知事リレー講義
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   2008年10月16日             兵庫県知事 井戸敏三様

 



「関西発! 地方主体の分権改革」


 井戸知事は1996年、副知事として阪神淡路大震災の復旧に尽力された。そして、2000年に知事に就任され、現在は2期目である。











T.はじめに


 今、国会では「ねじれ現象」が生じており、政治はきちんと動いているとはいえない。また、経済を見ても世界的な金融不安が生じている。そして、大分県の教員汚職問題や年金の改ざん、食の不安など社会にも不安が広がっている。私はこのような時代だからこそ、地方の自立が必要だと考えている。



U.兵庫県の概要



 兵庫県は、「日本の縮図」と言われている。それは、一県が日本海から瀬戸内海にまたがり、また離島がありながら豪雪地帯も有していることから言えるのだと思う。世界に開かれた神戸港もある。広い県ではあるが、県民所得の差は2割程度で格差があるという状況ではない。
 


V.兵庫県の最新の話題と取り組み


 現在、兵庫県では、次のような取り組みを行っている。例えば、豊岡ではコウノトリの放鳥を行った。これは、ただ放せばよいというのではなく、自然の中で生きていけるように「環境創造型」を目指した取り組みである。コウノトリとの共生ということで、農業も展開している。
 また、去年、丹波市では恐竜の化石が発見された。体全体の骨がほぼそのまま見つかるという、同一個体の珍しいもの。これは、比較研究のための基準化石となる可能性を秘めている。
 山陰地域では、ジオパークの構想も練っている。ここには、日本列島の地層が形成された過程がそのまま残っているのである。また、活火山でもないのに温泉があるなど、ユニークなので、ユネスコに指定されるよう頑張っている。
 ところで、今「限界集落」と呼ばれる山間地域が議論されるようになっているが、兵庫県にもそのような地域がある。先日、私もそこの地域の人たちと会ってきたのだが、「30年後も今のままで良いのでしょうか」という話になった。そこで、小規模集落元気作戦と名づけて、地域の人たち自身が頑張ることと、都市部の人たちにパートナーとしてやってきてもらうという事業のモデル化を試みている。
 また、尼崎では製鉄所の跡地を利用した21世紀の森構想を推進している。これは、製鉄所が20世紀を支えてきたので、それでは21世紀は自然だというアイデアに基づいている。


W.三位一体改革と地方財政


  小泉内閣時代に、三位一体の改革が行われた。しかし、その結果、地方交付税が大幅に削減され、苦しくなってしまった。問題なのは、地方にツケをまわして、国はあまり努力していないことである。加えて、兵庫県は震災からの復興に伴う財政の負担がある。兵庫県の実質的な公債比率というのは、実は北海道についでワースト2位。したがって、ここは何とかしたいと考えている。
 財政運営の方針としては、今年度はプライマリーバランスの黒字化を達成することができた。
その他の改革として、本庁組織の見直し、定員の削減、事務・投資事業の見直しを進めている。しかし、単に事業を見直せばそれで良いというのではない。社会的な環境を踏まえて、見直していくことが必要となる。したがって、事務事業は低所得者への対策や少子高齢化を意識した見直しを推進している。また、投資事業については一気に削減するというのはなく、地域経済への影響を考慮しつつ、漸減していくという手法をとっている。
今までは震災復興のため、「全方位型」であったが、今後は課題対応型の予算編成を目指している。


X.道州制と関西広域連合


 道州制をめぐる議論が聞かれるが、それによると大体、次のようなことがいわれる。それは、都道府県の廃止、統合による広域行政体の誕生、自立に伴う権限の付与などである。しかし、実際のところ、そうしたことが必要かどうか、具体的に詳細をつめようとすると、あいまいな部分が見えてくる。広大な面積をもつ地域と、そうでないところが一律に議論されているし、地方行政の効率化にのみ焦点がいってしまっている。中央政府がどうなるのかという点については、はっきりしていない。
 そのため、道州制について、いくつかの懸念が生じてしまう。例えば、道州制を実施すれば、日本の社会や経済は再び活発化するといわれるが、本当にそうだろうか。国の行財政改革の手段になってしまっていないだろうか。
 先にも触れたが、道州制の議論では、中央をどう扱うかがあいまいなまま話が進んでしまっている。中央が自らを解体することなど、実際には無理だろう。また、国の出先機関をただ統合するだけでは、かえって中央集権化が進んでしまう。
 現状は、上からの改革になってしまっている。これは「小を大にする」発想だといえる。しかし、いま必要なのは、松下幸之助が言ったように「大を小にする」発想だろう。そこで、広域連合を活用したらどうだろうかと私は考えている。それによって分権の広がり、広域行政の展開、二重行政の解消が可能になると思う。
 例えば、防災がこの良い例である。現状では、自治体を超えた活動はやりにくいが、広域連合となれば、広く活動しやすくなる。同じことは、医療、観光、環境にもいえる。琵琶湖の川鵜が兵庫県にまで来ていることへの対応などは、もっとやりやすくなるだろう。
 このような広域連合を活用して、実行可能な事務から、最初は一部への参加でも構わないからやっていけば良いと思う。

Y.終わりに


 話を締めくくるにあたり、現在、開催している「あいたい兵庫デスティネーションキャンペーン」を紹介させて頂きたい。JRと結んで、兵庫県の魅力を発信している。具体的には、元気で安全、安心な兵庫を目指している。皆さんにも、ぜひ兵庫県に来て頂きたいと思う。









質疑応答
 @震災以降、防災への意識は変化したか。
→住民の防災組織の割合は、20%から90%へと増えている。しかし、震災の記憶が風化していたり、震災自体を知らない世代も増えてきている。今後、東南海地震が想定されるので、それに向けて取り組んでいきたいと考えている。
Aエコ対策で何かしていることはあるか。
→兵庫県のCO2削減目標というのは、実は国よりも高い数値を設定している。これは、兵庫県には製造業が多く、産業界の協力を得て、条例を策定できたからだと思う。
B学力テストの公開について
→実施前に、公開しないという約束をしている。善い悪いでなく、その前提を破ることはできない。したがって、各市町村が自主的に判断するということになるのではないか。
  




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