知事リレー講義
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   20091月 17      京都府副知事 猿渡知之 様


「共同体機能の創造と地方行政の未来」


T.はじめに


   戦後から高度成長期にかけては、公務員制度や行政の仕組みが出来上がった時期にあたる。それが今、変化を求められる時代が到来したといえる。



U.共同体の崩壊と行政の役割

 
  以前は、共同体による相互扶助が成り立つ社会であった。しかし、日本では村落共同体はもう崩壊してしまっている。したがって、農業のために協力するということもあまりなくなった。そして、終身雇用も変わりつつある。つまり、保険制度の前提が変わってきている。そうなると、保険は市場からサービスとして購入ということになるのだが、それで良いのだろうか。というのは、所得に応じた医療で構わないのだろうかという懸念が生まれるからである。
 今後の地方自治体による公共サービスの方向性については、主に三つあると思う。一つは、自分で必要なものは選択していくので、行政は小さく、税も安くという考え方。二つめは、行政には最低限の保障、セーフティネットを整備してもらい、あとは自分でやるという考え方。三つめは、行政が福祉を担う代わりに、税は高くなるという考え方。
 これらのような行政によるサービスの在り方が問われるようになってきたのは、やはり村落共同体が崩壊してからだと思う。1973年の石油ショック頃まではまだ家族で対応することが可能だったので、行政による福祉というのはあまり問題になっていない。これが、都市化や核家族化に伴い、行政がそれまでの家族やコミュニティの機能を代替するようになり、福祉が生まれてきたのである。
 そして今、我々はとても便利な社会に住んでいるようにみえて、実は不安定である。共同体が残っている頃であれば、不況になっても地元へ帰れば最低限の住まいや食料は何とかなった面があった。しかし、今は職を失った途端に、家も失い、食べるものもなくなる時代である。このような時代に、行政は社会を安定化させていくことができるのだろうか。
 

V.制度とそれを活かすモラルの必要性

   少子高齢化といわれて久しいが、仮に今から子供が増えたとしても、彼らが成人するまでにはまだ約20年はかかる。したがって、現在の仕組みの中で、若年層のみに負担をかけないやり方が必要になってくる。
 そのためには、モラルを向上させていくことが肝要ではないだろうか。実は、モラルの低い社会というのは、別の面から見ればコストのかかる社会である。なぜなら、取り立てをする人、チェックをする人が増えてしまって、人件費がかかってしまうからである。それを減らして、別の必要とされている分野に資源をまわしていくことが必要となってくる。
 違う角度からいえば、「文化を守る」ことが必要となってくる。「文化」というのは、英語でいえばカルチャー(culture)で、「耕す」という意味のカルティベーション(cultivation)と近い意味の言葉である。「耕す」とは土着、根ざしたものということである、文化にもそういう側面はある。したがって、「文化を守る」とは、生活や伝統に根ざした習慣を維持していくということであり、そのためにはやはりモラルの向上が必要になってくると思う。
 社会を良くしていくには、制度だけをつくっても意味はない。制度を支える根底に、モラルがなければ良くならない。グルーバル社会における競争が盛んに叫ばれるが、人間というのは仲間意識、連帯感がなければ疎外されていくのではないだろうか。その意味で、かつての共同体が担っていた役割を果たせることが、行政に求められているといえる。



質疑応答

@ 公務員自身が内発的に改革していくことは可能か。
→現在の公務員制度改革をめぐる議論というのは、外からの制度改革なので、公務員にとっては自発性を奪う形になってしまう。だから、彼らのモラルは下がるだろう。そこで、繰り返しになるが、制度だけでなく、それを支えるモラルが必要になってくる。

A 財政の厳しい状況下で、コミュニティはどう再生したらよいか。
→お金がないというのは言い訳でしかなく、お金が入ってくる仕組みをつくれば良い。コミュニティの再生は大切なことだが、コミュニティに昔のように人がいるかといえばいないのが現状だと思う。したがって、現状を見据えて、制度をつくり、それを活かすモラルを高めていくことが求められるのではないだろうか。






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