「全国知事リレー講義」ライン

 2011年 5月 17日          全国市町村国際文化研修所 市橋 保彦 学長


           「自治の担い手づくりをめざして





1.はじめに

全国市町村国際文化研修所は、市町村の全国的な研修機関という位置づけとなっている。市町村職員の研修は、まずは市町村単位で行うのが基本で、さらに県単位で行い、例えば東北のようにブロック単位で行い、その上で、全国で行うことになっている。

行政機関としては、総務省の自治大学校が、主として都道府県の研修を行っている。また、各省庁でも縦割りで研修をしている。

全国市町村国際文化研修所は、全国の市町村が、共同で財団法人を設立して設けられた研修機関である。千葉と滋賀(大津)で、市町村職員の研修を行っている。「国際文化」と名前にあるが、平成5年に設立された時には、市町村の国際化に対応できる人間を育てようということが主な目的だったためである。そのため、長期の語学研修も行っていた。

最近は、一般的な市町村が直面する課題についての研修をしている。全国的に定住外国人が増え、地域でその方々との共生を図っていく必要から、多文化共生に関する研修も力を入れて行っている。

今回の大震災では、研修の受講者で構成しているNPOが、11ヶ国語を用いてホームページで情報提供を行い、6ヶ国語で相談を行った。

受講者は年間4,700人強で推移している。34日の研修が中心で、年間100コースの研修を行っている。

今日は、地方自治を支える要素のうち、首長以外の市町村職員、議員という要素についての話をしたい。私たちの研修対象も市町村職員がメインだが、議員も多くいる。最近では、地方議会をめぐる問題が、統一地方選でも話題になった。

地方議員は全国でどのくらいいると思うか。平成22年末で、都道府県議会議員が2,284人、市区町村議会議員が33,695人おり、合計で36,479人となっている。議員がたくさんいるが、なかなか地方議会議員の話を聞く機会はない。





2.市町村を取り巻く社会経済情勢の変化


昨年、財団が設立されて相当期間が経過したため、もう一度研修機関のあり方を考えようということで、研究会を設けた。そこでは市町村を取り巻く社会経済情勢として、地方への分権、グローバル化の進展、多様な主体との協働による地域づくり、行革、使命感の欠如などが意見として挙げられた。

(「地域主権改革」の進展)

現在、地域主権改革が進められている。今は第二次分権改革と言われている。

第一次の分権改革は平成7年の地方分権推進法から平成12の地方分権一括法の成立、それから三位一体の改革までを第一次と言っている。大きく変わった点は、機関委任事務の廃止で、国と地方が対等・協力の関係になった。

しかし、以前とそれほど変わったという実感はない。地方で物事を自主決定できるだけの権限、財源がまだまだ不十分で、分権改革はまだまだ道半ばというところである。

平成18年に地方分権改革推進法ができ、3年間いろいろ議論をした。そこでは、地方にもっと権限を与えるということで、事務のやり方を法律で義務付けたり内容を規定したりしているものである、「義務付け」、「枠付け」を見直すということや、国と地方の協議の場の設定、地方分権改革を推進するための組織づくりを進めるという内容が提出された。また、地域主権戦略大綱が閣議決定され、自治体の構造をもう少し柔軟にしたらどうかということで、議会制度や議会と首長の関係を見直す議論もなされている。

地域主権関連三法案が国会で成立したが、国民主権にもかかわらずなぜ「地域主権」かということを言われ、法律上の名称は変わったが、民主党政権としては今でも「地域主権」改革という言葉を使っている。

いずれにせよ、「地域主権」に向かって一歩踏み出された形だったが、そこに今回の震災が起きた。今回の震災は国家的な危機なので、国の指導のもと、一気に進めないとならない部分もあるが、何のために「地域主権」改革をするのかということを押さえないと、地方から発信するメッセージも効果がない。

そこで重要なのは、住民という視点である。「地域主権」は、国と地方の権限争いではなく、住民のチェックが効きやすいようにするため、政策決定を住民に身近なところへ持ってくるということで、地方に権限をおろすのだという理念である。今後、地方に来るであろう権限に、しっかり対応して、地方がしっかりと政策決定をしていく役割が求められる。

(地方公務員の状況)

職員はどのような状況にあるのかと言うと、地方の職員数は減り続けている。平成6年には328万人いたが、平成21年には286万人となり、平成22年には281万人で、ピーク時より14%ほど減少している。

平成17年から平成22年まで、「集中改革プラン」を全国の自治体が作り、6.4%を削減目標として取り組んだ。結果として、実際は7.5%の減に成功した。

しかし、住民の安心・安全にかかわる部分(警察等)は減らさず、増やしている。教育部門では減少が見られる。児童虐待関係や福祉関係の職員は増やしているが、ゴミ収集等の職員は減っている。団塊の世代が大量退職しても、同じだけの人数を採用しないという形で、今回の減少が生じている。課題としては、職場内での教育が十分なされておらず、ノウハウが職場内で十分伝わっていないといったことがある。民間委託も大変進んだが、委託した業務を監督していくという業務は残る。しかし、そのマネジメントが十分対応できていないといった課題もある。

また、少ない職員で、ほとんど日常業務に忙殺されているため、新たな業務に手もまわらず、使命感、プライドも持ちづらいといったことにもなっている。最近の若い人は、社会人としての一般常識に欠けている職員も散見される。今後ますます少数精鋭ということが求められる。人員的にも財源的にも行政で対応できる部分は非常に制限されている。

(新しい公共の動き)

一方で、国民、住民の間には、社会貢献したいという意欲も高まっている。そのことを受けて、昨年国で「新しい公共」に注目して今後取り組んでいったらどうかという提言がなされた。市民参加を念頭に置いた新しい政府のあり方を模索していくというものである。

また、総務省の研究会では同じような社会条件、経済条件でも、元気のある地域と元気のない地域がある。その差は人材力に帰結するのではないかという結論に至った。地域の人材力を高めるために、NPOなどが相互に交流する機会をつくるべきだと指摘された。

新しい公共の担い手としては、NPOがその役割を期待されている。NPOにいかに自主性を持たせ育てていくかといったコーディネート能力も求められる。NPOもさまざまで、最近は二極化しているということが言われている。いろいろなところから財源を調達して積極的に動いているところもあるが、そうではないところもある。

今回の大震災では、研修受講者のOBで構成するNPOが外国語により情報提供を行った。NPOは行政とは違い、スムーズに動くことができる。例えば、今回の震災の対応にしても、研修受講者OBのNPOが、ソフトバンクから電話の回線と電話の無料提供を受けたが、行政ではそのような良い話でもすぐには動けない。行政が提供を受ける場合は、ソフトバンクという一つの企業にだけにお世話になっても良いのか、他に声をかけなくても良いのかということを考えることになりかねない。

このように、行政ではどうしても制約があるが、民間は機敏に動くことができる。従来の典型的な平等だけが求められる分野以外でも、公の色彩のあるものが対応しないといけないということが出てきている。いかに行政がNPOと連携を図っていくかが今後の課題だろうと思う。

(グローバル化戦略と多文化共生)

国際化の対応としては、海外からの観光客の誘致や、農林水産物をはじめとした海外への輸出が今後の日本の市場拡大への重大な要素となってくるように、グローバル戦略への対応も求められている。

一方で、日本で暮らす外国人が増えている。外国人登録者が219万人で、総人口の1.7%となっている。一番多いのは中国で、66万人いる。次に、韓国朝鮮の人が59万人となっている。平成19年から中国がトップとなっている。また、人口動態調査では、平成20年に結婚した夫婦のうち、一方が外国人という割合は5.1%という統計が出ている。

製造業が盛んな地域では、南米の方々の割合が高いという特徴がある。地域でいろいろな文化を持った方の相違を認めつつ、同じ地域に暮らす人間として共生を図っていくことも重要となっている。

研究会からは企画、協働能力の育成に力を入れ、全国的なレベルで先進事例の収集や研修ノウハウの蓄積、それの市町村への提供も行うべきだということも指摘されている。また、地域リーダーの育成や、市町村長、議員の質の向上を図るべきだという指摘も受けている。



  


3.地方議会をめぐる動き

 

地方議員は36千人ほどいるが、届出時の所属政党を見ると都道府県では46%が自民党、次に無所属が約2割、次いで民主党となっている。

一方、市町村議会議員では、一番多いのは無所属で約7割、次いで共産党、公明党、自民党、民主党の順となっている。

地方議会は地方公共団体の議事機関として憲法で位置づけられ、住民による直接選挙で選ばれた議員で構成されるとされている。議会は議事機関で、議員定数がそれぞれあるが、今までは法律上上限が決まっており、その範囲内で、条例で決めるという形だった。しかし今後は、それぞれの地方公共団体でそれぞれの定数を決めるという形になる。

議会では、議員の中から議長が選任される。本会議と委員会に分かれて議論を行うという形となっている。本会議で一般質問を行った後、委員会で専門的な議論がなされ、その議論が本会議で再度採決されるという手順を踏むという形となっている。

議会には定例会と臨時会があり、定例会は条例で定める回数開催される。大半のところは4回だが、異なるところもある。定例会では、条例の制定改廃、予算・決算の議決などが審議される。

議院内閣制では、国会が最高議決機関として位置づけられる。一方、地方は二元代表性となっており、首長と議会議員それぞれを国民が選挙で選ぶことになっている。そのため与野党が形成される必要はなく、相互にチェックしあうことが求められる。

国にはない制度として、議員の解職請求権や議会の解散請求権が住民にあるといった点がある。地方の政治形態は、直接民主制を加味した間接民主制とも言えるだろう。住民投票をしようということを首長が提案すると、議会が住民の代表は自分たちで、議会軽視だという批判が来ることがある。国にはない住民との間の制度があるということは認識しておくべきだろう。

また、議会には首長をチェックする役割が期待されるが、チェック機能を果たさず、追認機関ではないかということも言われている。その点の改革の動きは鈍いまま今まで来てしまった。

かつては地方議会に関する問題はあまり取り上げられなかったが、阿久根市が議会を開かなかったことが、かなりマスコミで話題になった。このようなことは、過去にもあったことだが、大きく報道はされていなかった。発信力のある首長もでてきて議会と揉めることが報道され、最近関心が高まってきた。

首長を含めた行政の職員は、議会が静かなほうが良いと思っている。私が都道府県で仕事をしていたときに、大きな仕事の一つとして議会対応があった。執行部との間はうまくいくが、住民から見るとつまらない議論となり、議会は何をしているのだということになる。議員は支持者と交流しており、議員個人対支持者は密にやっていたが、組織全体と住民という視点は欠けていたと思う。

最近は、そのことに危機感を持つ議会も増えている。また、議会基本条例を作る自治体も増えており、急速に議会基本条例を持っている議会が増えている。先駆け的に作ったのが北海道栗山町で、平成18年に条例をつくった。全国的に広がりが見られるもので、どのようなことが規定されているかもそれぞれである。例えば、議会の行動を組織として住民に報告する議会報告会を行ったり、審議をインターネットでライブ中継したりする等の取り組みが行われている。また、町長等がコスト推計などの必要な情報を議会に提供することに関しても議会基本条例で定めているところがある。





 質疑応答

問 最近、職員の研修を行うにあたり、重視しているのはどのような点か。

答 研修の体系は、専門的な研修と政策課題に関する研修に分かれている。専門的な研修としては、税に関する事柄や、条例の書き方といった研修をしている。政策課題研修として、個別に今直面している政策課題に関する研修も行っている。

地方自治の基本や行政法に関する研修よりも、むしろ個別の課題への対応を行っている。例えば今では、自治体経営ということがよく言われる。法律に基づいて行政を執行するだけではなく、住民の意向をいかにくみ取って、住民の満足度の高いことをやっていくかということが大事になっている。

自治体経営、政策評価、経営改善、住民との協働といったことをテーマとした研修の需要が高い。時代に合わせた研修も行っており、昨年は児童虐待が問題になった際には児童虐待関係の緊急臨時セミナーを行った。

最近は、地域での自殺問題に関して、対応をどうすれば良いのかという研修を行っている。また、地域経済の活性化をいかに図っていくか、観光振興等の研修を行っている。

自治体職員として、時代によって求められる政策テーマへの対応が求められるため、それに柔軟に対応できるような形で研修メニューを用意している。

 

問 国際化に対応する上で、重要になっていることはどのようなことか。

答 最近、中国で富裕層が増えてきたということが話題となっている。農産物にしても、日本国内で米の消費がどんどん落ち込んでいる。日本の米はタイ米や中国米に比べかなり高かったが、中国では高くても売れるという状況になってきた。自治体レベルで、中国をターゲットにいろいろ売り込んでいこうという動きがある。県レベルでは、ほとんどの県が行っていた。その知識を与えるための研修も行っている。

また、例えばゴルフをする人が日本では減っているが、東北、北海道のゴルフ場に中国からのゴルフ客を呼び込んでいるということもしている。日本では若者がスキーをしなくなってきているが、日本の雪質は非常に良いため、中国から日本にスキーをしに来ている人も多い。

アジアだけをとっても、中間層が大変増えている。それらをターゲットにして、地域の特産物や観光を大きく展開していかないといけないと思っている。

中国の次に大きく成長するのはインド。昨年初めてインドに関する研修を行った。末端の市町村レベルでは、そこまで組織的にできていない部分もあるが、地域の農協や商工会でも国際化を十分に念頭に置いた対応が必要となっている。




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