知事リレー講義
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   2009年 11月 26日   栃木県 福田 富一知事

 

   「 ~とちぎを有名有力県へ~ 」
 

 
 【 栃木県について 】



栃木県は、日経リサーチによって行われた「地域ブランド戦略サーベイ2006」において、47都道府県中最下位であった。「地域ブランド戦略サーベイ2008では、群馬県が最下位であり、下位3県を北関東で争う状況になっている。

しかし、栃木県にはたくさんの魅力がある。東京から100キロ圏内にあり、歴史遺産にも恵まれている。自然も豊富である。
「食」で言うと、有名な「とちおとめ」の産地であり、宇都宮餃子にも使われるニラの収穫量は全国2位である。また神戸牛や近江牛にも負けないおいしさを誇る「とちぎ和牛」の産地であり、養頭数は全国6位である。

 工業製品に関しても、日産やホンダの工場が県内にあり、宇都宮には最先端の飛行機研究を行う富士重工業の研究所がある。また、世界的なカーレースであるインディ300IRL® IndyCar® Series Round16 BRIDGESTONE INDY JAPAN 300 mile)が毎年行われている。

栃木県は平地と山地のバランスが良い大地であり、水がおいしい。日本テレビの企画番組内の「日本一うまい水道水を大調査」において2位になった。(1位は宮城県大崎市鳴子の水)また、皇室ゆかりの地でもあり、那須に御用邸、高根沢町に御陵牧場がある。

県民栄誉賞受賞者しては、広島カープの石井琢朗選手や、アンダースローで有名な渡辺俊介選手などがいる。また、様々な映画のロケ地にもなっている。「黒部の太陽」「白洲次郎」など。

プロスポーツとしては、日本バスケットリーグで現在3位のリンク栃木ブレックスやサッカーJ2で活躍している栃木SCがいる。アイスホッケーのHC日光アイスバックスは西武からいい選手が加入した。成績は可もなく不可もなくといった状態である。

女性が身の回りの用事にかける時間が全都道府県中1位である。また、結婚式や葬式にたくさんのお金をかける。

栃木はたくさんのB級グルメを抱える。最近はイモフライが全国的に有名になってきた。先述の石井選手が活躍するMAZDA Zoom-Zoom スタジアムでも売られている。栃木県はソース文化が豊かであり、何種類ものソースを栃木で作っている。他には「ジャガイモ入り焼きそば」が有名。SMAPの木村拓也が主演した「ロングバケーション」の中で、やきそばにジャガイモを入れるかどうかで、栃木県出身の女性(山口智子)と木村拓也が議論するシーンがある。「レモン牛乳」はU字工事が宣伝しヒットした。レモン牛乳を開発した店は閉店したが、他の店がそれを引き受け、細々と販売を続けてきた商品である。U字工事の宣伝によって前年比1.5倍のヒットとなり、駅前で関連商品(クッキーなど)が売られている。




【 栃木県の抱える課題とその対応 】




鳥獣被害は栃木県でも大きな問題となっている。県は宇都宮大学と包括提携をし、野生鳥獣の保護管理を担う人材の養成を行っている。5年間で60名の地域鳥獣管理士を育成することを目標としている。また、県と宇都宮大学、東京農工大学が「野生動物管理のための研究推進に関する包括連携協定」を結び、3年間の期限で、県内の調査地で生態学と社会科学を融合した研究を行っている。また、猪の食用化にも力を入れている。

 栃木県那珂川町の温泉トラフグもおもしろい取り組みである。那珂川町の温泉は塩分の含有量が12%であり、トラフグの養殖に適している。現在、廃校となった校舎を再利用して養殖を行っており、通常食べることができるまでに1.5年かかるものが、那珂川町では1年で出荷できるサイズに成長する。6月より12トンの水槽で養殖を開始しており、将来的には、1万匹、10トンの養殖を行いたい。

 200814日に県庁を建て直した。その際、開かれた県庁を目指して様々な試みを行った。まず、1階と展望フロアを立ち入り自由とした。1階は現在、高校生の待ち合わせ場所にもなっており、1日1,400人、トータル87万人が来庁している。展望フロアには、県内の小中学生が多数訪れ、関東平野を眺めている。また元旦には、県民と初日の出を見る企画を実施、高倍率の中、抽選で選ばれた人々に展望フロアから富士山を見てもらった。  

1階では年7、8回「マロニエ県庁コンサート」を実施している。また、毎月18日を「とちぎ地産地消の日」に設定し、1階ロビーにて農産物直売所を開設している。

他にも、県庁の空いているスペースを結婚式場として貸し出している。現在までに3組のカップルが結婚式をあげた。海外では役所を結婚式場として使用することは少なくないが、日本では聞いたことがない。

このような取り組みの結果、開かれた県庁というイメージが定着し、かつての堅いイメージはない。




【 地方分権について 】


 

国には外交などに専念してもらい、自主財源で、1)地域の実状にあった行政、2)財源の出所がわかる行政、3)縦割りによる弊害のない行政を目指す。

1期改革は、機関委任事務を廃止し、法定受託事務として再編した。しかし、三位一体の改革では、地方税が3兆円の増額となったものの、結果的に国庫補助金が4.7兆円、地方交付税が5.1兆円の歳入削減になり、地方財政の疲弊につながった。

2期改革では、地方分権改革推進委員会の第4次勧告において、地方分権に関する法律を制定する旨の勧告が出された。全国知事会でもそれにむけていろいろな政策提言をしている。

栃木県では、平成208月に市町村と県が地方分権について協議する政策懇談会を設置し、権限委譲に関する方針を決定してきた。これによって、パスポートの交付が市町村でも可能になることとなった。

新政権は、地域主権を掲げている。1)国と地方の協議の場をつくる。そのための法律を制定するために、作業チームをつくる。2)閣議決定によって、地域主権戦略会議を設ける。この2つが地方分権に向けた羅針盤になる。12月中旬にその後のスケジュールが示される。

一括交付金制度の導入、直轄事業負担金の見直し、国の出先機関を県に移譲、義務付け(保育所の設置基準など)、枠づけの見直しなどが進められており、明るい兆しが見えている。栃木県としても、それらを見ながら、市町村への権限委譲を進めていく。

昨日、官邸で全国知事会が開かれた。京都府の山田啓二知事、大阪府の橋下知事など有名知事は欠席であった。前回の知事会は選挙前であったので、政権公約に地方主権を盛り込むことを各政党に求めることなどを決めた。まだ具体像は見えてこないが、その方向に進んでいるようである。現在の麻生知事会会長は「難しい問題があるときは随時知事会を開催するので、その時は参加してほしい」と言っている。しかし、知事は多忙であるため、なかなか集まることができない。そこで、毎月第3木曜日を知事会議の日と決めた。また、最近はTV会議も活用している。また、知事会に9つのプロジェクトチームをつくった。「国と地方の協議の場の法制化プロジェクトチーム」「国の出先機関原則廃止プロジェクトチーム」などである。プロジェクトチームがそれぞれに会議をもち、その都度国に意見を出すようにしている。そのような形で地方分権改革が進みつつある。




 【 財政健全化について 】

 

栃木県では、大阪府、岡山県に続いて全国で3番目に各部署内で事業仕分けを行った。なぜなら、財政健全化法の適用によって、地方自治体は、一定の赤字を出すと国の管理下に置かれることになるので、それを避けるためである。栃木県は、平成25年度より歳入と歳出のバランスがとれた財政運営を行うことを目的として、とちぎ未来開拓プログラムを策定した。平成24年度までの4年間、約384億円の削減を行う予定である。

三位一体の改革によって地方財政は悪化し、歳入は700億円減った。また、バブル崩壊、高齢化による社会保障費拡大も大きな影響を与えている。平成22年度で都道府県の基金は枯渇し、平成24年度で市町村の基金も枯渇するといわれている。

栃木県では200億円の赤字を出した場合、財政再建団体となってしまう。現在1100億円の債務があり、毎年300億円の財源不足が生じている。その状況を改善するために未来開拓プログラムを進めている。

これらを進めるにあたり、県議会や県民との座談会で意見交換をおこなった。また、のべ1000件を超えるパブリックコメントをもらった。文化支援、保育所などの教育関連費の削減に反対する意見が多かった。国のように早急に決めるのではなく、いろんな人の意見を聞いた。(大阪の2か月、岡山の3か月と比べ、栃木では5か月をかけて仕分けを行った。)

職員の削減、職員給与のカット(3年間)、差し押さえもふくめた税金徴収の強化を行うとともに、1409事業を見直した。毎年度、予算編成時にプログラムを見直す予定。





【 学生へのメッセージ 】





座右の銘は、「先憂後楽」。生き方としては、「今この瞬間何をすべきか」ということを常に考える。政治家としては、出会った瞬間相手の心を読む。この3つが私の信条である。

学生の皆さんに言いたいことは、「天職を見つけてください。」ということ。未見の我を発見してほしい。孔子の言葉に「後世畏るべし。焉んぞ来者の今に如かざるを知らんや。四十五十にして聞こゆること無くんば、斯れ亦た畏るるに足らざるのみ。」という言葉がある。40歳までは職業を変えてもよいということだ。

小学校低学年の頃、家の馬小屋が勉強部屋に変わった。それに感動し、建築の道に進みたいと考え、工業高校の建築科を選んだ。しかし、卒業時に「土日に農業ができ、親孝行ができる」と勧められ、県庁の建築専門員になった。県庁で働く中で、無理難題を言ってくる県会議員を見て、県民の立場に立った政治家になりたいとの想いを抱いた。県庁を辞める前に、夜間大学に行きたいと考え、日大の建築学科に入学した。大学の講義で、物理学の教授が初回授業時に「アルバイトがしたい人はアルバイトに行きなさい。恋人とデートがしたい人はデートをしなさい。やりたいことをやりなさい。私は授業に出てこなくても不可はつけない。」と言った。私はこの言葉を聞いて大学に来てよかったと思った。「いま何をすべきか、自分で考える」ということを学んだ。27歳で県庁を退官し、宇都宮市議会議員に最下位で当選した。選挙準備中に、政治の先生に「選挙出馬に反対している親・親戚を説得できない者が政治家にはなれるはずがない。情熱をもて。」と言われた。また「政治の基本は相手の気持ちになれることである。そのためにはメモを持ち歩き、何でもメモして、人の気持ちを読めるようにしなさい。頼まれたことはすぐ返事しなさい。(出前の政治)」ということも教わった。

志があれば自分のなりたい職業に就ける。一生懸命頑張っていれば、助けてくれる人が出てくる。その期待にこたえることが大切。感性を磨くということは、相手の気持ちを読むということ。

子供同士では「友情」だが、大人同士では「信頼」が大切となる。しかし、信頼だけでなく尊敬を持たれることが大切。「男だね」という言葉には信頼と尊敬の両方の意味が含まれている。信頼と尊敬、これが生きるために必要。

自分がむいている職業をみつけ、一生懸命頑張ってください。そして、信頼、尊敬される人間になってください。そのための基礎をこのキャンパスで見つけてください。

 



 質疑応答




○事業の仕分けに5か月をかけて、関係者を説得した。政治家になるときには周囲の人々に反対されたが、説得した。自分の決めた道に進むために必要なことは何か。

 信念がゆるがない。決定したことはやりとげるという強い心、これが説得につながっていく。政治家になると決めたとき、親は首吊る、勘当すると言い、知り合いもいない土地(地元は日光だが活動地は宇都宮)でどうやって当選できるのかと言った。しかし、最後には応援してくれた。

 

○栃木未来プログラムの3番、環境立県政策とは具体的にはどのような政策なのか。

 例えば、栃木版のエコポイント、レジ袋をなくす運動(211月開始)、県民数と同数の木を植林する、10年をかけてエコカーの使用割合を50%にする、などがある。便利な生活から、不便な生活へチェンジする。栃木県は55%が森林。エコ通勤やエコ教育、エコ産業の振興、栃木サンシャインプロジェクト(太陽光発電の普及)バイオマスエネルギーの活用、カーボンオフセットの推進などをやる。栃木県は関東圏の水と空気の供給県。それを保全していく。

 

○市議会議員との連携はどのようにするか。

 とちぎ未来開拓プログラムでは直接相談はしなかった。199の市町村に関連する事業については、市町村長の皆さんに、県の提案について、了承できるものとできないものとに分けてくださいとお願いした。結果、2010は変更がなかった。市議会議員との調整は市町村長がしてくれたと理解している。 


○安全安心な地域社会つくりの中で医療費に関する項目が多いのは、知事の意思か、それとも市民の意思か。

 栃木県では、19年連続で高齢者対策が県民の中で最もニーズが高かった。しかし、今年度は、はじめて安心安全な地域社会つくりが1位になった。よって、資料5ページに記載されている施策(小児休日・夜間急患センター等運営事業費、病院群輪番制病院運営事業費など)を予算見直しから外した。

なお、ドクターヘリの導入や新型インフルエンザ対策以外は前からやっていたものである。

 















 


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