「〜元気度 日本一 栃木県を目指して〜」
私は今回で立命館の知事リレー講義には4度目の登板となる。
高卒で県庁に入ったが、昭和40年代の役所は学歴主義で、高卒の人間が定年を迎えるときにどのような姿になるのかは、早くから予想がついていた。そのため、自分の人生をもっと大事に生きたいと思い、県庁に勤めながら日本大学の夜学に4年間通い、その後政治の道を目指した。
自分が政治家になって、正しい人が正しいことを言える世の中をつくりたいと思い、政治の道を目指して、今日を迎えている。
東日本大震災から7ヶ月経った。関東と関西は電気の明るさが違う。県庁は今でも消せるところは全て消している。関西はトイレの電気もついているし、廊下も電気がついている。東京電力管内とそれ以外のところではずいぶん違うと感じた。
9月10日に読売新聞が全国の国民向けにアンケートを行った。そこでは、震災後に意識の変化はあったかということを聞いた。不安に思うこととして、大地震への不安、放射性物質による健康被害の二つが震災後の国民の不安として横たわっているということが分かった。
それ以外に、人生観、価値観、地域観、結婚観の変化についても聞いたが、家族の絆を強くしなければならないと改めて感じたと答えた人が半分以上、人の役に立たなければならないと思った人も6割近く、近所の人と仲良くしなければならないと答えた人も半分近く、結婚していて良かったと思う人も4割くらいであった。
また、未婚の人が結婚したいと思うように変わった。モノ・カネよりも心が大切だと強く思うようになったというように、国民の意識が変わった。
今まで町内の草とりをしても決まった顔ぶれしか出なかったが、震災以降は見慣れない顔の人も増えたという変化もあった。地域の行事に出たことないという人が、震災後は助け合って生きていかないといけないということが分かって、出たこともない行事に出るようになったという変化が全国で起きている。
今は地域の行事に出ないにもかかわらず文句を言う人が増えている。だから世の中が混乱してきていると思う。口も動かせ、体も動かせということを皆さんにはお願いしたい。
学生の皆さんは、何か変わったか。栃木県の金融機関が、新卒の職員に何のために働くのかというアンケートを毎年とっている。今年の4月のアンケートでは、お金をもらうためという比率が下がり、社会貢献のためという答えが増えた。これも一つの大きな変化が数字の上であらわれたと思う。
関西にいると東北3県の苦しみ、悲しみが分かりにくいかもしれないが、栃木県でも6万7,000世帯が何らかの被害を受けた。
今でも4市2町10地区で避難勧告が出ている。復旧のため一生懸命努力をしている。
コンビニなどで寄付をしてくれた人もいるかもしれないが、日赤に集められ、栃木県内の人にも手渡されている。
みなさんもモノ・カネのためではなく、社会貢献のために働くということを、そのような思いを強く持ってもらいたい。
読売のアンケートで、答えた人のうち8割の人が寄付をしており、3割の人が被災地の物品を買っていた。そのような思いが被災地に伝わり、大きな励ましになったと思う。
あわせて、政治家は信頼できるかということも聞いた。33%が信頼できると答え、残りは信頼できないとこたえた。誰が震災後、働きぶりが顕著だったかということに対しては、自衛隊がトップで82%となり、ボランティア73%、消防職員52%、自治体42%、警察40%、政府6%、国会は3%であった。
結婚観も変わり、結婚情報センターに登録する人が3月以降前年比2割から3割高まっている。今までは一人で生きていこうと思っていた人が、やはり結婚して家族の絆を結んで生きていきたいという人が増えたことは、明るいことだと思う。
国の調査で、旅行先として避ける地域の調査があるが、行きたくない場所は福島県、茨城県、宮城県、栃木県、岩手県、山形県の順となっており、栃木はベスト6の中に入っている。
このように、放射能などの風評被害で栃木も茨城も困っている。栃木には日光、那須といった名所もあるが、行かないという人が増え、観光業が苦境に立たされている。
また、牛肉の出荷停止が国の指示であった。最も早く出荷停止になったのは福島県で、その後、宮城、岩手、栃木の4県が出荷停止となった。すべての牛を検査して、各県とも市場に流通させるということになって、今は問題ない。しかし、福島県の牛は去年の一年間の平均価格の半分で今取引されている。岩手県は去年の価格の2割引、栃木と宮城は昨年の7割の価格で取引されている。検査して安全なのに、敬遠されてしまっている。
牛を育てている畜産農家は3割安くしか売れないとなると、エサ代にもならない。そ うすると、利益が出ず、業として成り立たない。東北3県と栃木の農家はやめろというわけにもいかない。
何としても風評被害を払拭して、せめて、去年と同じくらいの価格にまで早く戻して、農家のみなさんが誇りを持って育てるぞとならないといけない。これは消費者であるみなさんに、被災地のものを買って応援するということをお願いしないとならない。
ぜひ、被災県の農畜産物を売っていたら買ってもらいたい。そして、農家に元気を与えてもらいたい。
「たちあがれ日本」、「がんばろう東北」ということを、安全な場所にいて言っている。その証拠に、京都の送り火に使う松に陸前高田の松はいらないと言われ、愛知県の花火では福島県の花火が拒否された。
さらに、放射性物質で汚染されているものは福島県で引き取れといったような話が出ている。これでは商売をやめろと言っているのかということにもつながる。
国は、飲み水あるいは野菜、果物について500ベクレルを越えたものは出荷してはいけないということにしており、今では安全なものしか売らないということになっている。心配な気持ちは分かるが、信頼してほしい。被災地の思いをあたたかく見守ってほしいと思う。
しかし、国も少しおかしい。チェルノブイリの原発が爆発して、その時に外国から入ってくる畜産物は370ベクレルという線を政府が決めたが、福島原発の後に500ベクレルに上げてしまった。そのため、不信を買っているということもある。不信感を増幅させている。
いずれにしても、健康に影響がただちに出るということではないと思っている。疫学的に検査したところはチェルノブイリ以外にはなく、20年後30年後の影響があるかは分からない。今ある基準では、心配してもらわなくても済むような検査体制をとって努力をしている。これは是非認めてもらいたい。
毎日トイレを使い、下水を使うと、汚泥は下水処理場に行く。栃木では毎日370トンの汚泥が出るが、それを焼いて溶融スラグにして処理すると、12トンに減る。そしてセメントに加工されていたが、放射性物質の影響で今はセメント工場で引き取ってもらえないため、下水処理場に仮置をしている。
県内に6つある下水処理場に分散させ、一年間もつようにしているが、さらに分散させようと思い、地域の人に了解を求めても受け入れられない。これから先、極端な話だが、下水汚泥が出てきたら、各家庭の人数に応じて、焼却した溶融スラグを持ち帰ってもらわないと、下水処理場を動かせないという状況になるかもしれない。
そうした問題を、栃木県でも群馬県でも茨城県でも福島県でも抱えている。せいぜい2年しか余裕がない。早くこの問題も解決しないといけない。自分たちが出したものだが、それを処理したものを持ち込むのは反対だといわれ、延命を図るにも難しいといった状況となっている。
今でも栃木県内には2,750名の福島県を中心とする県外からの避難者が避難生活を送っている。そのうち、300名は入院者と高齢者福祉施設の入所者である。小中高で転校した人は400名にのぼる。
原発事故もあり複合災害となり、先が見えない。長期的な対応が求められる一方で、早く何とかしないとならない問題もあるという状況となっている。
しかし、答えが出せない。でも何とかしないといけないという状況にある。被災県にはそのような苦労があるということを頭において、応援をしてもらえると嬉しい。
中国、韓国、外国のお客さんが極端に少なくなったという話を今日タクシーの運転手がしていた。福島原発の事故の影響で、他国では日本のものを買わないということを言っている。
他国では1950年代から大気圏核実験をしていたが、その時に放出された放射性物質の量を比較すれば、明らかに福島県のほうが少ないはずなので、そのデータを公表しろと言う人がいるが、私もその通りだと思う。
しかし、調べてみると、栃木県に降った福島原発からの放射性物質の量と、1950年代から1960年代に各国が大気圏核実験を行った時の放射性物質の量では、今回のほうが5倍から7倍も多い。
チェルノブイリ原発事故により栃木県に降った放射性物質の量と、今回の福島原発からの放射性物質の量では、今回のほうが27倍から30倍も多い。そのため、深刻な問題となる。
栃木県もまもなく日本を代表するような放射線分野の有識者に現状を見てもらい、行政として何をするべきか、県民はどのように日常生活を送るべきか、ということについて疑問に答えることができるように取り組んでいる。
ぜひみなさんが安心して生活できる社会を築くため、皆さんに大いに社会に貢献してもらいたい。
栃木県は食糧基地で、農業産出額は全国9位となっている。イチゴの生産では、42年間連続日本一となっている。栃木でも夏のイチゴの開発ができ、どの季節でも対応できるようにしている。一年中通して栃木県ではイチゴの栽培ができる。
ニラの栽培量も全国2位となっている。このようなこともあってか、宇都宮が餃子のまちということで、全国ブランドとなった。和牛の飼育数も全国6位となっている。全国コンクールで最優秀賞も何度かとっている。
日本そばも全国7位の生産量となっている。かんぴょうの国内生産分の大半のシェアも占めている。ビール麦は全国2位、もやしは全国1位、生乳・こんにゃく芋は全国2位となっている。このように、食糧基地でもあり、農業県でもある。
また、栃木県はものづくり県でもあり、製造品出荷額では全国3位となっている。
日産自動車でも、ホンダでも、売れ筋の車は栃木県でつくられている。飛行機の主要な部分も宇都宮で作られている。最近開発されたボーイング787は、機体を軽くし燃費が大幅に改善したが、その主要な部分の大半は栃木で作っている。
医療機器も多く栃木でつくられている。世界的な有力企業も多く立地している。地元企業も多く立地している。カメラの光感レンズでも全国1位となっている。
観光地の日光は世界遺産に登録されている。日本で最古の総合大学である足利 学校も残っている。東京へのアクセスも非常に便利となっている。
8月の最高気温と1月の最低気温の差が36℃あり、四季がはっきりしている。豊かな県でもある。
国立公園の面積も全国4位となっている。尾瀬国立公園と日光国立公園の二つがある。奥日光はラムサール条約の登録地となっている。水がおいしいため、酒もおいしい。毎年イギリスで、世界ワインチャレンジドコンテストが行われるが、昨年栃木の酒が大吟醸の部で世界一位となった。
皇室ゆかりの地でもあり、那須の御用邸や御領牧場もある。プロスポーツも盛んとなっている。平成18年は地域ブランド力調査では最下位だったが、平成20年には46位となり、平成22年には41位となった。2年後の調査では、30番台を目指そうと思っている。
行政もがんばっているが、栃木県出身の芸能人がテレビなどで頑張っているためだと思う。トップは北海道で、次は京都、沖縄、東京、神奈川、大阪、兵庫と続く。2年後には30番台を狙っている。
ブランド力をなんとか高めようということで、来年5月22日のスカイツリーのオープンにあわせて、栃木県のアンテナショップを出す。市町村と連携して、1,000品目ほどを選定している。栃木のおいしいものを、スカイツリーの4階に出店する予定にしている。
全国でアンテナショップが入るのは栃木県だけである。また、那須平成の森というものがあり、面積1,200haもある。平成20年が今上天皇の在位20年で、半分を国民に使ってもらいたいということで、570haが一般開放された。今まで人が足を踏み込むことのなかったところが一般に開放されたので、ぜひ訪れてほしい。
安心、成長、環境の3つを重点戦略として、大震災からの復興の推進も含めて、元気度日本一の栃木県をつくる。
政策の基本は人づくりで、意欲、実践を結びつける仕組みづくりが必要となる。また、高齢者も住まいを確保し、中山間地域でのコミュニティ再生にも取り組んでいる。
水のきれいなところなので、「フードバレー栃木」として、内需型産業を振興するため、食品関連産業を積極的に誘致して振興することにも取り組んでいる。未来につなぐ環境戦略では、太陽光、バイオマスなどのエネルギーの活用、電気自動車の普及に取り組むということが、「新とちぎ元気プラン」の中に書かれている。
いろいろな取り組みを行うには、財政基盤をしっかりしなければ、何も新しいことはできない。3年間で事務事業の見直しを行い、平成25年度当初には税収だけで歳入歳出をイーブンにし、貯金をおろさなくても予算が組めることを目標としている。県債残高は全都道府県で少ないほうから4番目となっている。
栃木県の財政は比較的安定している。これを、今年、来年でさらに基盤を強化するということで取り組んでいる。当然、行革もやらなければならず、職員の数を減らすということで取り組んでいる。今の行革プランでは、5,800人を4,300人にまで削減する計画をしている。教員、警察官をあわせると栃木県職員は25,000人ほどいるが、これらの分野では増やしており、知事部局の職員を減らしているという形となっている。
栃木県は震災を受けて大変厳しい状況となっているが、栃木県は今年、スポーツの世界で多くの人が活躍している。電気自動車はハイブリッド自動車の開発も進めていこうということで、用水堀で発電をしている。メガソーラーの設置にも着手している。
私の座右の銘は「先憂後楽」で、人様の憂いを先に解決し、自分の楽しみは後からという意味である。人のためにまずは汗を流すということをこころがけている。
受けた恩は石に刻み、かけた情けは水に流せということを生活心情として毎日送っている。58歳になり、昨日「終い支度」という言葉をはじめて聞いた。
人間の価値は死んだ時に最も分かる。大勢の人が慕ってお別れに来てくれるような人生を送るべきだと思う。いつも思うのは、自分が天国に行くときにどれだけの人が悲しんで見送ってくれるのかというのが、人生の価値を決めるものだと思う。
自分の道をしっかり見据えて、努力をしてほしい。社会は努力する人を応援するようになっている。自分が一生懸命やっているという姿が相手に伝わってこそだと思う。
問 福田知事は、職員、市議会議員、県議会議員、市長、知事というように二元代表制のすべての職を経験しているが、その経験から、市と県は震災に対してどのように対応していくべきだと考えるか。
答 震災の対応は、今回の場合に福島県から最大で3,000人を超える人が栃木県に避難してきた。栃木県では福島県との県境に健康相談所をつくり、そこで放射能の簡易測定も行った。なおかつ、健康相談も受けた。その上で、各市・町の避難所を紹介し、避難所生活をスタートしてもらうという取り組みを行った。
県が総括的な窓口を設置し、受け入れそのものは各市・町でやってもらう。このような役割分担を県・市町連携の下にやってきた。
これから除染の問題が出てくるが、市町村が除染計画をつくるということになっている。県はそのアドバイザーになるということになる。
役割分担は県・市町それぞれあるので、連携を強化しそれぞれの役割を果たす。災害対策本部会議を多いときには一日2回やってきた。必ず市長会の代表と町村会の代表に会議に来てもらい、課題やするべきことについてはすぐに各市町村長に伝わるようにした。このような取り組みを、連携して行ってきた。
問 栃木県の地域ブランド力が上がったのは行政のどのような取り組みが功を奏したと考えているか。また、今後地域ブランド力をさらに上げていくための方針はあるか。
答 今後に関しては、一番手っ取り早く効果が出るのは、視聴率の高いテレビ番組で栃木県のことを扱ってもらうということなので、その取り組みを今やっている。
また、全国で活躍している栃木県出身の人に「とちぎ未来大使」を受けてもらい、各地でPRしてもらうお願いもしている。栃木県民は引っ込み思案で、人をかき分けて前に出ることはない。栃木の郷土料理に「しもつかれ」というものがあるが、それがテレビで紹介されたことがある。栃木県のある地域が取り上げられ、しもつかれを食べているかと聞かれたときに、大嫌いだと答えた県民がいた。嫌いでも良いが、自分は作らないが、味は良いということを言ってもらいたい。県民が好き嫌いはあっても誇りを持ってもらいたい。
名所旧跡を大事にし、県民一人ひとりが自分の住んでいるところを誇りに思ってほしい。口コミが何と言っても最高である。今の栃木県は無名有力県だが、これを有名有力県にみんなでしていこうという取り組みをしている。実力があるため、これを活かそうという取り組みが少しずつ順番を上げると思う。
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