知事リレー講義
ライン
   20081211       読売新聞 大坂本社 論説委員 田口晃也 様



「報道する側から見た『知事力』−最近の事例からー」



T.はじめに

 地方分権が話題になっているが、しかし、その主役である知事を間近に見られる機会というのは、実はそうない。したがって、知事に直接お会いして仕事ができるというのは、とてもよい勉強の機会である。今日は、私が取材の仕事を通じて知事をどのように見てきたのか、課題を取り上げながらお話したいと思う。

U.知事とのかかわり

 私の記者としての経歴をからめながらお話しすることになるが、私が最初に勤務したのは大津である。そこで、滋賀県庁へ行き、当時の滋賀県知事でおられた武村正義さんを取材することになった。記者の仕事というのは、最初に接した現場が影響してくるのではないかと思う。相手の感情、息吹が伝わってくるのである。

 武村さんについて、私が印象に残っているのは、外国の自治体との付き合いの中で、「滋賀政府」と署名しておられたことである。今は珍しくないかもしれないが、当時は地方自治体のことを「政府」というのは、とても新鮮であった。

 その後、他の知事を取材する機会などもあったが、しかし、最初に武村さんを見ているだけに、知事というのも様々だというのが率直な印象である。



V.大戸川ダムの例から

 次に、最近の大戸川ダムの例から、知事がどう変化しているのかについて見てみたい。これについては、まず地域間で利害が異なっているということをおさえておく必要がある。大戸川ダムの上流にあたる滋賀は、琵琶湖から多くの水を出したいと考えている。一方で、下流に当たる大阪は、大雨の時、できるだけ水をせきとめたいと考えている。

 それでは、なぜ本来は異なる利害をもつ地域の知事どうしが、反対の共同意見を出せたのか。国が建設計画を進めようとしているのに、立場の異なる知事が協力するというのはとても珍しい。なぜ合意できたかというと、滋賀、京都、大阪、三重の4県の知事が分権を意識し、そのためのステップと考えることができたからではないだろうか。

 大戸川ダムの問題を見ていると、実は専門家の間、つまり国と流域委員会の間でも意見が分かれている。このように専門家でさえ意見が分かれるのなら、自分たちのことなのだから自分たちで決めようと知事が考えたとしても不思議ではない。また、実際の問題として、自治体の資金難、財政の苦しさというのもあると思う。更に、脱ダムの世論も後押しになったと思われる。

 こうした背景があって、4人の知事たちは利害をこえて、協力することができたのではないだろうか。そして、この大戸川ダムの例は、主に三つのことを示唆しているといえる。まず第一に、中央と地方との権力争いという側面である。従来であれば、地方どうしの争いを国が調整していたが、分権のためには地方が自分たちで利害を調整し、国に入らせないようにしている。

 次に、公共事業を見直す仕組みが必要なのではないか、ということである。このことは、以前からも指摘されている。

 そして、三番目に、専門家の威信というものが低下してきているのではないだろうか。自治体と国の出先機関、例えば今回は近畿整備局のどちらが正しいとは言えなくなってきている。だから、知事たちも政治として動いたし、動くことができた。

 このように大戸川ダムの例は様々なことを示しているが、なかでも特徴的なのは、やはり自治体どうしが、自ら利害調整を行ったという点にあるだろう。こうした動きが増えてくると、分権のあり方も本当に変わってくるのではないだろうか。
 


W.知事像の変化


 
大戸川のケースもそうだが、最近は知事が全面に出ることが多くなったような印象がある。私もそう思って、30年前の1978年と比較してみた。そうすると、実は官僚出身者が増えていることが分かった。これは、官僚や国会議員以外の出身が多いというイメージとは反対である。

 この背景には、官僚の地位の低下があり、転身が増えているのかなとも思われる。一方では、地方の重視、分権への注目というのがトレンドとしてあるということなのかもしれない。

 いずれにしても、知事が全面に出てきているという印象は、知事の情報発信が増えていることの影響だとは言えると考えている。

 今後、知事の存在は住民にとって更に増加していくと思われる。知事の仕事も、役人としての位置から政治家としての役割が求められてきているのだろう。政治家のとしての比重は、ますます高まっている。


質疑応答

@ 嘉田滋賀県知事は大戸川ダムのケースでは意見が変わる場面が見られたが、リーダーとしてはどうなのか。

→状況に流されやすい人なのかもしれない。リーダーの原則という面では、あまりよくない。意見が変わるのであれば、周囲が納得できるものをもっと説明しないとならない。知事の本心が、まだ伝わっていないのではないか。おそらく、政治的な環境の変化もあるのだろう。

A 世論について、どう感じているか。

→安倍、福田の両首相の時を見ていると、最近の世論はちょっと攻撃的かなと映る。個人の資質に対して、ワイドショーのように関心が移りすぎているように思う。政策への判断が後退しているのではないだろうか。90年代は、もう少し政策論議になっていたような気がする。



  





県庁HPへ
県庁HP



 


Copyright(c) Ritsumeikan Univ. All Right reserved.
このページに関するお問い合わせは、立命館大学 共通教育推進機構(事務局:共通教育課) まで
TEL(075)465-8472