知事リレー講義
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   2008年10月30日             石川県知事 谷本正憲様

 



「世界的環境問題への石川からの挑戦」



 谷本知事は、兵庫県のご出身。1991年に石川県の副知事に就任され、95年の前知事の急逝に伴い、石川県知事になられた。現在、4期目。








T.はじめに


  私は学生時代を京都で過ごしており、今日はとても懐かしく感じている。
 学生の皆さんには、今日の話を通してぜひ地方自治への理解を深めて頂きたい。また、石川県の環境問題への取り組み、及び生物多様性の話についても関心を深めてほしいと思う。環境問題は洞爺湖サミットの課題でもあったが、これは国家だけでなく、地方にとっても大切な課題である。



U.石川県の四つの個性



 石川県は、京都からサンダーバードでおよそ2時間弱。南北に200kmと細長く、人口は170万人ほど。このような石川県には、四つの個性がある。具体的には、江戸時代から続く伝統文化、高等教育機関、中小企業の集積、能登や白山などの自然である。
 まず、伝統文化について。これは、加賀百万石の400年の伝統と質に支えられている。人間国宝が8人おり、これは全国3番目の多さを誇る。また、36の伝統工芸を有している。加賀では徳川への恭順から弓武芸を作ることはなかった。そのため、お金は文化の振興に使い、これが石川県の土台となっている。そのことは、新井白石も賞賛したほどである。また、文化人や学者を招聘し、それが教育機関の発展にもつながっている。
 また、石川県にはニッチな分野でトップを占める中小企業が多い。これは、ある雑誌の調査によれば、東京、大阪に次ぐ数の多さということである。ここにも、伝統文化の蓄積が影響しているし、土壌があるといえると思う。皆さんにも馴染みのあるものとしては、回転寿司のベルトコンベアがわかりやすいだろうか。これは、石川県の会社のものがトップを占めている。



V.石川県の環境問題への取り組み

 地球温暖化は、国、地方を問わず、今や大きな問題となっている。しかし、温室効果ガスそのものが悪者という訳ではない。これ自体は、寒さから助けてくれるというものだった。ただ、二酸化炭素の割合が上昇してしまったことにより、温室効果ガスも増えてしまった。この10年で進行している。例えば、金沢と京都の年平均気温の変化からもそれは分かる。
 京都ということでいえば、1997年の京都議定書に話がいくと思うが、これには途上国の削減義務がなく、アメリカの離脱などデメリットもある。日本としては、国と自治体とで取り組んでいくべき課題だと思う。
 二酸化炭素の発生源は、産業、民生、運輸という三部門が主なもの。実は、石川県では産業ではなく、民生、運輸のCO2排出量が多く、しかも民生分門からの排出がここ数年で増加している。これは、県民の日常生活と関係しているからだが、そこに難しさがあり、工夫が求められる。
 そこで、石川県では、「いしかわ版環境ISOのしくみ」を設けた。通常のISOは企業が対象であるが、その発想を学校、地域、家庭にも取り入れられると考えたからである。ただ、あまり要求が厳しすぎても駄目で、また啓蒙だけしても行動が伴わなければ意味がない。そこで、ハードルが低く実現しやすいものとした。また、数値目標を定めて、達成した満足感を得られる仕組みを目指した。
 具体的には、ごみの減少、エコクッキングやエコバックの導入などがあり、その中でコミュニケーションも活発になって世代間の交流にもなっている。最近では、これらに取り組んでいる家庭の金利を高くしてくれる金融機関も登場している。その金融機関にとっては、社会貢献ということになっている。
 民生部門の中には会社の事務、オフィス部門も含まれていて、中小企業が取り組みやすいように「いしかわ事業者版環境ISO」を設定した。半年で目標の3分の1が登録してくれて、中小企業にとってはそのことがステータスにもなっている。
 県民が参加できるものとしては、「県民エコライフ大作戦」を展開している。これは、取り組み用のシートを作成して、CO2の削減が一目で分かるように工夫してある。去年の場合だと、1週間で家庭のうち15%が参加してくれた。今年は、子供も参加しやすいように夏休みに行ったり、期間を選べるようにも工夫した。
 学校や地域での取り組みとしては、「エコギフト事業」を実施している。これは、ご褒美と検証の仕組みを取り入れている。頑張ってくれたところにエコ商品をプレゼントし、それを使ってもらうことで、よりCO2削減に役立ててもらおうというものである。
 その他には、運輸部門で、車の燃費削減のために技術革新を目指したり、アクセルの急な踏み込みをしないなどの取り組みを進めている。こうした動きは、県内の自動車学校と連携してエコドライブ教室を開き、県民にも好評を博している。更に、免許更新の際にも学べるよう、警察とも協力してエコドライブ推進協議会を立ち上げている。
 また、県庁でも取り組みをしようということで、第二水曜をエコ通勤の日とし、8割が参加している。



W.生物多様性の確保


 生物多様性は、実は、適度に人の手が入ることで自然が維持され、更にその営みが人間の生活にも還元される、という側面に支えられている。これが、乱獲の防止や、外来種の防止、希少な種の保護につながっていく。つまり、適度に人の手が入ることで、自然が守られるのである。その良い例が里山、里海である。
 里山の問題というのは、農林業の衰退と関係している。農林業は、生活や消費の変化し、燃料が薪や木材から石油、石炭に変わったことに伴っている。その結果、農林業の担い手が減り、里山も荒れてしまった。
 これをどう維持するか。石川県では色々な取り組みをしているが、一つは国連大学の高等研究所を誘致できたことである。これは、国際社会が里山、里海の価値を認め、石川県に拠点をおこうと決めたことを意味している。国連大学の研究所を誘致したことがきっかけで、私はドイツでCOP9が開催された際、基調講演を行った。そのことはまた、国際的な強い関心を自覚する機会ともなった。実は、里山に英訳はなく、Tsunami(津波)と同様、Satoyamaで世界の共通語として通じるのである。
 また、石川県では、県民の里山への参加を促す条例をつくった。これは、NPOのような里山活動団体と土地所有者とを県が仲介、支援しようというものである。
 先に触れたように、農業振興の観点からも里山は重要なので、その担い手支援策や仕組みづくりにも取り組んでいる。それについては、先般、事務機器メーカーのリコーと応援協定を結んだ。
 その他にも、石川県は景観保護条例を定めている。景観と屋外の広告規制を、全国で初めて一つの条例で扱うことにした。これは、眺望や沿道、町並みだけでなく、里山の景観まで視野にいれてのことである。
 今後は、ビオトープや石積み護岸を整備してモデル化し、農地の整備にも取り組んでいきたいと考えている。また、COP10が名古屋で開催されることが決まったので、県として金沢大学や国連大学ユニットと協力し、国際的な発信にも取り組んでいくつもりでいる。



質疑応答
@北陸新幹線の導入について
→新幹線というのは、車と比べて排ガスを出さず、また一度にこれほど大量の輸送を可能にする乗り物はない。その意味で、環境に優しい乗り物だといえる。首都圏からの観光、人の流れを増やし、それを金沢、能登だけでなく、全県に普及させたいと考えている。

AISOについて、家庭や地域にはどのように還元しているのか?
→まず、達成感を実感してもらうようにしている。その上で、少しずつハードルを上げて、取り組みを重ねていってもらうようにしている。これは、民生部門が最も難しい。罰則を科すことはできないから、継続していくことが重要になってくる。

B事業者版ISOを取得するメリットは?
→県知事名で取得証を発行しているので、その企業の社会的な評価を高めるのに役立っている。

  




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