「全国知事リレー講義」ライン


 
2011年 9月 27日            立命館大学 公務研究科 教授  今仲 康之先生



1.はじめに

本日は、本講義のガイダンスとして、地方自治についての法制的、つまり憲法と地方自治法についての説明を、中心に行う。

具体的に制度がどのようになっているのかについて、アウトラインを説明し、あわせて、地域主権改革や地方分権改革といった動きについて説明する。

今では、地域主権戦略大綱がつくられ、実際に動いている。地方自治、地方分権、地域主権改革ということで、どのような改革が行われ、どのように進んでいるのかといった点を説明したい。

そこで、まず、申し上げておきたいことは、全国知事・市長リレー講義は、今年度で、始まってから10年目となり、この後期で、最後となる。

このような形で、知事や市長から連続で講演してもらえるのは、おそらく今後ほとんどないと思う。この講義を受講するみなさんは、最後の全国知事・市長リレー講義を聴いていただいて、その内容をよく理解してもらいたい。

先ほど言ったとおり、現在は、地方分権や地域主権改革が進んでおり、地方自治や地方分権が重要となり、地域主権改革が政策課題で、現実に動いているという時期である。

本講義は、このような時期に、全国の知事、政令指定都市の市長、特色ある地域経営を行っている市長などに、地域課題を踏まえた政策、あるいは全国的に関係するような地域課題への対応策を講義していただく。

前期は、東日本大震災の影響があり、知事に来ていただくことが非常に難しかったが、後期はかなり知事に来ていただける予定である。

また、市長に来ていただくことについては、基礎的自治体の役割が大きくなっているという時代背景がある。

前期の具体的なケースでは、市長の方々から、ユニークな政策の話が出ていた。

例えば、千葉市長は、少子化対策に限定して講演され、保育所の増設だけではなく、子どもたちが市の中にたくさんいて、積極的に活動できるようにし、そして、そのような子どものいる所帯が、増えるような政策を講じているという話であった。

少子、高齢化については、知っていると思うが、今の日本の高齢化率は20%を超えて、世界一となっている。

同時に、日本では、少子化も大変進んでおり、このため、このまま進むと、いずれ高齢化率は40%くらいになると見込まれている。

過疎地域で、既に高齢化率40%くらいのところがあるが、全国あらゆる所でそのような社会が予想される時期になっている。

そうすると、地方公共団体で、少子化対策は喫緊の課題である。

このため、千葉市長は、少子化対策に、市がどのように取り組んでいるかということをかなり詳しく説明された。

さらに、松阪市長からは、住民自らに、それぞれの地域の地域協議会で、どのようなことを行っていくべきなのかを議論してもらい、その内容に応じて、政策を実行していくという話をされていた。

これは、他の地方公共団体にも共通して出てくるもので、市民協働であるが、住民と行政がいっしょに地域の課題解決をはかっていくことで、住民の意見に、より効果的に、効率的に応えるようにしていこうという枠組みである。

それを、徹底した形で、松阪市では、行っているということであった。

ところで、都道府県は、市町村という基礎的自治体に対して、広域的な自治体である。

いわゆる「補完性の原理」と呼ばれるものがあるが、地域の課題を解決するには、まず基礎的自治体が対応し、基礎的自治体である市町村ではやりきれないような問題は、都道府県が対応し、それでも対応できないものを国が対応していくという考え方である。

このため、知事の政策と市長の政策について、そのような違いを意識して聴いてもらうと、都道府県の政策と、市町村の政策には、違いがあり、地方公共団体といっても、市町村と都道府県では、かなり違いがあることが分かってもらえると思う。




2 本講義に関する留意事項

 本講義に関する留意事項を、説明しておく。

まず、知事、市長の講義は、それぞれ独立しており、関連性があるとしても、体系的に講義がなされていくというものではない。その意味で、一般の講義のように、一回一回の講義を勉強して、それらをつなげると、一体的な理解になるというものではない。

 また、それぞれの講義は、知事、市長が、現実の課題に取り組むために、政策として取りまとめたものであって、説明としては、具体的で分かりやすくなされているとしても、その背景には、経済学、財政学、法律学、政治学、行政学などについて、相当に高い水準の知識が用いられている。

 したがって、講義を聞いて、その内容をよく検討し、理解を深め、その政策に関連して、重要なところを、自らつかみ取ってもらいたい。

 大事なことは、そのためには、それぞれの受講生が、インターネットなどを使って、自ら調べてみるなど、積極的に取り組む必要があるということである。

 なお、講義の終わりの方に、質疑応答の時間を取ってもらうので、皆さん、積極的に参加してもらいたい。

それと、前半、後半に1度ずつ計2回、小レポートの提出をしてもらう。その際に、どのような講義内容であったかよく整理し、それらの政策内容について、自分はどのように考えるのかよく検討していってもらいたい。




  

3 現在の社会経済情勢

 

現在は、グローバル化が進んでおり、日本の場合は、工場が中国やインド、バングラデシュなど国外へ移転していき、従来の就労の場の中心であった工場が減少していっている。

地方公共団体でも、地方へ行くと、工場が就労の場となっていたが、徐々に減っていくという状況が見られた。

また、情報化も進展している。グローバル化にしても、情報化にしても、1990年頃を境として明瞭に変化があらわれてきた。

つまり、平成になって、明瞭に変化が現れてきたということである。

受講している皆さんは、大体が平成になってからの生まれで、その前のことを知らないため、変化があったということにあまり意識がないかもしれないが、大変大きな変化がここで起きている。

大転換があったのが1990年前後と言える。

例えば、1995年の国勢調査で、高齢化率が14.5%に達した。高齢化率が7~14%が高齢化社会で、それを超えると高齢社会となるが、1995年から日本は高齢社会に入っている。

今では、高齢化率は20%を超え、世界一の水準となっている。社会の状況が変わってきている。

そうすると、都道府県あるいは市町村で、どのようなことをしなければいけないのかという政策課題も変わってくる。

つまり、世の中の変化があると、政策課題が変わり、それに対してどういう政策を行っていくかということも変わってくる。

地球環境の問題と関連して、省資源、省エネルギー、資源リサイクルということが大切となってきている。

また、最近では、東日本大震災の福島原発の問題があり、原発に関連しては、日本で原発をこれからどのように扱っていくのかということについて、難しい問題がある。

しかし、新エネルギーでは、太陽光発電を進めていく必要性が高くなっており、太陽光発電を進めるにはどうしていくかということが、政策課題となっている。

国の場合には、電力会社が電気を買い取る場合に、太陽光発電を進めるため、一定の価格で買い取るようにする仕組みを作るといったことがある。

地方公共団体でも、太陽光発電を進めるために政策を作っているが、補助金を出すというところが多い。だが、それ以外の方法がないわけではない。むしろ、着手しやすいのは、地方公共団体の施設に、太陽光発電のパネルを貼っていくということで、そのことが政策になってくる。

ところで、日本では、大転換に対する対応が、遅れているのが実情ではないかと思う。

それは何故かというと、日本がそれまでどのようなことをやってきたかを考えれば分かる。日本はそれまで、先進国に追いつけということで、キャッチ・アップの体制で取り組んできた。

そのため、制度は、キャッチ・アップのための制度となっているものが多く残っている。それが、現在の変化についていけていない。

キャッチ・アップの体制から、フロントランナーの役割に変わったため、制度や政策のあり方もそれに合わせて対応していかないといけない。

高齢化にしても、世界一の高齢化率となっており、他の国を見て直接参考になるものがあるわけではない。それに対する対応策を、自ら考えていく必要がある。

この講義では、そういった変化や、地方公共団体の役割がある中で、それぞれの知事や市長が、今どのような政策を行っているのかということを講演していただく。

内容はそれぞれ異なるものだが、それぞれの地域で最も必要な政策課題に対して、それぞれ適切と思う政策を行っているので、どのような政策が重要なのかということを、よく見極めてもらいたい。




4 地方自治制度の概要

(1)日本国憲法

日本国憲法第8章には、地方自治に関する定めがある。

まず、憲法第92条には、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」と規定されている。

「地方自治の本旨」ということが定められているが、それは、団体自治と住民自治の確立ということである。

団体自治とは、国とは別の団体である地方公共団体が、自治を行うというもので、それぞれの地域に密着した政策課題については、それぞれの地方公共団体で、自治によって処理していくというものである。

それをどのように実行していくのかが、民主主義ということであり、つまり、住民自治である。

住民自治に基づいて、地方公共団体を成り立たせることになり、住民自治と団体自治を活かすことが、地方自治の本旨となる。

地方自治法第1条の3では、地方公共団体として、普通地方公共団体と特別地方公共団体が規定されている。

ここで、憲法の「地方自治の本旨」にかかわってくるのは、まず、普通地方公共団体であり、都道府県と市町村である。また、現行の地方自治法の規定からは、特別区を含むものと考えられるが、その他の特別地方公共団体は含まれない。

なお、地域の問題を、地域の住民自らが解決していくということで、地方自治は「民主主義の学校」とJ.ブライスは指摘した。トックビルもこれと同じ考えを示している。

ただ、現在の日本の地方公共団体について、地方自治を「民主主義の学校」だと言い切れるかどうかについては、大きな課題がいくつか残っているように思う。

そのうちの一つは、受益と負担の相関関係の問題である。課題解決のためには、受益があれば一方で負担が出てくるわけで、受益と負担の相関関係が理解されていることが重要である。

言い換えれば、行政サービスと税のかかわりあいが、相関関係でうまく結ばれているかどうかが重要ということになる。

しかし、現在の地方公共団体では、枠組みとして難しくなっていると言わざるを得ない。

地方議会を見てみるとよく分かるが、地方議会で、地方税をどうするかということが議論されることはほとんどない。

つまり、財政について、歳入をどうするかということを議論する時に、地方税収をどうするかということは、ほとんど議論されないということである。一方で、地方公共団体は、もっぱら行政サービスを増やせ増やせという議論をする傾向がある。

負担の方の税収はどうかと言うと、国が、地方税法で枠組みを決めている。また、地方交付税といって国から地方へ配分する財源がある。さらに、国庫支出金という形で国から補助金などが支出される。

今までのキャッチ・アップの時代はそれが典型で、何かあれば国に財源をお願いし、ともかく財源が必要だ、必要だと、国に言っていくものであった。だが、これでは地方自治にならないことは当然である。

ここのところをうまく成り立たせようと思うと、課題がある。

東京にはいろいろなものが集まり、税収も多い。一方で、地方の小さな町村を考えると、あまり会社もなく、税収も小さくなる。

つまり、税源の偏在という問題がある。税源の偏在への対応を交付税や補助金がその調整をしてきたのが今までの現実である。

しかし、これでは歳入に関しては、国頼みということになってしまうため、偏在性の少ない地方税財源の拡充という課題がある。

このことについては、地方分権改革推進委員会第4次勧告が、これからのあり方について、言及している。

憲法93条第1項では、「地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。」と規定されている。

議会は、地方公共団体の重要な意思決定をするための合議制の機関である。

また、同条2項では、「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。」とされている。

すなわち、地方公共団体の長は、住民による直接選挙で選ばれる。議会の議員も、住民による直接選挙で選ばれる。

このため、日本では、地方公共団体の長と議会の議員が、それぞれ住民により直接選挙されるということになっていることから、二元代表制になっていると言われる。

したがって、地方公共団体の長と議会のそれぞれが、政策について考えていくことになるが、重要な政策決定は、議会で行われる。

条例は、議会で議決されなければ条例とはならない。日本の地方公共団体における二元代表制は、アメリカなどの大統領制と同じような仕組みといえるが、少し違うのは、議会に対して、長が条例案を提出することができるということである。長が条例案を調整し、議会に提出することができる。現在の日本の条例は、ほとんどが長部局で作成され、それが議会で議決されているという状況である。

議会のあり方は本質的に大切で、政策議論がもっと議会でなされて当然である。しかし、現実のところ、日本の地方議会では、長に対して行われる質問が、主なものとなっている。本来、二元代表制という観点からすると、議会でもっと政策議論が行われてしかるべきである。

なお、「法律の定めるその他の吏員」とあるが、現在のところ、住民が直接選挙するのは、地方公共団体の長と議会の議員であり、その他の吏員は、存在しない。

94条では、「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。」と規定されている。

すなわち、条例を制定すること、つまり、自治立法権。法律、条例、予算に基づいて、事務を処理し、行政を執行すること、つまり、自治行政権。財産を管理し、事務を処理し、行政を執行するため、財政を確保すること、つまり、自治財政権が定められている。

95条は、地方自治特別法について、定められている。

すなわち、一つの地方公共団体のみに適用される法律は、当該地方公共団体の住民による投票で、過半数の同意を得なければならないとしている。

これは、アメリカで、州とその下の市町村との関係において、州法が個別の市町村の中のことまで規定することがあり、市町村の自治を損なうことから、規制するようになったため、日本でも、同様に、憲法95条として、定められたものである。

 

(2)地方自治法

 地方自治法の条文の中で、地方自治に関して、最も基本的なことを規定している第1条の2、第1条の3及び第2条、それと、直接請求の規定である第12条及び第13条、そして、条例に関する規定である第14条について、説明する。

 地方自治法第1条の2第1項は、「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」と規定している。

 まず、地方公共団体は、住民の福祉増進のため、地域の行政を、自主的かつ総合的に、広く担うものである。

 そこで、国と地方公共団体との事務の配分について、同条第2項は、「国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。」と定めている。

 要するに、国は、「国際社会における国家としての存立にかかわる事務」として、防衛、外交、通貨、司法などの事務、「全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務」として、私法秩序の形成、公正取引の確保、生活保護基準、労働基準、地方公共団体の組織及び運営の基本に関することなどの事務、「全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施」として、公的年金、基幹的交通基盤などの事務を、重点的に担うこととし、できる限り、住民に身近な行政は、地方公共団体に委ねることを基本として、それぞれ適切に役割を分担すること。

そして、地方公共団体に関する制度の策定、施策の実施に当たっては、地方公共団体の自主性や自立性が、十分に発揮されるようにしなければならないこととしている。

 この規定は、したがって、行政の事務の帰属のあり方として、近接性の原理、補完性の原理を考慮しているものとして、重要な条文である。

 次に、第1条の3では、地方公共団体に、普通地方公共団体と特別地方公共団体があること。普通地方公共団体は、都道府県と市町村であり、特別地方公共団体には、特別区、地方公共団体の組合、財産区があることを規定している。

 このうち、特別区とは、東京都の特別区のことであり、現行法では、基礎的な地方公共団体とされ、市町村とほぼ同様に位置付けられている。

地方公共団体の組合には、一部事務組合と広域連合がある。一部事務組合や広域連合は、市町村や都道府県の枠を超えて、共同で事務を処理する仕組みである。

 例えば、市町村が、ごみ処理をするのに、単独で行うのではなく、効率的にごみ処理をするために、いくつかの市町村が、一部事務組合を作って、行うといったものである。

広域連合は、市町村や都道府県の枠を超えて、広域的に事務処理するものにつき、計画を作って、実施していくための仕組みである。

また、この広域連合は、重要な役割を担えるようになっており、国の事務を処理することができることとされている。

 皆さんも、新聞などで見たことがあると思うが、関西では、関西広域連合が組織されている。

 国の出先機関の原則廃止については、アクションプランが閣議決定されているが、そこでも、広域連合制度を活用することについて、検討を行うこととされている。

 次に、第2条第1項は、「地方公共団体は、法人とする。」と規定しており、地方公共団体には、法人格が与えられている。

2項では、「普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。」とされている。

「地域における事務」を行うことが、地方公共団体の役割であり、「法律又はこれに基づく政令により処理することとされるもの」とは、北方領土に本籍を有する者に関する事務を根室市が処理していることなど、特殊な場合である。

 第3項では、「市町村は、基礎的な地方公共団体として、第5項において都道府県が処理するものとされているものを除き、一般的に、前項の事務を処理するものとする。」とされている。

 市町村が、基礎的な地方公共団体として、まず、一般的に地域の事務を処理するものであることが定められている。

 第4項では、市町村の規模及び能力に応じて、都道府県の事務を、処理することができるとされている。

政令指定都市、中核市、特例市の制度があるが、それらの市には、都道府県の事務が、その順に従って、一定の程度、移譲されている。

つまり、政令指定都市、中核市、特例市については、都道府県の事務の一部を自ら行うことによって、基礎的な地方公共団体で、事務を総合的に処理する仕組みとなっている。

5項では、都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、広域にわたる事務、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを、処理するとされている。

都道府県知事の講義を聴き、政令指定市の市長、その他の市の市長の講義を聴いてもらえば、第3項〜第5項までの規定のことが、理解できると思う。

なお、第6項では、都道府県及び市町村は、その事務を処理するに当って、相互に競合しないようにしなければならないとされている。

 次に、第8項及び第9項が、自治事務と法定受託事務について、規定している。

 地方公共団体の事務は、自治事務と法定受託事務に分かれる。

自治事務は、法定受託事務以外の事務であり(第8項)、法定受託事務は、国が執行に当たってのあり方を、法令によって細かく定め、それに従って、地方公共団体が事務を行うものである(第9項)。

国の事務の場合が第1号法定受託事務、都道府県の事務の場合が第2号法定受託事務であり、それらの事務であることは、法律又は政令によって、位置付けられている。

10項には、第1号法定受託事務については、別表第1に、第2号法定受託事務については、別表第2に、掲げられていることが規定されている。

11項では、地方公共団体に関する法令の規定の制定に当たって、第12項では、地方公共団体に関する法令の規定の解釈、運用について、地方自治の本旨に基づき、国と地方公共団体との適切な役割分担を、踏まえたものでなければならないとされている。

13項では、「法律又はこれに基づく政令により地方公共団体が処理することとされる事務が自治事務である場合においては、国は、地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理することができるよう特に配慮しなければならない。」とされている。

 この条文は、重要で、この規定に基づいて、地方分権改革推進委員会で、義務付け、枠付けの見直しが進められ、勧告が行われた。

そして、地域主権戦略大綱に則って、義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大に関する、一括法案が2次にわたって上程され、国会で可決されて、義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大が、進んだところである。

 第14項では、地方公共団体は、事務の処理に当たって、最小の経費で、最大の効果を上げるようにしなければならないとされている。

 地方公共団体でも、キャッチ・アップ体制からフロントランナーになったため、試行錯誤が必要になっているが、最小の経費で最大の効果を上げるために、行政評価のPDCAサイクルを作り、効果的、効率的な行政に努めている。

 第15項では、地方公共団体は、規模の適正化を図らなければならないとされている。

 皆さんも、知っている通り、近年、市町村の合併が進められ、最近の市町村数は、1,723となっている。今回の合併が進められる前までは、だいたい3,2003,300であったことからすると、半分近くの数となっている。

 このように、市町村合併が進んだわけだが、その理由は、市町村が合併してある程度の規模を持たないと、地域における一定の行政を実施することが、難しいということである。人材の確保でも、財政的な効率性でも、一定の行政を確保しようと思うと、市町村にも一定の規模が求められる。

16項では、地方公共団体は、法令に違反して事務を処理してはならないこと、市町村と特別区では、広域の地方公共団体である都道府県の条例に違反してはならないことが定められており、第17項では、第16項に違反して行った行為は、無効であるとされている。

 次に、第12条及び第13条では、国の場合と異なり、地方公共団体では、住民の直接請求権が定められている。

12条では、住民自らが、議会に対して条例の制定改廃請求を、監査委員に対して監査請求を、一定の数の連署(選挙権を有する者の50分の1以上)をもって、直接請求できる。

13条では、住民自らが、議会の解散請求を、都道府県知事、市町村長、議会の議長、議員、副知事、副市長村長、選挙管理委員、監査委員、公安委員、教育委員に対する解職請求を、一定数の連署(選挙権を有する者の3分の1(その総数が40万を超える場合には、その超える数に6分の1をかけた数と40万に3分の1をかけた数との合計)をもって、行うことができる。

 ご存知のとおり、名古屋市では、この第13条を用いて、議会の解散請求が、成立し、その後、住民投票にかけられ、有効得票の過半数が、解散に賛成であったため、現実に、議会が解散された。

次に、第14条は、条例の制定と罰則の範囲について規定している。

条例は、法令に違反しない限りにおいて、制定することができる。また、義務を課したり、権利を制限したりする場合には、条例で定めなければならない。

条例で、罰則を科すことができるが、2年以下の懲役又は禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料、没収の刑、そして、5万円以下の過料を科すことができる。

 

(3)地方公共団体の事務と財政

 地方公共団体の事務と財政について、その関係がどのようなものか、概略を説明する。

 まず、地方公共団体の事務について、理解を深めるためには、地方分権一括法による改正前の事務のありようと、改正後の事務のありようを、整理しておく必要がある。

 地方分権一括法の改正前には、機関委任事務があった。これは、そもそも国の事務について、各府省大臣の権限を、都道府県知事や市町村長などの機関に、委任したものであり、都道府県知事や市町村長などの機関は、国の下部機関であった。

 そして、地方公共団体の事務には、団体委任事務、すなわち、国の事務を地方公共団体という団体に委任した事務、それと、公共事務、すなわち、地方公共団体の行政サービスの事務、また、その他行政事務、すなわち、地方公共団体の権力的な事務があった。

 それらが、地方分権一括法の改正後は、機関委任事務のうち、一部は、国そのものの事務となったり、廃止されたりしたが、その他の多くの事務は、地方公共団体の事務となり、従来の団体委任事務、公共事務、その他行政事務も、地方公共団体の事務であることから、それらが合体されて、地方公共団体の事務となった。

 結果として、従来の機関委任事務の一部が、法定受託事務となり、その他の事務が、自治事務となっている。

 しかし、改正の経過から分かるとおり、地方公共団体の事務のうち、法定受託事務が、国の受託事務であることは、言葉の意味からも分かるが、自治事務の中にも、実体的に、国からの受託事務があるということである。

 ちなみに、法定受託事務として、例えば、都道府県には、パスポートに関する事務、市町村には、戸籍に関する事務がある。また、従来の団体委任事務とされていた事務では、例えば、都道府県の警察に関する事務がある。

 すなわち、現行の地方公共団体の事務には、国からの受託事務が相当に存在している。

 では、これらの事務を執行していくための財政は、どのように確保されるのか。

 まず、地方財政法によって、地方公共団体の事務を行うために要する経費は、地方公共団体が、全額負担することとされている。

 ただし、国がその全部又は一部を負担する経費が定められており、また、特別の場合には補助金が交付されることから、それらについては、国から、一定の負担金・補助金が、国庫支出金として、交付されることになる。

 次に、特定の財源として、施設を建設する場合には、耐用年数があるため、その耐用年数の間に施設を利用する者にも、負担してもらえばよいわけだから、いったん、借り入れを行い、つまり地方債を発行して、財源を確保し、その元利償還をしていけばよい。

 また、公の施設などの使用料、検定を行う場合などの手数料、そういった特定の財源もある。

 そして、地方公共団体の歳出について、標準的な歳出規模を想定し、今までに説明した特定の財源を除いて、必要となる一般財源の規模である、基準財政需要額を算定する。

 一方、地方税収入を標準的な税率で算定し(標準税収入)、その75%を、基準財政収入額とする。このほか、地方譲与税などがあるので、それらを基準財政収入額と合算する。

そこで、その合算額を、基準財政需要額から、差し引いて、不足する一般財源を、地方交付税によって、補てんするのである。

 この結果、標準的な歳出規模に見合う、財源が確保されるとともに、標準税収入の25%が、留保財源として、地方公共団体が、独自に行う事業に使える財源となる。

 もちろん、公営ギャンブルを行っているような場合には、そういった収益事業の収入があり、地方税を、標準税率を超えて課税する場合には、超過課税による収入があり、法定外税を課税している場合にも、その課税収入があり、それらは、地方公共団体が、独自に行う事業への財源として、使うことができる。

 しかし、地方公共団体が、独自に事業を行うために、住民に対して、超過課税を行っていることは、少ない。何故少ないのかといえば、超過課税をかけるなどといっても、住民の理解を得ることは難しく、袋叩きに会うと思うからである。

 一方で、住民からは、行政サービスはもっともっとということになりやすい。つまり、歳入と歳出の面で、相関関係が現実のところ結びつきにくくなっている。

 それは、また、留保財源が、標準税収入の25%であることにもよる。即ち、地方税源が多く、標準税収入が大きいところでは、必然的に留保財源は大きく、逆に、標準税収入が小さいところでは、留保財源も小さなものとなるからである。

 このため、地方公共団体では、行政サービスを増やすとすると、国庫支出金を増やしてもらうとか、地方交付税が増えるような措置を取ってもらうという、国への要望活動をすることになってくる。

 しかし、このような行動になることが、地方自治に望ましいものと、言えるはずもないのである。

 したがって、地方分権改革推進委員会第4次勧告にあるように、地方税としては、地域的な偏在が少なく、税収が安定した税目、つまり、地方消費税のような税源の拡充が望ましく、そうすることによって、地方公共団体の財政を安定させるとともに、地方公共団体が、それぞれ、行政サービスと地方税収のあり方とを、関連付けて、本来の地方自治として、活動していくことができるようになる。

 つまり、地方公共団体で、行政サービスを考える際に、同時に、地方税負担も考える仕組みとすることで、地方自治のあり方を、「民主主義の学校」に即した内容にしていくということである。





5 地域主権改革の動き

 

 最後に、地域主権改革の状況について、説明しておく。

 まず、平成226月に、地域主権戦略大綱が決定された。ここでは、義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大、基礎自治体への権限移譲、国の出先機関の原則廃止、ひも付き補助金の一括交付金化、地方税財源の充実確保、直轄事業負担金の廃止、地方政府基本法の制定、自治体間連携・道州制などについて、まとめられている。

 平成231月には、地域主権改革の主要課題の具体化に向けた工程表が策定された。

同年5月には、第1次一括法により、義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大(第1次)が、成立し、また、国と地方の協議の場に関する法律が、成立した。さらに、地方自治法の一部を改正する法律が、成立し、その中で、義務付けの廃止が、行われている。

 同年8月には、第2次一括法により、基礎自治体への権限移譲、義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大(第2次)が、成立した。

 なお、平成2212月には、出先機関の原則廃止に向けて、アクションプランが、閣議決定されている。

 また、平成23年度予算で、地域自主戦略交付金が創設され、補助金の一括交付金化が、実施されているところである。

 さらに、直轄事業負担金については、既に維持管理の負担金は廃止され、平成25年度までに、現行の直轄事業負担金制度の廃止とその後の在り方について結論を得ることとされている。

 したがって、地域主権戦略大綱の中で、地方税財源の充実確保、地方政府基本法の制定、自治体間連携・道州制などが、まだ具体的な進展に至っていない事項となっている。






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