済的な活動をしていけるようにならないといけないと思う。
全国の都道府県はアンテナショップをもっているが、高知県の場合は北海道や沖縄県に比べて、いまひとつ知られていない。つまり、外への存在感がないというのが現状である。これは課題の一つなのだが、再来年のNHK大河ドラマでは『竜馬伝』も放送されることもあるし、ぜひ高知県に関心を持って頂けたらと思う。
しかし、高知県にも特産品がある。それは、馬路村の柚子。これはとても有名で、高知県が外へ打って出られるものの一つといえる。また、馬路村では、人口比に占める若者の割合は増えている。このように、特産品を外へ売り、それによって若者を呼び込むことができているという流れは、地方が本来の生きる手段である。県外へアピールし、プレゼンスを高めることにもなっている。

 



U.強みを伸ばす



それでは、外へ打って出られるような力のあるものをどのようにして、伸ばしていったらよいのだろうか。それが、次の課題となる。
 実は、高知県は、第一次産業では全国の上位を占めている。また、一次産業の就業人口の割合も、全国の8%に対して、12%と高い。これをより伸ばしていくために、一次産業の優位性を第二次、三次産業にまで波及させていく必要がある。
 一つのやり方としては、食品加工をするなどして、付加価値を高めていくことである。実は、農業においても、千葉県や茨城県のような都心に近い地域が売り上げを伸ばしてきている。これは、消費に近い場所で、売ることのできる仕組みが考えられるようになってきたことによる。したがって、都会は工業、田舎は農業といえなくなってしまった。工業も農業も都会、となってしまった。
 そこで、やはり付加価値をつけていくという方法が、有効だと思う。加工食品であれば、鮮度の問題もなく、距離もハンデとはならない。また、幸いなことに、高くても良いものは売れるようになってきた。このような第一次産業の強みを、他の産業へも波及させていくことが、次の課題といえる。
 



V.将来の展望


リクルート社の調べで、高知県は全国で食べ物が美味しい地域の上位に選ばれた。食べ物が美味しいというのは、素材の良さや雰囲気の良さが影響していると思う。先に高齢化の話をしてきたが、高齢者が増えるからこそ、自然回帰が求められ、高知県の食べ物が受けるのではないだろうか。
 高齢化に関連して話をすると、高知県は、県道の改良率が全国でワーストである。人口は減っていくのだから道路はつくらなくても良い、と考える人もいる。しかし、田舎では山間部で独居老人が増えるという問題がある。医療の向上にあたっては、単に診療所をつくるというだけでは駄目で、道路をきちんとしてアクセスを良くし、集落間のポイントに診療所をつくっていくという発想が必要になってくる。
 医療を発展させようと思えば、財政の問題も考えなくてはならない。よく財政赤字が議論の的になる。しかし、算出方法や目的によって変わってくるので、赤字か黒字かのみを議論しても意味がない、と私は考えている。
 財政は、義務的経費として固定するものと、政策的な裁量的経費として弾力的に運用できる二つとに分けられる。そのことを踏まえて、地方財政の硬直化に対応していくことが必要となる。



W.終わりに


 
今日は、主に高齢化と経済への影響について話をしてきた。しかし、それは高知県だけの問題ではなくて、各地方にも当てはまる話である。目をそらしていては、日本は社会の低下しかないだろう。










質疑応答

@「外へ打って出ていく」ために、それを実現するにはどうすれば良いか?
→気づいた時点で、対応していくことが必要だと思う。高齢化の影響というのは緩やかなので、気づきにくい。高知県の人口減少は91年からなので、高齢化が経済や消費にどう影響するのか分かるようになった。

A人口を増やすためにどう取り組めばよいか?
→子供はこれからも生まれてくるが、彼らが働けるようになるのは20年後なので、それまでは高齢化への対応が必要となる。それが、第一の前提。
その上で、国と地方とで取り組みが必要となる。国であれば、働きながら子育てのできる環境をつくっていくことが必要。育児のために離職、復職することが嫌で、子供を生まないという傾向もある。また、地方では、出会いの場をつくっていくのが良いのではないか。行政が支援をするというのは、意外と良いようである。

  




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