知事リレー講義
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   2010年 6月 29日           兵庫県 井戸敏三 知事



 「 元気で安全安心な兵庫をめざして 」
 





1. 人口減少社会の到来

()高齢化について

兵庫県におけるいくつかの課題を紹介する。

人口減少が全国的に進み、兵庫県も昨年度111日の推計では1月から560万人に減ってきた。よほどのことがない限り、560万人がピークでそれ以降減っていくだろう。阪神淡路大震災では、前年度から、541万人が540万人と減った。

現在は、高齢化率は23%だが、2040年には38%ほどになるとも予想されている。人口減少時代の到来に付随して起こっていることが、人口の構成が高齢化、少子化の進行である。

府県間移動がプラスの都道府県は、たった9県しかない。西日本に限定するとさらに少なく、滋賀、兵庫、沖縄だけ。一方、年齢別社会増減を見てみると、60歳以上の転入者が多いことが近隣府県と比較して特徴的である。

転入者が若者ではなく、高齢者が多くなることに対してどう感じるか。介護保険の対象者が増えることが課題だという人もいるが、私はそうは思わない。というのは、転入する高齢者の多くは、兵庫県の良さを理解、評価した上で転入しているからである。何を評価するのかといえば、生涯学習などである。また高齢者は貯金をたくさん持っているという点でも、大きな消費者層になるだろうと期待できる。

生産年齢人口である1565歳はこれから20年間で急減し、それによって社会の活力が失われるのではないかと危惧されている。兵庫も2010年では生産年齢人口は63%、高齢者人口は全体の2123%ほどだが、あと20年後には全体人口が3%減ると考えられ、生産年齢人口は59万人(6)も減少すると予想されている。

しかし、そもそも生産年齢人口が1565歳というのは、OECDの定義を採用しているだけなので、日本の社会状況に合わせて定義しなおす必要がある。そこで、生産年齢人口を20〜69歳として定義しなおすとどうなるか。2010年時点で生産年齢人口は65%に増え、20年後も定義変更前に比べ13万人増える。つまり、社会の活力は、60代高齢者の社会的参画を社会システムで作り上げることで、失われることはないということである。

 

()少子化問題への対策

次に、少子化問題について説明する。合計特殊出生率はここ近年1.3あたりを前後しているが、人口を横ばいにしていくためには、2.07にしなければならない。

一方で、2039歳という出生適齢の女性の数も、今70万だがあと4年経つと8万人も減少している。

出生数は昨年48430人となった。人口を横ばいにするためには、合計特殊出生率を2以上にしなければならない。現在の1.33のままだと減少していく。出生適齢の女性はだんだん減っていく。すると子どもを生む全体数も減少する。すると子どもが生まれる確率も減る。

そこで我々は出生目標を平成2327年までの間で24万人という目標を掲げ、様々な子育てプランを構築している。

その中でも珍しいのが「出会い・結婚支援事業」。子どもは夫婦である男女から産まれるわけだから、少子化対策のためには夫婦が増える必要があるが、結婚自体の減少、また晩婚化が日本の傾向である。日本は欧米の施策を参考にすることが多いが、ヨーロッパでは未婚の母が多いが、彼女たちは社会的に容認されていること、またアメリカは移民の国のため社会的状況が大きく違うため、日本独自の政策を考えなければならない。それが出会いサポートセンター。このサポーターで結婚した人はまだ少ないが、付き合ってから35年かかるため、今後増えるのではないかと予想される。

さらに、コウノトリ会とは、農山村部の人に都市部の若い女性を紹介するというイベント。これまで120組が誕生し、さらにすごいのは離婚がないこと。

そして、少子化対策のためには子育て支援が必要であり、母親の仕事と生活のバランスを保てるよう支援している。というのは第2子を生むのは、どういう環境条件が整えばいいのか聞いてみると、最も集まった意見が「パートナーが育児を手伝ってくれるかどうか」だった。そこで残業を減らし、企業の効率性を挙げる施策をしている。例えば先進的な企業の研修や、育児休暇を率先して取らせる企業への助成金配布などもしている。

少子高齢社会に展望を持っていない人多いが、私はそう思っていない。高齢者のうち介護保険サービスを受け、寝たきり状態になっている人は高齢者全体の5%ほどである。また介護サービスを受けているだけの人は15%ほどで、自立した生活ができる人が大半である。彼らは元気であり、蓄えもあり、社会参画もできる重要な存在である。そのため社会参画をするため仕組みや、医療制度を整えることが重要である。

また、社会の活力を回復させる上で重要な存在が女性による社会参画である。社会参画度、つまり仕事を持っている女性の比率は日本全国平均で45.5%であるのに対し、北欧諸国は90%、フランスなど他のヨーロッパ諸国は86%と非常に高水準である。日本では女性はあと2倍ほど社会参加ができるはずであり、そのためには女性の働きやすい環境づくりが必要である。そこで、先ほど述べたような保育サービスの充実、子育て支援が必要になってくるのである。

 

()地域人口の偏在

人口減少とともに起こる現象が、地域人口の偏在であり、地域人口の偏在は地域によって活力の格差を生み出すことになる。農山漁村など多自然地域では人口が減少し、空き家、放棄耕作地が出現するなどの問題が発生している。

そこで、地域再生大作戦という政策を行っている。具体的には、地域の活力が低下しつつある多自然地域を中心に、「まちなか振興モデル事業」「小規模集落元気作戦」「ふるさと自立計画推進モデル事業」「中山間“農の再生”推進対策」「多自然居住の推進」「地域再生応援事業」など多様なメニューで応援している。

まちなか振興モデル事業の一例として、合併によって役場機能が移転してしまった場所を、地域の賑わいづくりの場として活用している。例えばNPOさんに事務所として利用してもらう、お店を誘致するなどである。また、ふるさと自立計画推進モデル事業という小学校区単位で区切られた地域間のネットワークを作ることで互いに連携・支援しあう事業もある。さらに地域再生応援事業とは、過疎地における地域活性化を手伝いたいという団体との協働による、先導的プロジェクトを推進している。

 

()まちなかの活性化について

商店街、つまりまちなかの過疎地帯の活性化も大きな課題点である。そこで次のような商店街・町の活力再生事業を行っている。

1つ目に、商店街・まちの再生のためのプラン作りや整備助成。例えばコンサルタントを派遣する、複数の空き店舗を集めた商店形成や施設回収、駐車場整備等への助成がある。

2つ目に、空き店舗の活用のため新規出店の応援や商店継承支援、つまり仲介事業を行っている。空き店舗の活用については、同じ商店街内に競合する店舗を開業すると既存店舗が困るため、交流センターなど公共施設を開設するなど工夫している。

3つ目は、商店街のコンパクト化。商店街の各商店の人が共同しなければならないが、店を畳んでいるところも多く共同で行うのは困難であることが多いため、老朽アーケード撤去支援等を行っている。

4つ目に、商店街の魅力アップも行っている。商店街はこれから再評価されてくると思う。郊外型の大型商店は販売だけでその後のフォローアップまで考慮していない場合が多い。それに対しまちなかの商店は販売後のサービスが後からついてき、まちなかに住み交通弱者である高齢者にとってはまちなかにこのようなサービスを提供できる商店の方が利用しやすい。また話し相手ができる、気分転換に出て行く場所ができることができるのは良いことである。まちなか商店に対する評価はこれから高まっていくだろう。








2.. 兵庫県の産業


ギリシャの財政破綻が、非常に問題になっている。日本も財政破綻に対して非常に危惧されているが、国債保有者という観点からギリシャと日本は全く構造が違うためいたずらに心配する必要はない。つまり、ギリシャは国債を自国民が購入しないため外国に頼るしかなく、破綻する可能性が高い。一方日本の国際の大半は自国民が買っているため、国内だけで問題解決がつく。つまり、経済構造が全く違うのに危機感を持つ必要はないのである。

リーマンショック以来、兵庫の有効求人倍率0.92から最悪0.4へと半減したが、徐々に戻りつつある。そして兵庫県は平成19年度の県内総生産が7位、全国の製造品出荷額の5%を占めているものづくり県である。その産業の特徴として、製造業の割合が全国と比較して1.15であり、特に電気・機械や輸送用機械などの加工組み立て型工業を中心としている。

この兵庫県の強みであるものづくり産業の活性化について述べる。

1つ目に、工業技術センターの整備によってものづくり企業の技術力強化を進めている。

2つ目に、ものづくり大学校の整備も予定している。具体的には、製造産業を支える人材の育成や在職者訓練、さらに小学生や中学生にものづくりのよさを知ってもらうための、本格的なものづくり体験の提供を行っている。また、技能士の卵をどのようにして作るのか、どのようにして養成するのかが課題である。

3つ目に、中堅企業で働く在職者訓練がこれまでは社内で研修ができていたのが、不景気で研修ができない企業も出てきたため、その場を与える事業も行っている。

4つ目に、農業と商業が連携を支援し、農林水産資源を活用した製造業の活性化も行っている。

ものづくりを支えるのは、科学技術である。

昨年、事業仕分けで非常に注目された科学技術研究だが、「なぜ世界一の研究施設を作らなければならないのか」と質問されることがある。しかし、逆に私は「なぜ二番以下でいいと思うのですか」と聞き返したい。なぜなら二番・三番手でいいと思ったとたんに競争に負けてしまうためである。このため、次世代スーパーコンピューター施設、県立大学先端計算科学研究所、神戸大学システム情報学研究科などへの支援を行っている。さらに西播磨に世界最大級の大型放射光施設を併せ持つ、播磨科学公園都市に最先端科学研究所を作る計画を実行している。

戦略的な企業誘致を震災復興に合わせて行ってきた。その結果、企業立地動向は全国1位を維持し続けている。平成14年に産業集積条例を施行してから平成20年までの7年の間、立地件数562件、総投資額13000億円、従業員者数3万人という業績を出している。主な大規模立地事例として、プラズマディスプレイパネル工場、液晶パネル工場、自動車用二次電池工場などが挙げられる。




  



3.
 災害の教訓と備え

 

阪神淡路大震災から15年たち、次のような問題点が浮き上がってきた。1つ目に、賑わいが戻らない地域も多いことである。まちの賑わい作りのために、例えば鉄人28号をまちのシンボルとして用いた活性化をしているがこのような取り組みがまだ十分にできていない。2つ目に、風化させないこと。人口も兵庫県は戻ったが被災地は戻らない。

震災からの総合的復興をし、震災の経験と教訓の発信のため「人と防災未来センター」を設置した。このセンターは経験と教訓の展示、防災に対する研究の役割を持っている。本センターは、国が設置すべきだと考え、国に設置の要請をし、国が独立行政法人とすべきだと思うのだが、国の財源がないということで、県で設置さらに運営費も賄うことになった。

さらに、台風等の風水害の教訓も生かしている。平成16年の台風被害は山が適正に管理されていないためにその被害が拡大した。その教訓として県民緑税を導入している。県民緑税とは、県民共通の財産である「緑」の保全・再生を社会全体で支え、県民総参加で取り組む仕組みとして平成18年度に導入している。125億円を積み立てそれをベースに、緊急防災林整備、里山防災林整備、針葉樹林と広葉樹林の混交林整備、野生動物育成林整備をやっている。

平成21年台風第9号では、戦後最大の24時間雨量327oを記録し、300年に1回といわれる大水害を受けた。この大型台風とその災害には、想定を上回る洪水による溢水、山腹の崩壊や渓流からの土砂・流木の流出、流木で橋梁部が閉塞することで上下流護岸が破損するなどの特色が見られた。

これらの状況を見て、次の3つの対策を行うことにした。まず山の管理を徹底し災害に強い森作りを行う。そして谷筋に治山・砂防施設の施設を行う。下流部とのバランスの取れた中上流の河川改修をする。こうして台風の教訓を活かしている。

また、住宅再建制度についても、新たに家財を対象とした制度を追加することで拡充している。これが家財共済給付金である。これは洪水が今後増えることを見越しての政策であり、洪水で家が浸水すると、家だけでなく家財も一緒にだめになるため創設することになった。








4.
 豊かな自然や資源の保全と活用

 

山陰海岸ジオパークの計画も進行中である。山陰海岸国立公園を中心に、東は京丹後市の経ヶ岬から西は鳥取市の白兎海岸までのエリアに、日本海が誕生した当時の地形・地質を観察することができるため、ここをジオ(地質)公園にしようという計画である。現在は世界ジオパークネットワークに認定申請をし、現地審査が8月に入る予定である。

また、コウノトリ翔る地域づくりについて。コウノトリが餌場とする農地に農薬がまかれ、エサとなる虫などがいなくなったため、昭和46年に日本内の野生コウノトリが絶滅してしまった。そこでロシアから幼鳥をいただき、平成元年に初の人工繁殖に成功しました。それから22年が経ち、放鳥オスと野生メスから初めて雛が誕生し、野生のDNAを持ったトキが誕生した。これは非常に喜ばしいことである。

佐渡ではトキの人工繁殖を行っているが、準備不足のため成功していないのではないか。ただ放鳥すればいいのではなく、放鳥後の周辺環境づくりも重要である。例えば、周辺農家さんに農薬を使わない農業ができないか依頼し、互いに協力してもらい放鳥されたコウノトリの環境づくりをしている。これはコウノトリにとっていいだけではなく、農薬を使わない有機米として市場で評価され、以前より高い価格でお米を売ることができている。









5. 
関西広域連合(仮称)の設立

 

狙いは3つある。

1つは、関西から地域主権の担い手としの産声を上げること。

2つ目は、関西における広域行政を展開することで、関西全体の広域行政を担う責任主体を作っていくこと。つまり、東海南海大震災は確実に起こると予測されているが、府県で対策が異なるのは困る。

3つ目に、国と地方の二重行政を解消すること。

広域連合が担う事務の対象は、防災や、環境保全、医療、産業振興などの広域事務。

また、広域連合ができたら、国からの権限委譲を受けて、国道の一体的な管理、関西3空港や大阪湾内諸港の一体的な運営管理などにフルに使いたい。

道州制と違う点は、道州制が府県合併のような形になるのに対し、府県制度が存続することと、広域連合は府県が自主的に設置することができる点である。

府県がなくなるとどうだろうか。道州が国の総合的出先機関になる可能性もあり、地方分権の流れには反対する。特に大阪府の橋本知事はWPCを買って、道州制の本部にふさわしいといっているが、本部職員が兵庫県の端っこの状況まで知ることができるのか。これは市町村合併の問題からも指摘できる。






6. 関連する国の課題

 

これらに関連して、今のところ、民主党は結局のところ中身がない。というのは、具体的に何を実現するのかが分からないためである。地域主権大綱が策定され基本方向としては賛同できるが、これも具体的実現の筋道がわからない。また財政戦略も「2020年までに国の財政のプライマリーバランスを0にする。2015年にはプライマリーバランスを半減させる。」といっているが、元来地方はほとんどゼロにしていることである。国の問題と意識して財政再建をした方がいいだろう。

消費税の問題については避けて通れないだろう。また深刻なデフレも問題もある。第一の経済対策とは、公債発行によって公共事業をすることにより景気対策をするというもので、第一の道である。第二の対策方法は、規制緩和をして自由な競争を進めることで新しい需要を生み出すことだが、弱肉強食的であり格差を助長してしまう。そして今、菅さんが主張している経済対策は、第一、第二の道とは違う、第三の道を目指している。つまり、デフレギャップが埋まらないのは、消費者がお金を使わないためであり、税金を上げることで税収を上げて、それを成長産業へ投資することで景気回復を目指そうというものである。これが第三の道である。ただし適切な支出ができるかが問題である。







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