「全国知事リレー講義」ライン

 2011年 4月 12日            立命館大学 公務研究科 教授 今仲 康之先生



1. 本講義の目的

今、地方分権、あるいは、地域主権改革が、大きな政治課題となっている。それを踏まえ、本講義は、全国の知事や特色ある都市経営を行っている市長に、現在のそれぞれの地域における政策、全国的な地域課題への考え方といったものを、講義していただくものである。

それぞれの地方公共団体が、現実にどのような課題を抱え、それに対してどのような政策をとっていて、地域をどんな方向に持っていこうとしているのかという内容を、説明してもらう。

本講義の名称は、昨年度までは「全国知事リレー講義」としていたが、今回は「全国知事・市長リレー講義」とし、市長にも入っていただいている。その理由は、都道府県は広域の地方自治体であり、市町村が基礎自治体であって、今日、基礎自治体の役割が重要になってきていることから、基礎自治体がどのようなことをしているのかということを話してもらうためである。

それぞれの都市で、どのような取り組みがあるのかということを、よく聞いてもらいたい。例えば、前期においては、大阪市長に来ていただくことになっているが、大阪市は、今、大阪都構想などで、大阪府との関係が話題となっている。大阪府と大阪市の関係がある意味ぎくしゃくしていると報道されているが、大阪市長自身に来てもらって、どんな考えを大阪都構想に対して持っているのかといったことを語っていただくことになるだろう。質疑応答の時間もあるので、大阪市がどう考えているかを詳しく知りたければ、そのときに質問してほしい。

現在、地方公共団体を取り巻く環境は、以前と比べ大きく変化してきている。

グローバル化、情報化といったものが進展してきている。高齢化や少子化も進んでおり、人口は減少してきている。また、地球環境の保全が大切になってきており、省資源、省エネルギー、資源リサイクル、新エネルギーの活用といったことが重要となってきている。 

ところで、例えば、東日本大震災では、東京電力の原子力発電所が大きな影響を受け、かなり大変な状況になっている。東京電力管内では、節電が必要になっているが、節電をしないと、原子力発電所が担っていただけの電力が賄えないためである。今後、電力の確保をどのように進めていくべきかということについて、地方公共団体がどのような対応をするのかということが重要になるだろう。原子力発電所について、今後どのようにするのかというときに、地元の知事や市町村長、住民の考え方が、大きな影響を与えることになるからだ。

このように、現在の日本は、国内的にも国際的にも、大転換期である。

そのようなときに、それぞれの地方公共団体が、どんな課題にどんな政策をとっているのか、そして、どのような方向に地域をもっていこうとしているのかを説明してもらえるわけであるので、質問があればよく確認をして、自分で問題意識を持って、現在の課題にどう考えるべきかということを深めていってもらいたい。

なお、この講義は、それぞれの講義が独立していて、全体の講義を聞いたら体系的に何かを解決していけるというものではく、一回一回が読み切り型で完結しているものである。

また、それぞれの知事や市長が話す政策は、経済学、財政学、法律学、政治学、行政学などについて相当に高い水準で整理して作られているものである。説明は、具体的で、それだけを聴くと、簡単な話だと思うかもしれないが、それぞれの組織の中で幅広く検討して政策が作られているので、どういう政策をなぜ今とっているのかということを、よく考えてほしい。

その際に、自分で、関係の地方公共団体のホームページを調べるなどして、さらに考えを深めていってもらいたい。また、政策の中身をよく考える上で、質疑応答には積極的に参加してほしい。

前半、後半に一度ずつ小レポートを提出してもらう。講義の中で、どのような政策が示されたのか、それに対して自分はどのように考えるべきと思うのか、整理して行ってもらうためである。






2.地方公共団体を取り巻く変化


現在の地方公共団体を取り巻く変化がどのようになっているかということについて、国際的には、グローバル化、情報化、環境保全の必要性、省エネ・省資源・資源リサイクル・新エネルギーの重要性があり、国内的には、高齢化・少子化の進展、人口減少などがある。

そして、そういったものには経済的側面、社会的側面、文化的側面などいろいろな側面を考えることができる。

例えば、中国は、今どんどん経済成長を遂げている。開発途上国では、物価や賃金が安く、そのため、日本の工場の中で生産性が低い工場などは中国に出て行った。しかし、中国が徐々に経済発展して賃金が上がってくると、次には、さらに物価や賃金が安い、バングラデシュなどに動いていくといったことが起こってくる。これがグローバル化ということを経済という側面で捉えた場合である。

また、科学技術の進歩は、あらゆるところに影響が出てくる。情報化で、一番分かりやすい例として、インターネットを考えるとよい。皆さんにとっては、インターネットはある程度当たり前になっていると思うが、行政関係に長く携わる者としては、インターネットはここ15年ほどの話である。インターネットに関して、パソコンに関して、携帯電話に関して、技術的な進歩があり、情報化が大きく進んだ。そもそも、インターネットは東西冷戦構造がもたらした技術の一つで、情報を一つのコンピュータで集中して処理していると、大陸間弾道弾が一つ落とされると、全てダメになってしまうため、機能を分散してネットでつないでいった。そのネットを、民間で使えるように開放したため、今日のインターネットになったわけである。

多様化や高質化という変化もある。これからの生活水準の向上を考えるとき、高質化により快適さを増すことができる。東日本大震災に関して、節電の必要性があるということを言ったが、節電しながらも、生活の快適さを向上させることはできる。例えば、意外と簡単な方法で、二重ガラスにすると随分と断熱性が高くなり、節電になる。一説には、夏のピーク時になると電力の消費量が高まるが、二重ガラスにすることと、住宅の断熱材をより強化すると、電力は約3分の1で済むと言われている。20年くらい前までは二重ガラスも断熱材もずいぶん高かったが、最近はかなり安くなっている。そういった方法を取れば、快適さを高めながら、節電できるのも、技術進歩のおかげである。

フロントランナー化に関して、日本も最先進国になり、キャッチアップの時代は終わった。私が総務省にいたとき霞が関で制度を作っていたが、30年前は欧米にキャッチアップで追いつくための制度を作っていた。つまり、欧米先進国の例があった。最先進国になると、そういう例は自分たちで作らないといけないわけで、自分たち自身で考える必要がある。エジソンを思い浮かべてもらうと良いが、イノベーション(革新)ということが必要である。フロントランナーになると、どんどんイノベーションを自らしていかないといけない。そのためには、試行錯誤、トライアンドエラーで、取り組んでいく必要がある。エジソンが電球を作るとき、フィラメントに、日本の京都の竹を使ったが、エジソンはアメリカにいたわけで、それにもかかわらず、日本の竹といったものまで試してみたわけだ。このように、フロントランナーであるためには、いろいろなことを考え、実行し、新しいものを作り出さないといけないし、そのためには、心身ともにタフでないといけない時代になっている。



  



3.国と地方公共団体

 

 

市町村は基礎自治体で、都道府県は広域自治体である。「補完性の原理」や「近接性の原理」というものがあるが、これは、いろいろな課題に対して、まずは身近なところで処理をしていくべきだという考え方である。つまり、出来るだけ市町村の段階で課題を処理するというもので、市町村で出来なければ、補完的に、都道府県が処理をし、それでも無理なら、国が処理をする。

「地域主権改革」が、今の内閣で大きな政治課題になっている。この地域主権改革でも、補完性の原理や近接性の原理が、重視されている。都道府県と国との関係でも、都道府県で処理できるものは都道府県で処理し、都道府県で出来ないものを国が処理するということである。このため、国の地方支分部局を原則廃止して、都道府県に事務を移管するという話が出ている。この影響として、国家U種試験で、地域主権改革の考え方から、採用者数が減らされた。

次に、市町村や都道府県が、協力して事務を処理していくために、一部事務組合や広域連合という仕組みがある。市町村と都道府県は普通地方公共団体だが、一部事務組合や広域連合は特別地方公共団体で、普通地方公共団体の間の一定の協定で造っていくものである。関西広域連合の話を聞いたことがあると思うが、そこでは府県を超えて広域的に協力して、事務を処理していくことになっている。

特例市(人口20万人以上)、中核市(人口30万人以上)、指定都市(およそ人口70万人以上〈政令では50万人以上となっている〉)がある。そして、このような特別な市には、都道府県の事務を、一定程度降ろしている。

これが、大阪府と指定都市である大阪市の間で、いろいろと議論になっている原因である。典型的なものとして、地方の中核的な道路の整備を例にとると、大阪市内については、大阪府ではなく大阪市に権限が降りている。大阪市の区域については大阪市がやるため、大阪府が大阪市に関わる部分をつなげて道路の計画をしても、大阪市がそこをやらなければ、大阪府の部分とつながらなくなる。お互い協力すれば良いと思うかもしれないが、指定都市と都道府県の間では、なかなかどことも必ずしもうまくいっておらず、これが大阪都構想といったような考え方が出て来る理由である。東京都については、かつては東京市が存在していたが、市を廃止して特別区として、事務を都に引き上げたため、東京都ではそのような問題が生じなくなっている。

コミュニティや自治区というのは、小学校区あるいは中学校区くらいの単位で、任意で一定の意見集約をそのエリア内でやっている区画である。市町村では、一般的に、このようなコミュニティや自治区が設けられている。一方、地域自治区は、地方自治法に規定されているもので、その範囲内の意見集約をするのに活用することができる。市町村合併を進めたため、非常に面積の広い市が出来ている。例えば、高山市の面積は非常に広く、最も狭い面積の都道府県である香川県の面積より広くなっている。それだけ広いエリアが一つの市になると、地域自治区やコミュニティが必要になってくる。豊田市も随分と大きく合併をしたため、地域自治区を設け、さらに中学校区でコミュニティを設けている。

次に、住民と国民という考え方が重要で、住民は、国民でもあり、また、住民としては、都道府県民でもあり市町村民でもある。例えば、大阪府と大阪市で必ずしも協力できず、うまくいっていないというのは、住民という観点からすると、適当だとは思わないだろう。大阪府と大阪市で、うまく協力するところは協力してもらいたいと考えるはずである。

住民と国民との関係でも、課題がある。国と都道府県や市町村との行政主体間でいろいろな争いがあるという話を知っていると思う。国が事業をやるのか、地方公共団体が事業をやるのかといった問題が出てくるが、国が事業をやる場合には、全国一律で行うことになるし、それぞれの地方公共団体がそれぞれの地方公共団体の実情にあわせて個別にやっていくなら、地方公共団体が行うことになる。しかし、国の行政機関と地方の行政機関とで話し合っても、いろいろな意見が出てきてなかなかまとまらないといったことが、マスコミなどに出ている。その時、皆さんが住民として国民として考えれば良いわけである。国民が一律にやったほうが良いと思うなら、国で一律にやれば良いし、ある程度は一律にやった方が良いが、ある程度は地方の実態に合わせて対応することも必要と考えるなら、国が法令で一定の基準を決めて、細かいところは地方公共団体が条例で決めるということも出来る。つまり、こういったことは、決して国と地方公共団体の行政関係者の間だけの話ではなく、国民としてどう捉えるか、住民としてどう捉えるか、そして、国民主権であることからして、国民としてこうだという考え方が重要になってくるはずである。

税についても、地方税を負担するのは住民であるが、地方税が全国それぞれまちまちであり、複数のところで事業を行っていると、税金が大きく異なる、あるいは、同じところに勤めているのに、隣の地方公共団体に住んでいる人と税負担がまったく違うというのを、適当と考えるのかどうか。このあたりも、国民主権ということからすると、国民の声を聞いて、地方税に関するあり方についても、その枠組みをどうするか決めていくしか方法はないだろう。

次に、今回の東日本大震災への対応について、国や地方公共団体の動きを見ていてどう思うか。都道府県では知事が災害対策本部長として、関係のところに指示して動いており、市町村では市町村長が同様に指示して動いている。知事や市町村長は本当に責任感を持って動いており、報道を見ていても、そのことがよく分かるのではないか。

これに対して、国は内閣制度で動いているため、よく分からなくなっている。緊急災害対策本部が設けられ、内閣総理大臣が本部長として必要な指揮命令をしていくのだが、各大臣もいるし、各省庁ごとに動いているように見え、全体としてどうなっているのか分かりにくい。このようなところも、国と地方公共団体との、内閣制と大統領制との制度上の違いである。






4.地方公共団体の仕組み

 

(1)議会と執行機関

議決機関として、議会があり、ここで地方公共団体としての重要な意思決定がなされる。

執行機関は長(知事・市町村長)と行政委員会で、行政委員会の例として、公安委員会は警察に関する事務を担当している。

監査委員や外部監査はチェック機関で、予算が適正に執行されているか、行政が効率的に執行されているかどうかといった事柄をチェックしていく。地方公共団体では、外部監査もできるようになっており、弁護士や公認会計士、税理士などが外部監査の委員になる。外部監査が必要となるのは、監査委員による監査では甘いと思われるためである。

住民は非常に大切な地方公共団体の機関と言える。選挙は当然だが、住民は条例の改廃請求など直接請求ができるようになっており、監査の請求やリコールもできる。また、住民訴訟の仕組みもある。議会の解散以外についても、それぞれの地方公共団体で重要なことに対して、住民投票が行われることがある。

情報公開は大事で、地方公共団体にしても国にしても、重要なことは、隠さず住民・国民に公開していかないといけない。情報公開があって初めて、民主的な、すなわち住民の適正な判断に結びつく。情報公開は、地方公共団体から始まり、国がその後について行ったという歴史がある。

(2)地方公共団体の事務処理

それぞれの地方公共団体が、各年度にどのような事業をやるかということは、予算に示されている。予算を執行した後には、決算でどのようになったかが確認される。

出納とはお金の出し入れのことであり、また、契約や財産の取得、処分も行われる。

公の施設(道路、河川、美術館、病院、体育館、高齢者施設など)の管理には、指定管理者制度も導入されている。指定管理者制度とは、地方公共団体が直接公の施設を運営するのではなく、運営ノウハウを持っている法人・個人に運営管理を委託するものである。

ところで、国の予算編成では、各省庁から財務省へ予算要求をするが、予算要求された財務省主計局は、100%効果があると説明されないと、YESとは言わない。国税を用いて執行したが、効果がなかった場合、誰が責任を取るのかという問題があるためである。キャッチアップの時代には、欧米先進国の例があったため、100%大丈夫だと、具体例を示して言えたが、今日ではそれは難しい。これに対して、地方公共団体の予算編成では、知事査定や市町村長査定があり、知事や市町村長が最終的に責任を持つため、要求部局が100%効果があると説明できなくとも、予算が認められることがある。このため、近年のように、フロントランナーになった時代には、地方共団体の方が、新しい政策を積極的に展開して行きやすい。

(3)地方公共団体の歳入

地方公共団体の歳入としては、地方税、地方譲与税、地方交付税、国庫支出金、地方債、分担金・使用料・手数料、財産収入といったものがある。

(4)複数の地方公共団体による事務処理

複数の地方公共団体による事務処理を行う場合には、協議会や機関の共同設置、事務の委託といったことを行っている。

(5)市町村の合併

市町村については、平成の市町村合併ということで、かなり市町村の数が減っている。

現在は、1,724市町村である。

明治21年の町村数は、集落レベルのもので、71,314町村だった。これを、小学校を運営できる300~500戸レベルまで合併して、翌明治22年には、市制町村制の施行とともに、15,859市町村になり、その後、工業化による都市化の進展、鉄道事業の拡大により、昭和22年には約10,000市町村にまで減った。

昭和28年には、町村合併促進法で再度合併が大きく進んだ。この時に市町村合併を進めた理由は、新制中学校(現在の中学校)を成り立たせるためで、概ね8,000人くらいの町に集約するため合併を進めていった。昭和36年には3,472市町村になり、昭和50年に3,257市町村となっている。

その後3,200市町村程度で進んできたが、平成の合併ということで再度合併が推進された。平成の合併を進めた理由の一つは、地方分権である。地方分権のためには、その受け皿となる市町村において、人材の確保と財源の確保がなければ、市町村が一定の質の高い事務を行うことは難しい。一定の規模でくくれば、規模の利益が出てきて、財政的にも効率性が進む。また、平成の市町村合併には、その前提として、情報化やモータリゼーションが進行してきているため、広域的にある程度の一体性は確保できるということがあった。

(6)地方公共団体の経営

地方公共団体の経営として、地方公営企業を運営している。上下水道や地下鉄・バス事業などである。また、地方独立行政法人という仕組みがあり、県立大学などがその仕組みを用いていることが多い。


5.国と地方公共団体、都道府県と市町村との関係

 

国と地方公共団体、都道府県と市町村、これら相互の間には、権衡と連携が重要になってくる。

中央集権が強すぎると、国民にとっては、厳しいものとなるが、地方公共団体が存在することにより、住民のための地方自治が担われることから、国と地方公共団体の間に、権衡が成り立ち、しかし、国民、住民にとって、適切な行政が行われるためには、うまく連携してもらう必要がある。

地方公共団体の事務には、自治事務、法定受託事務の区分がある。しかも、自治事務には、地方公共団体の独自の事務だけではなく、法定受託事務以外の、国からの受託事務が含まれている。

このため、国が地方公共団体に関与するときには、関与法定主義で、どのような関与をするのかは法定される。さらに、関与については、必要最小限度であることが求められている。

国と地方公共団体の間で、事務の関与に関して、紛争が生じることがある。国が同意をしないなどの時に、地方公共団体は訴えを起こすことができる。国と地方の場合には国地方係争処理委員会に、地方と地方の場合には自治紛争処理委員に、さらに、それらの裁定に納得がいかない場合には、高等裁判所に訴えることができる。






6.事務処理(規制、給付など)のあり方

 

国の一律処理に関連して、地方の上乗せ、横出し、裾切りへの措置といったことがある。

これは、法律と条例との関係の問題で、法律が一定の基準で内容を決めている場合に、それに対して、条例が上乗せできるか、あるいは決めていない事柄に横出しをした条例を制定できるか、あるいは一定の基準以上のものを規制(裾切り)しているものに対して、その基準以下のものに対する規制を定める条例を制定できるかといったことである。

これに対して、最高裁判所の判例がある。徳島市公安条例訴訟の判例では、法律と条例の間で、趣旨、目的、内容、効果について、その法律が容認しているかどうかで、条例が制定できるかどうかが決まるということが示された。法律に容認されない条例は、違法、無効となる。

次に、地方分権改革推進委員会では、国による義務付け、枠付けの見直しを行った。法定受託事務については、そもそも国が細かくかかわることになるが、自治事務は地方公共団体の自主性、自立性をもっと配慮すべきではないかということである。現在、義務付け、枠付けの見直しに関する法律案が国会に上程されている。また、地域主権戦略の第2次分としての整理もでき、義務付け、枠付けの見直しということについて、どういったことをするのかがまとめられている。

国の法令による基準を、地方公共団体がそれぞれの実情に合わせて、条例で調整をすることが可能な枠組みに、変化している。なお、国が定めている基準が、元々、標準的なものということであれば、それぞれの地方の特性に合わせて、処理をすることが出来る。

また、地方公共団体が行える事務の分野は、元来非常に広いもので、国の処理がないところでは、都道府県や市町村が、自ら責任を持って、いろいろと新しい施策を進めていくことができる。しかし、その時に、財源が確保できるかどうかが、課題になってくる。





7.地方自治制度の概要

 

(1)地方自治制度は二層制

地方公共団体は二層制となっている。広域地方公共団体が都道府県、基礎地方公共団体が市町村である。都道府県数は47、市町村数は平成234月現在で1,724である。

市は、原則人口5万人以上だが、市町村合併を進めているときに、人口を3万人くらいに下げたこともある。しかも、一度、市になると、人口が減っても市であり続けるため、人口が1万人程度の市があるのも実情である。町はだいたい人口3,000人以上で、それぞれの都道府県の条例で基準が定められている。

(2)執行機関と議会

執行機関は長と委員会で、委員会には教育委員会や人事委員会、公安委員会、労働委員会、収容委員会といったものがある。委員には監査委員があるが、監査委員が委員会になっていないのは、監査委員はそれぞれが独立して行動することができるためである。

議会の議員は住民による直接選挙で選ばれる。委員会や委員は議会で選挙されたり、議会の同意を得て、選任されることになっている。

地方公共団体では、予算や条例を作るのは非常に重要なことで、この意思決定は、議会の議決によって行われる。予算編成をするのは長だが、最終的に議決をするのは議会である。議会では、予算の増額修正、減額修正をできるのだが、あまり実際に行った例を聞かない。

(3)日本の地方公共団体の特徴

日本の地方公共団体の特徴として、都道府県、市町村とも、固有の地方自治の事務の他、法令により、国の事務を受託して、その事務を自らの事務として行っている。 

地方公共団体の事務には、自治事務と法定受託事務がある。

法定受託事務は、国からの受託事務であり、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして、法律又はこれに基づく政令に特に定めるものである。このため、法定受託事務では、その執行について、法令で国が細かなところまで決める仕組みとなっている。法定受託事務の例としては、都道府県ではパスポートなど、市町村では戸籍などがある。

自治事務は、法定受託事務以外の事務であり、地方公共団体の独自の事務と、国からの受託事務で法定受託事務以外のものである。

なお、地方分権一括法による改正前には、機関委任事務というのがあった。都道府県知事や市町村長が、大臣の下部機関として、事務を行うものである。この場合には、知事や市町村長は、大臣の下部機関であるので、上命下達で、通達により指揮命令されていた。

(4)地方公共団体の事務と財政

地方公共団体の事務を行うために要する経費は、地方財政方第9条により、全額地方公共団体が負担することになっている。

ただし、一定の事務については、国がその経費の全部又は一部を負担し、また、国は特別の必要があると認めるときには補助金を交付することができる。

具体的な例として、生活保護費は、国の負担が4分の3、地方公共団体の負担が4分の1である。

しかしながら、生活保護費のような、元来、国の事務そのものについて、地方公共団体の負担があることが妥当かどうか、疑問が出ているのも現実である。

地方公共団体の財政で、歳入は、地方税、地方譲与税、地方交付税、国庫支出金、地方債、使用料、手数料などによってまかなわれることとなっている。

地方税は、地方税法で、どのような税金を課すのかという枠組みが決められている。そこで定められた法定税は、税源として、地方公共団体に設定されているわけであるが、具体的に課税するには、条例で定め、条例により課税する。どれだけの税率にするかは、地方公共団体に、選択の幅がある。そのため、名古屋市のように減税しようと思えばすることができる。また、国が標準税率を定めているが、それを上回る超過課税もできる。

法定外税として、地方公共団体が独自に課税をしようと思えば、法定外税を作ることができる。ただし、法定外税を作るには、総務大臣の同意が必要となっている。総務大臣は、物流に多大な支障を与えるなど国の一定の経済・社会情勢から考えて支障がある場合以外には、不同意ができないこととされている。

地方譲与税は、国が便宜上一旦国税として徴収して、一定の基準に従って地方公共団体に配分するものである。

地方交付税は、財源として国税である所得税の32%、酒税の32%、法人税の34%、消費税の29.5%、たばこ税の25%によって構成されている。これを財源として、それぞれの地方公共団体の基準財政需要額から基準財政収入額を差し引いた財源不足額を、交付するというものである。なお、法定の財源では財源不足額をまかなえない場合、さらに必要な調整が行われることとなっている。

基準財政需要額とは、各地方公共団体の標準的な財政需要を合理的に測定するために、一定の方式により算定された額で、基本的には財政需要と相関関係があると見られる測定単位を決め、それに合理的に算定された単位費用を乗じて、必要な補正を行い算定するものである。

基準財政収入額は、地方税収を標準税率によって見込んだ値の75%、それと、地方譲与税などの見込み額を加えたものである。

国庫支出金は、国から地方公共団体に支出される負担金、補助金などである。

地方債は、建設事業など財源を長期の借入金に求めることができる経費について、長期の資金借り入れを行うものである。

使用料・手数料などは、公の施設の使用料、地方公共団体の行う検査などのサービス事務への手数料の徴収などである。

また、留保財源(地方税収を標準税率によって見込んだ値の25%)や特別の財源(超過課税、法定外税、収益事業収入など)は、独自の財源として確保されている。

この結果は、地方税収の多いところは、留保財源も多く、地方税収の少ないところは、留保財源も少ないため、地方公共団体によって、独自に行うことができる施策には、財源的に差が出てくるというのが実情である。

地方財政計画は、地方交付税法第7条に規定する、翌年度の地方団体の歳入歳出総額の見込額に関する書類であり、地方公共団体が翌年度予算編成をするときの指標でもあれば、地方交付税を算定するときのベースにもなるものである。

最近の地方財政計画を見てみると、実は、その規模が徐々に小さくなってきている。これは、この間行政改革を進めてきたことと、補助・単独とも公共事業を削減してきたためである。一方、社会保障関係経費は相当に増えているものの、減少分の方が大きいため、トータルでは少しずつ減っているという状況になっている。

なお、規模はそのように縮小しているのであるが、できるだけ地方が独自施策を行えるよう、地域活性化費の確保などで配慮がなされている。

最後に、地域主権戦略大綱では、義務付け、枠付けの見直しや条例制定権の拡大、基礎自治体への権限委譲の推進、国の出先機関の原則廃止、ひも付き補助金の一括交付金化といったことが示されている。また、直轄事業負担金の廃止や、地方自治法の抜本見直しを行うという地方政府基本法について、さらに、中長期的な課題である道州制や緑の分権改革といったことについても触れられているところである。

なお、財源については、地方消費税は、地方公共団体間で最も税源に格差が少ないものであるため、消費税の改定の時に、地方財源を充実するため、地方消費税をどうするのかという大きな問題が出てくることになるものと思われる。






Copyright(c) Ritsumeikan Univ. All Right reserved.
このページに関するお問い合わせは、立命館大学 共通教育推進機構(事務局:共通教育課) まで
TEL(075)465-8472