「 ”緑と心が豊かに奏であい一人ひとりが輝く山形”を目指して 」
(1)食、自然、歴史、祭り、温泉など
山形と聞いて思い浮かべるものは何だろうか。さくらんぼは全国の70%を山形県が生産している。ラ・フランスの生産量も日本一を誇る。みかん以外のありとあらゆる果物を生産していて、果樹王国と呼ばれる。
全国紙でも山形県の果樹生産について触れられていた。山形ではぶどうだけで35種類も作られているように、本当に多種類のものを作っている。また、牛肉もおいしく、日本酒、ワイン、メロン、米など枚挙に暇がないくらいおいしいものがある。
山形県の花は、べにばなである。昔は酒田港から日本海を通って、特産品のべにばなを京都や大阪まで運んでいた。県の木はさくらんぼ、県の鳥はオシドリ、県の動物はカモシカ、県の魚はサクラマスである。
このようなものが全国の都道府県にあるが、自分の出身県はどのような木や花がなっているかを知っているだろうか。
蔵王や鳥海山、出羽三山などの名峰、最上川などが鮮やかな四季を持ち、その時々に様々は色を見せてくれる。
樹氷を見ることができるのは、世界でも山形蔵王と青森の八甲田山の一部にしかなく、特殊な地勢条件と気候条件が重なってできる樹氷である。山形県では、2月・3月に樹氷をライトアップしてスキー客に楽しんでいただいている。
最上川は山形県のほぼ全域を流れており、山形県にとっては母なる川と言える。県民歌も最上川と言い、昭和天皇が山形県を訪れた時に作った詩に曲をつけたもので、県の大会などでは必ず歌われる。
山形県には歴史的な建造物も多くあり、松尾芭蕉が訪れた山寺や、国宝の羽黒山五重塔などがある。昨年はNHKの大河ドラマで米沢を舞台とした「天地人」が放送され、山形県が一躍有名となったと思う。
山形には華やかな、勇壮な祭りがたくさんある。花笠まつりは東北四大まつりのひとつになっている。酒田まつりは400年続いている。「日本一の芋煮会」では、直径5メートルの大鍋で芋煮を一度に3万食作り、食材は砂糖以外すべて山形県産のものを使っている。
山形県は35の市町村すべてに温泉がわいている温泉王国でもある。山や渓谷に囲まれた大型旅館が立ち並ぶ温泉や、海沿いや山奥の秘湯など、いろいろ楽しめる。銀山温泉は昔銀を掘っていたところで、大正時代の建物がそのまま残っていて、大正ロマンを満喫できる。蔵王温泉は、大露天風呂があり、川が全てお湯となっている。上流、下流にお風呂があり、大自然の中で川に入るという気持ちで自慢できると思っている。
山形県は京都とも歴史的に深いつながりがある。昔は酒田港と大阪、京都を船が行き来していた。その名残で山形県内には江戸時代から京都の雛などがたくさん残っており、一つの文化となっている。2月・3月には雛街道としてたいへんな賑わいを見せる。また、舞妓の文化、料亭文化も残っているように、京都から入ってきた文化がまだ息づいている。
京都では昭和58年1月から毎年全国都道府県対抗女子駅伝が行われているが、山形出身の京都居住者が熱心に応援していて、これがきっかけで25年ほど前に京都山形県人会が発足した。そのとき私は教育委員会にいて、女子駅伝の応援に行った。その時は見事第三位に輝き、選手の一人に立命館の学生がいた。大変がんばっていた姿が今でも頭に浮かぶ。その晩に県人会で祝賀会をやったら100人を超える人が集まり、京都に住んでいてもふるさとを応援しようという気持ちを持ってくれていてありがたい。
山形県人は雪国独特の勤勉実直で我慢強い、粘り強いという評価がある。なるべく喋らないようにするため無口でおとなしいという県民性がある。ひとつの特徴かと思っているが、世界一短い会話は山形弁だと言われている。
だんだん方言がなくなっているが、方言は地域の文化だと思っているので残していきたいと思っている。最近のニュースで社長の輩出率が出たが、山形が全国一位だった。その理由として、勤勉、粘り強い、実直という県民性のおかげという分析もあった。
テレビ番組の「秘密の県民ショー」でも山形が多く取り上げられているが、あの通りの山形県民の生活をしており、地域の特色ある文化を育みながら生き生きと暮らしている。私も今年4月に県民ショーに出演したが、外から山形県をみて、こういうものがあると良いのではという提案があると新しい発見があると思った。
(2)山形の日本一
山形県は、ぶなの天然林の広さが日本一位で、全国の16.3%ある。滝の数も日本一で、230カ所ある。即身仏の数も日本一位で、全国で十数体しかないうちの8体がある。草木塔も全国の9割以上が山形にある。自然を敬い、草木にも命があることを認め自然と共生していくという文化が山形にはある。
ラ・フランスの生産、食用ぎくの生産も日本一となっている。三世代同居率も日本一で、25〜39歳の女性の就業率も74.6%で日本一である。また、消防自動車の現有数も日本一で、たくさんの日本一がある。
(3)山形はどこにある
山形県は、新潟県と秋田県の間に位置する。また、海のほうに飛島という小さな島があり、そこへは酒田港から1時間半くらいで行くことができる。
東京から山形までは約300キロで、山形新幹線で3時間かからず着く。また、仙台からは高速道路を通ると30〜40分で着く。京都からも夜行高速バスがあり、約700キロを10時間くらいで結んでいる。
面積は約93万ヘクタールで、日本で9番目の面積を持っている。そのうち72%が森で、空気が澄んでいておいしい水を育んでいるように、おいしいものができる風土がある。昼が暑く夜寒いという特徴があり、京都と同じように寒暖の差が大きいが、その影響できれいな花が生まれる。奥の細道でも、全行程156日中のうち3分の1が山形で過ごされている。いにしえから山形は精神文化の地とされてきた。
(4)自然との共生、精神文化
イギリスの女性旅行家であるイザベラ・ロバート女史が山形を訪れ、山形の人が大変親切なことなどから、「実り豊かに微笑する大地あり、アジアのアルカディア(桃源郷)である。」と述べた。
また、昭和のはじめに米駐日大使であったライシャワー博士が山形を訪れ、「人間と自然の豊かな調和を損なわずに発展する可能性を期待させる将来の日本像であるもう一つの日本。」と述べた。この言葉は山寺の碑にも刻まれている。
第三次山形総合発展計画でも自然との調和が重視されている。
(5)4つの地域の個性
山形の大きな特徴は、県が大きく4つの地域に分かれているということである。村山地域、最上地域、置賜地域、庄内地域の4つで、それぞれの地域に特色あるお祭り、文化が残っている。
花笠まつりがある村山地域は、江戸時代には最上藩が納めていて、今では人口や県内総生産の約半分を占める産業の中心地である。天童市は将棋のこまを全国で90%以上を生産している。
最上地域は江戸時代には戸沢の殿様が納めていた場所で、人口は県の7.3%だが、自然と一体となった生活文化を継承、発展させてきた。新庄まつりはここの中心地の新庄市で行われている。新庄まつりは国指定の無形民族文化財となっており、都市部の人が山車を作り、農村部の人がお囃子をしているというように、都市と農村が連携して行っている。宿泊施設などで県境を越えて広域連携している祭りもあるということを頭の片隅においてほしい。
置賜地域は米沢藩で上杉家が収めており、質素倹約で藩財政を建て直したことで有名である。5月に上杉まつりが開催される場所でもある。
庄内地域は鶴岡市、酒田市が中心である。こめどころ庄内とも言われており、酒田という港町もある。酒田は奥州藤原氏の落ち武者が酒田に住み着いて、36人の商人が自治をしてきた場所でもある。鶴岡市は、今では映画のまちとして世界で有名になっており、映画村もある。藤沢周平が山形出身のため、そこにはその作品が多く収蔵されている。鶴岡には世界一のくらげ水族館があり、世界中からくらげを集めている。去年アメリカのアカデミー賞外国部門を受賞した「おくりびと」は庄内地方を舞台にしている。
山形県としてもその4つの地域にそれぞれ総合支庁長を置いている。総合支庁長は昔で言えば代官にあたる。その支庁では、市町村と連携しながら県政を運営している。
(6)山形県の経済
山形県の人口は約118万人である。日本全体が人口減少となっているが、山形も例外ではない。産業別就業人口を見ると、第一次産業1割、第二次産業3割、第三次産業6割となっている。農業が山形の基盤産業で、工業が基幹産業だと言っているのも実情を考えてのこと。
(1)県民との対話の重要性
県民に必要な政策を把握するためには、県民との対話が必要である。私は昨年2月に知事に就任したが、就任前も後もいろいろな県民の声を聞くようにしている。できるだけ多くの県民と接し声を聞くことで、景気・雇用情勢の厳しさ、農林水産業の現状、子育て環境の厳しさなど、いろいろな課題を把握した。県民の切実な思いを重く受け止め今後の県づくりに活かしていくことが私の責任であり役割だと思う。
(2)県政運営の基本は「対話」
県政運営の基本は「対話」である。基本方針は「心の通う温かい県政」を推進することである。温かい県政とは、お金をばらまくことではないと言っている。対話することで心を通わせ、現場で必要とする政策をつくって県民へ届けるようにしている。「県民を優先する県政」、「現場の声を大切にする県政」、「地域の声を大切にする県政」という3つの方針を持つことが大事だと考えている。
(3)市町村ミーティング、ほのぼのトーク、知恵袋委員会
山形県では「市町村ミーティング」、「ほのぼのトーク」、「知恵袋委員会」という取り組みを行っている。
「市町村ミーティング」とは、知事が35全市町村を訪問して、地域の課題や県政についての現場の意見を聞くものである。住民にとっては県の事業か市町村の事業かということは気にしておらず、県が応えられないこと、市町村が応えられないことがあるため、県と市町村が一緒になってやっている。
「ほのぼのトーク」とは、各分野で活動している団体やグループの現状や課題について、直接意見を交換するというものである。知事が現場に出向く時もあれば、知事室で意見交換をするときもある。
「知恵袋委員会」とは、豊富な経験を持っている長寿の方の知恵を県政にも反映させよう という取り組みで、地域ごとにおおむね65歳以上の県民15人ほどで委員会を結成している。社会貢献として長寿の方々の生きがいにもつながっている。
高齢者の犯罪は寂しさから来るというアンケート結果もあるが、子どもたちからお年寄りまで大事な社会を構成する一員で、みんなが社会の一員だという自覚を持って、行動していくことが大切だ。
(4)心の通うあたたかい県政
私は、県職員にも現場に出るようにと頻繁に言っている。机の上で考えたことは現実離れしたものになることがあるため、現場と県が対話することで実効性のある施策ができあがると思う。
常に現場の視点を大事にするように言っている。対話の重要性は第3次山形県総合発展計画の中にも反映されている。
(5)総合発展計画における県づくりの視点
今後おおむね10年間の県政運営の視点として、「第3次山形県総合発展計画」を今年3月に策定した。その基本目標が、今日の演題でもある「緑と心が豊かに奏であい一人ひとりが輝く山形」となっている。
この基本目標の下で県づくりを推進する視点として、@「県民起点・県民との対話と協働」、A「現場・市町村の重視(現場主義・対話重視)」、B「地域の資源やストックの積極的活用(歴史や伝統に学び・活かす)」、C「地域主権時代に対応した行財政改革の推進」の4つを挙げている。
(1)日本の食を支える『食糧供給県山形』の確立
国は2020年を目処に食料自給率を50%にすることを目標としているが、山形県でもその一翼を担いたいと思っている。平成24年までに農林水産業生産額を3000億円にすることを目標としており、「農林水産業元気再生戦略」を策定し、農業をしっかり頑張っていこうとしている。
山形県が10年以上かけて開発した「つや姫」というお米が今年10月にデビューした。今年の猛暑もクリアし、暑さに強いということが証明されたお米である。今後全国で栽培されていってほしいと思っている。
(2)魅力ある『観光・交流山形』の確立
山形には自然、温泉、もてなしの心など既に資源がある。それを活かしてグリーンツーリズムなど新たな観光をしていけると思う。国内外から山形県に来てほしいと思っている。
(3)世界に広がる『ものづくり山形』の構築
山形の農業は職人技だと思っている。山形県は農業県というイメージが強いと思うが、ものづくりも盛んである。戦後はミシン産業が盛んで、現在では電気や情報、機械などの産業が集積している。
中小企業庁の「元気なものづくり中小企業300社」に4年間で25社が山形県から選ばれていて、東北でトップを誇っている。山形県の製造業が持つ技術水準は相当高いと言える。
他にも、道路標識の全国シェア90%を誇っている会社がある。また、米沢市では有機ELを開発している。鶴岡市ではメタボローム解析に関する研究を行っていて、世界でもトップレベルを誇る。
(4)新たな国際経済戦略の展開
私は、今年開催された日ロ知事会議にも出席して、ロシアとの交流もしっかりやっていこうとしている。また、日本海をめぐる交易が主流となっているため、中国、韓国、台湾ともしっかり交流していきたいと思っている。
中国は日本の26倍、ロシアは45倍の広さを持っており、ロシアではモスクワからウラジオストクまで飛行機で8時間もかかった。そこには人家はないが、天然ガスなど資源が眠っている資源大国である。そのような国は資源を売れば生きていけるが、日本には資源がない。
どうしたらこのような大国と将来相互協力できるのかと考えると、やはり技術と投資しかないということを外国に行くと実感する。
諸外国が日本に求めているのも技術と投資である。技術の開発、研究には日本はまだまだ力を入れていかないといけないと実感した。
山形県で唯一の貿易港である酒田港が重点港湾に選ばれているため、貿易を進める上ではしっかりと開発をがんばっていきたい。
(5)未来を担う次世代
今は日本全体が人口減少の時代に突入している。労働力人口(15〜64歳の人口)も減少していくことになり、労働力人口が減るということは、日本の活力がなくなるということを意味する。女性も、高齢者もみんなが働かないと社会の活力が保てないという状況になってくる。そのため、定年年齢も上がっていくと思う。
とにかく少子化に歯止めをかけなくてはいけないと思っている。そのためには、子ども手当などの現金給付、保育所整備などの現物給付、育児休暇取得促進などの働き方の見直し、婚活支援、雇用の確保を5点セットでやっていくべきだと思って取り組んでいる。若者の県内回帰も頑張って取り組んでいる。
(1)農業の将来性
近年の農業への関心の高まりの背景として、農業には将来性があるという認識があることが考えられる。世界の食料需給は逼迫していて、ランドラッシュが起こるという予測もされている。ランドラッシュとは、諸外国が広大な農地の囲い込みをすることである。日本の高品質な農林水産物への需要も高まりが出てくると思う。
農業はきわめて知的な産業で、つや姫も、科学的な総合研究の下に10余年の歳月をかけて開発した。他にも、山形県のオリジナルのサマーティアラという四季なりいちごを開発した。夏には国産いちごが品薄になるが、そのときにも使ってもらえる。花の分野でも、プチスノーというトルコぎきょうを開発した。また、りんどうのハイネスホワイトなども開発し ている。山形県の農業はもっと伸びる大いなる可能性を秘めている。
(2)むすび
私は、地方の発展なくして日本の発展はないと思っている。47都道府県があって、それぞれが根っことして元気になることで、日本という木が元気になると思う。
みなさんには是非希望をもってがんばってもらいたい。日本の明日を作るのは若いみなさんである。
政治は非常に大事なので関心を持ってもらいたい。政策は生活に直結しているため、政治に関心を持って、投票にはしっかり行って欲しい。私は20歳になってから今まで、投票を一回も欠かしたことがない。政治への第一歩は投票で、どういう人を選ぶかで政治は変わってくる。みなさんは社会の一員だという認識をしっかり持って欲しい。
<問> 私は山形出身で進学とともに京都市民となった。ライフステージに応じた少子化対策という話では、若者に働く場の確保を行うという説明であった。そこで、高校生以降が若者とされていたが、高校卒業後の職場が若者のニーズとあっていないのではないか。今は大学全入時代といわれる時代で、私の地元の同級生も進学や就職でほとんど県外に出たが、県内に戻る人は少ないと思う。10代後半から20代前半の若者の職業選択についてどう考えるのか。
<答> 若者の県内回帰の促進を進めていきたいと思っている。山形から出て行っても県に帰りたいという人はたくさんいる。山形県雇用創出1万人プランを策定し、市町村や国などさまざまな機関と連携して、山形雇用安心プロジェクトをしている。
産業振興と表裏一体の問題でもあるため、そこにも力を入れている。外から呼び込むことも大事だが、今の時代それは難しい。県外から来ても景気が悪くなると県から撤退して、地元が悲しい思いをするので、できれば持続可能な産業構造にしていきたいと思う。
中長期的な視点で産業構造を変えていきたいと思っている。例えば、6次産業化として、生産して加工して販売までする総合産業化し、そこに雇用を生み出すように力を入れている。地元にあるもので雇用を生み出すようにしている。
<問> 地方には弁護士や医師など特殊な資格の人材が少ない。そのような人材は地方の活性化に資するものだと思うが、そのような人材の誘致はどう考えるか。
<答> 大いに来てほしいが、行政書士は県内に200人いて、山形市だけでも100人いるが、一部の人にだけ仕事が集中しているというのが正直な実態だと思う。今では弁護士は県内に50人を超えていて結構多いと思うし、仕事があるかどうかは大きな問題だと思う。
県内で腕の良い人はきちんと収入があるようなので、どのような職業でもやる気と技術力で切り開いていけると思う。
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