「「協創」:「ひと」を「たから」としたまちづくり
〜第5次神戸市基本計画について〜」
今日は、神戸の現状の姿とそれに至る過程や現在抱えている悩みについて話したい。
「協創」という言葉にはあまりなじみがないと思う。神戸市は、新・神戸市基本構想を1995年に策定し、その中で2025年までの30年間をどうするかということを考えている。しかし、30年間というのはあまりにも長いため、15年ほどで切って基本計画を作っている。
以前は、2010年までの第4次基本計画だったが、現在は第5次神戸市基本計画として、2011年から2025年に向けて、どう進んでいくかといったことや、変わっていく時代に対して、どのようにまちをつくっていくのかという方向を考えている。
その時に大事なのは人財で、「ひと」を「たから」としたまちづくりをしていかないと、これからは大きな飛躍は望めない。
東日本大震災では、仙台市と名取市に現在救援に入っている。
名取市では、海岸からどっと津波が押し寄せてきて、防潮林をすべてなぎ倒して進み、水が流れ込み家屋がすべて流されたという状況となっている。
また、仙台市若林区の海岸には、東部道路という土盛りの道路があり、そこで津波は止まったが、そこに至るまでの間はすべてのものが流され、何も残っていない。
この地域の方々は何もなくなったため、未だに元の地域に戻ることができない。多くの死者が出て、行方不明者もまだ多くいる状態となっている。
神戸市の支援としては、震災当日に緊急消防援助隊がすぐに出動し、約2ケ月間作業にあたった。緊急消防援助隊は、福島原発の放水作業にも派遣された。消防は何かあれば一番に駆けつけるという役割を担っており、各地域での災害対応の先頭に立っている。
なぜそのような支援をするかというと、1995年の阪神・淡路大震災で神戸が大変な被害を受けた時に、国内外から大変な支援を受けたためである。自分たちの教訓を、何か生かしてもらおうと考えている。また、医療チームであるDMATも派遣し、災害派遣医療を行っている。
家を流されたため、避難所に避難しないと生活ができない人々が多くいるため、避難所の運営の支援も行 っていた。現在は、現地の方々が避難所運営に携わっているため、神戸市は別の仕事として、罹災証明の発行の関係について協力をしたり、岩手県で水道の再生作業を行ったりしている。また、地震が起きると、下水道が徹底的に破壊されるため、福島県で下水道の再生にも取り組んだ。道路の復旧や地滑りも起きているため、宮城県を中心にその対策も行っている。
このように、日が経つにつれ、仕事は変わっていく。現在、神戸市からは累計で約9,000人が現地へ行っている。また、神戸市に避難して来ている人もいるため、公営住宅を応急仮設住宅として使い、そこに住んでいただき、保健婦等が見守りもしている。
避難者としては、元住んでいた地域がどうなっているのかといった情報や、義援金や災害給付金に関する情報も気になる。それらの情報を把握するため、現地の市町村が出す広報誌や地元新聞を入手し、登録をした避難者に届けるといったこともしている。そのようにして、地元とのつながりを持って暮らしていただけるように配慮している。
阪神・淡路大震災の経験から、このようなことが必要だと分かっていたため、その経験を生かして取り組んできている。どんどん状況が変わっていくが、次は復興のことも計画に入れていかないとならない。その時には、神戸市がどのように復興に取り組んできたかということも伝えていきたい。
阪神・淡路大震災による神戸市内での被害の状況は、死者4,571名だった。炎に包まれた新長田地区が丸焼けとなり、鉄筋の建物が少し残った程度になっていたのが印象に残っている。その地区の被害も、10年経った後には、再開発により再生した。
横倒しになった高速道路も、1年半で再生することができた。神戸の場合、家屋の倒壊によって多くの圧死者が出たという特徴がある。一方で、今回の震災は、津波による被害が圧倒的に多く、津波で20,000人以上が亡くなった。
また、神戸の場合、家がほとんど全壊、半壊、全焼したというのが特徴だったが、今回の震災では津波によってほとんどのものが飲み尽くされた。
この再生にはかなりの時間がかかることが予想されるが、必ず元の状態か、もっと新しい姿に持っていく必要がある。
阪神・淡路大震災の場合の被害額は、資本ストックだけで16兆円の被害があった。そのうち、神戸市単体では約10兆円の被害だった。その半分を国が負担し、残りは神戸市と兵庫県で負担した。
震災前までは神戸市の人口は152万人だったが、震災の年の10月の国勢調査では、142万人という数字になった。しかし、昨年10月の国勢調査では、154万5千人となっており、震災の時点を上回っている。
日本全体で人口が減っていると言われる中で、神戸市ではむしろ人口が増えているという状況となっている。
震災の復興のため、神戸市では約3兆円を、借金を中心に調達した。
神戸市の財政収入として大きなものは、基幹産業である重厚長大産業や、新しい分野の産業からの収入だったが、それが震災で一気に壊滅して失われた。税収のうち、神戸市から国が持って行く割合が約6割で、県が約2割、神戸市が手にする収入は約2割といった状況だった。国の収入分を3年間神戸市がもらいたいという話をしたが、断られた。
その結果、借金が積み重なり、危機的な財政状況になった。平成15年2月に、ある経済雑誌に、「日本で財政破たんが起こる自治体はどこか」というランキング記事があったが、当時ダントツの一位が神戸市だった。
行財政改革をやらずには、市民の安全・安心は守れないという状況だった。その手法は、今までやっていた1,214の事務事業を、外部機関に依頼して、3年間かけてすべて点検してもらうという手法で行った。
徹底して全事業の分析・検証をし、458の事業が不適当と言われ、そのうち、127事業が抜本的に見直す必要があると指摘された。そこでは、市民の税の負担と、受けているサービスが見合ったものになっているのかという点が追求された。
見直しをした結果、様々な部分で市民との摩擦も起こった。例えば、60歳以上の方にお渡ししていた敬老パスの支給年齢を、70歳以上に引き上げたといったことがある。また、民間活力の活用ということで、市バスでも民営化した。保育所も170ほどあるが、民間に多くをお願いしている。様々な公の施設を、すべて民間や地域に任せようということで、指定管理者制度も導入している。
資金の調達方法とも関わるが、新しい施設を造る時に、自分たちで借金をしたり、税で負担したりするのではなく、民間の資金を活用して行うということで、PFIの導入も進めている。
外郭団体の見直しも行い、震災当時64あった外郭団体を、今では42団体としている。一番大きなインパクトを与えたのは、職員の総定数の削減で、震災当時約22,000人いた職員が、今は約16,000人に減っている。しかし、サービスは低下していない。
平成6年度に震災の復興事業の影響により、神戸市の借金は膨らんだ。従来は市営住宅事業を一般会計で行っていたのを、特別会計でやるようにしたため、特別会計の借金も膨らんでいる。
借金は大変な状態で、職員給与も平成15年度から平成17年度までの3年間カットをした。また、幹部の給与は、今でもずっとカットを続けている。まだまだ事業の見直しも行っている。
財政健全化が、国の方で言われているが、神戸市の実質公債費比率は、平成21年度で13.9%である。そのため、財政の健全化という点については、問題はないという状況となってきている。
これからの時代、日本の国全体が少子高齢化で、人口減少社会を迎えるといわれている。その時に問題になるのは、高齢者の数がどんどん増えていくということと、生産年齢人口が減っていくということである。
そうなった時に、日本の経済はどうなるのか。社会保障と税の改革ということが言われているが、重要な点である。神戸市では、税収は横ばいで推移しているが、生産年齢人口はどんどん減っている。一方で、高齢化が進み、高齢者人口がどんどん増えている。そうすると、医療や福祉の経費が増えていくことになる。
これは、市長の責任ではなく、国の制度をどう組み立てるかという問題である。制度をどうするかを国で決めないことにはダメになってしまう。社会保障と税の一体改革が言われはじめたが、誰か負担する人がいなければ、成り立たないということを前提として考えていかないといけない。
今後の推計であるが、2006年と2050年のGDP比較で見た場合、中国やインドがシェアを伸ばしてくることになる。あわせて、欧米先進国と日本の相対的な地位も変わることになる。2050年には中国がGDPの約30%を占めることになり、アメリカは16%にまで落ちる。また、インドが16%になる。中国とインド、ロシアといった新興国が発展してくるが、日本は落ち込む。
そうなった時に、皆さんの暮らしはどうなるかということを考えないといけない。北欧諸国の人に、生活に満足しているか聞くと、収入の6割を税で払っているが、国が税できちんと保障をしてくれるという安心感があるため、満足しているという意見である。
しかし、バランスが崩れると、大変なことになる。北欧諸国では、雇用、産業の基盤もしっかりしている。日本の場合、今はそのようなシステムもしっかりしているが、生産年齢人口が減っていき、人材が失われていくと、今後は大変なことになる。そのため、今のうちに制度を組み立てておかないといけない。
第5次神戸市基本計画では、5年スパンの実行計画をたてている。また、9の行政区ごとに、各区計画をたててもらい、自分たちのまちをどうしたいかということを決めてもらっている。あわせて、財源の裏付けもきちっと渡しながら、取り組んでいる。
行財政改革をどんどん続けていくと同時に、各セクションの性格を個別に組み立てて、緻密にできているかどうかを点検していくようにしている。やらない計画は意味がなく、やってこそ意味がある計画となる。
計画を実行する際には目標をつくるが、暮らし、経済をどう向上させるか、魅力をどうつくるかといったことを考えている。この5年間でベースを作り、「協創」という言葉を合い言葉にしていこうとしている。
多様性のあるまちでないと発展はできない。人が集まり、生き生きと活躍しなければまちの魅力は発生しない。
これからの時代、「ひと」が「たから」だと考えている。地域で人が活躍し、地域の人々が自立するため、何か取り組みをしてもらう。例えば、コミュニティの設定等、いろいろな努力を地域でやってもらっている。
神戸市には、人工島のポートアイランドと六甲アイランドがある。神戸のまちの市街地が狭く、企業がなかなか拡張できなかった。工場を住宅の中につくってはいけないという法律もできたという困難もあった。
その時に、今後コンテナ物流が発展してくるだろうということを見据えて、日本初のコンテナバースを人工島に造った。
国際先端医療にも力を入れて取り組んでおり、アジアでナンバーワンのバイオメディカルクラスターを目指している。そのために、研究者、技術者と病院の集積を目指している。それには、資金が必要となるため、資金をきちっと調達できるような仕組みにしておかないといけない。今では、人材が世界で最も重要なものとなっている。これからアジアで最も注目される拠点になるようにしていきたい。
国際コンテナ戦略港湾にも力を入れて取り組んでいる。日本は海に囲まれた国で、その点を活用していかないとならない。港を特区としていろいろなインセンティブを与え、伸ばしていこうという取り組みをしている。他国の港に流れて行っているものを取り戻すことが重要で、そのためにはコストの問題や手続きの簡素化などの課題がある。例えばシンガポールでは、入港前にICで物流を管理するようになっている。しかし、日本では一元化がうまくいっていない。また、ウォーターフロントを、物流の場所としてだけではなく、人が近づいて楽しんでもらえるように取り組んでいる。
環境問題も成長戦略の一つとなっている。最近は原発の問題もあり、今後新エネルギーも含めて、どうエネルギーを活用するかが大きく問われている。
神戸では、下水処理場で汚水を処理する際に出るメタンガスをタンクに貯蔵し、それを純正化して、車のガスに使用したり、家庭のガスに供給したりしている。また、バイオマス発電も行っている。工場からの排熱ガスや小規模河川の流れ、潮流を利用したエネルギー発電の実用化も考えている。
なぜ地方分権が必要かということは承知だと思うので言わないが、従来の中央集権システムは、日本の経済発展に大きく寄与した。大量生産、大量消費という産業化の時代には、国が画一して育てる集権型が有効だったが、今は住民に身近な自治体がそれぞれの住民のニーズに合わせたサービスを提供することが大事という時代になっている。
分権には自主性が重要で、権限だけもらっても仕方なく、財源が担保されていないといけ ない。地方税と国税の比率を見比べると、地方が4.5、国が5.5となっている。しかし、サービス提供で見ると、地方が9、国が1となる。その差は、地方交付税や国庫支出金で調整され、国から地方へ配分される仕組みとなっている。そのような仕組みではなく、国と地方の役割を決めて税源を移譲すべきと主張している。
指定都市は19あるが、その指定都市市長会で、特別自治市に関することを提唱している。政令指定都市は、基礎自治体としての役割とともに、広域としての成長戦略拠点としての意味も持っている。大都市が持っている能力をより一層高めることが重要で、道州制といったことも一つの方向かもしれないが、その中で大都市が戦略上持っている役割をもっと認知して、それに対してどう改革していくかということをきちっと位置づけるべきではないかと考えている。
そこで、特別自治市を提唱している。それは、少子・高齢化、人口減少が進むと、成長が難しい時代になるが、その中で、市民福祉を保つため、それに関わる制度も組み替えて、国そのものがもっときちっとした市民のニーズに応えうるような形にしていく必要があるといった点から出てきている。それを引っ張るのが、大都市制度だと考えている。分権については、地方分権改革推進委員会の第4次勧告が出されたが、いっこうに進んでいないと思う。
皆さんには、4年間の大学で学んだこと以上の目標を掲げながら、努力を続けてほしい。大学院に進んだり、海外へ留学したりする人もいると思うが、まさに時代はそのような人をかなり求めている。
現に中国や韓国の若い人たちは、今どんどん海外に出て行っている。皆さんも是非頑張ってもらいたい。そのことがこれからの社会へ対応する大きな力になると思う。
問 今回の震災において、復興のゴールとは何だと考えるか。
答 復興のゴールは、元の姿に戻すことだけではない。人々の暮らしが、安定し、地域が活性化し、新しいものを生み出すということが非常に大事である。
若い人たちがしっかり頑張っていける拠点づくりをこの地域が担い、NGOやNPO、ベンチャーなど多様な形態が生まれてくることも重要である。
何よりも大事なのは、人と人とのつながりである。それがきちんとできたら「再生」と言えると思う。国がもっと制度をきちんとして支えることが第一だと思う。我々地方は、現地の人たちと強い絆をもって支えているし、支援をし続けるのが我々の使命だと思う。
問 絆の再生ということで、絆を育てるためには、どのように市が働きかけることができるか。
答 昔から、自助、共助、公助という言葉が言われる。自助とは自分で自立してやっていくということで、共助は地域の人といっしょになってやりとげるということで、公助は行政という公の力で支えるというものである。
公助を考える上で大事なのは、一人ひとりの気持ちがどれだけ大きな力を生むかということである。あわせて、何か自分たちでやろうというときに、一緒になってやってくれる人といっしょにやっていくことが大事である。
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