「全国知事リレー講義」ライン


 
2011年 12月 20日           香川県  天雲 俊夫 副知事



           「せとうち田園都市香川創造プラン 
              ~海と田園と都市の魅力がきらめく香川をめざして~





1 香川県の紹介・特徴的な仕事

 香川県は非常に小さいが、島がたくさんある。有人島は20ほど、全体で110ほどある。

奈良県や兵庫県についで多くの溜池があるのも特徴である。面積は全国の都道府県で、最も小さく、2番目が大阪府である。しかし、四国の中では香川県の面積は10分の1しかないのに対し、可住地面積は全国10位と広く、中国・四国地方の中で最も過密度が高い

気候については、全国で45番目に降水量が少なく、年間980ミリしか雨が降らない。そのため度々に干ばつに見舞われていて、昔から給水に対しては様々な取り組みをしている。例えば、香川用水は1974年に徳島県を流れる吉野川から水をひいてきている。また吉野川の源流に早明浦ダム、また高校野球で有名な阿波池田という地域に池田ダムがつくられそれ以降大きな水不足は解消された。

香川県の仕事だが、造船や電気、金属などの大手企業の工場を誘致している。食品関連の産業も盛んで、今では東京へ本社が移転してしまったが「加ト吉」という企業もあった。地場産業では全国のシェア9割を占める手袋、全国シェア8割を占める盆栽、また丸亀はウチワで有名だし、高松には漆器もある。農業は小規模な農家が多く、全国1戸1.8ヘクタールが香川県は1戸あたり0.8haと小規模である。一方で、オリーブや花ではマーガレット、魚ではハマチの養殖を盛んにしている。

香川県民は穏やかで堅実な性格だと言う。「思いがけないお金が入ったらどうするか」と四国の4つの県の人に聞くと、徳島県民はそのまま何かに使う、高知県民はお酒を飲む、愛媛県民はそのお金をそれを元手に増やそうとする、香川県は貯金をすると例えられている。香川県民の貯蓄率は全国1位で、一世帯1600万円ほどの貯蓄をしているというデータがある。

また、昨年、せとうち国際芸術祭を行った。これは現代アートで地域を元気にしようという、直島をはじめ豊島、小豆島など7つの島を会場にしたベネッセとの共同イベントである。当初は30万人を目標としていたが、90万人を超える方が香川県に来られた。来られた人の特徴は女性、さらに若い女性に人気だったということである。運営にあたってのボランティアも、九州から北海道までという全国から多くの方が手伝いに来てくれた。島の人も「久しぶりに賑わいを感じることができ良かった」と好評だったので、再来年(2013)の実施を予定している。次は香川県の西の方も会場として広げようと考えている。

最近、香川県はスポーツにも力を入れ、将来プロ野球選手を目指す若者を支援する四国アイランドリーグを2005年から行なっている。サッカーでもJ2入りを目指したチームがある。

また、香川県には全国的に名産品として有名な「讃岐うどん」がある。高速料金が一律化された時には、全国から多くの方が香川県のうどんを食べに来られた。それから要潤さんをはじめ香川県出身の芸能人に出演してもらって「うどん県、それだけじゃない香川県」、というPVYouTubeに流したところ、非常に好評だった。一時は県のHPのアクセスが殺到して、サーバーがダウンするという状態にもなった。126日には年賀状を使い「うどん県で年賀状が出せないか」というPVを作成した。ぜひ皆さんも見ていただきたい。

なぜこのようなPVを作ったのかというと、香川県は全国の中でも非常に知名度が低いからである。しかし日経リサーチによる都道府県のブランド力リサーチでは、1998年には47位だったのが、今や24位にまであがっている。このPVはマスコミで大きく取り上げられた。例えば、全国紙や全国系列のテレビ番組に取り上げられた。その時はNHKだけ全国ネットで取り上げてもらえなかった。次回作はNHKの全国でも放映されることを目指す。




2 香川県が抱える課題と政策


()社会経済状況

香川県の課題は、人口が非常に減っていることである。香川県では、全国と比べて10年ほど前に人口のピークを迎えている。また生産年齢の人口も減って、高齢化率は15年後には3人に1人が高齢者というと危惧されている。一方、合計特殊出生率は1.48と全国平均に比べ高いが、若い世代を中心に転出傾向が進んでいる。香川県の20代前後の転出率をみてみると、大学進学率は56割と他府県と比べ遜色はないが、県内の大学進学率が2割である。ちなみに広島では5割、岡山も4割であるから、香川県内の大学進学率が低いことがわかる。

交流人口は、瀬戸大橋が開通した当初は1988年の年1000万人だったがその効果が薄れ近年減少傾向だった。しかし、昨年は880万人までに上昇した。今後の方向性としては、定住人口は減っているが、交流人口を増やすことで香川県を元気にしようと考えている。

20072008年と経済成長率は下がっている。事業所数は減っており、農業生産額も減少傾向で、また高齢化が顕著である。漁業・林業も同様である。経済のグローバル化によって、生産拠点の海外移転が進み、その打撃も受けている。健康福祉の面では人口10万人当たりの医者数・看護師の数は全国平均を超えている。しかし産婦人科・小児科の医者不足、離島の医者不足は全国同様である。また、災害が非常に少ない県である。

治安は15年前まで刑法犯の数が高かったが近年減少傾向である。だが一方で街頭犯罪が増えており、子どもを狙った犯罪が増えている。また交通事故については、10万人あたりの発生数、死傷者数が全国でワースト1位という不名誉な結果になっている。このような結果になったのは、香川県は小さな県のわりには道路が整備されている、また運転マナーが悪い、自転車が多いことなどが挙げられるが、根本的な問題は分からない。

非常に公共交通が弱いことも課題である。空港もあるが、平成元年国内11路線あったのが2路線になり、空港運営は苦戦している。全国的に話題になった中国の格安空港会社「春秋空港」の便を開設することに成功し、高松―上海を飛んでいる。この会社では、一番安いチケットは3千円と格安である。皆さんも上海に行くときは高松に寄って欲しい。

()豊島事件

次に環境問題についてである。環境問題について勉強されている方はわかるかもしれないが、香川県は豊島事件を抱えている。豊島事件とは1975年に起きた事件である。産業廃棄物処理を取り締まる当時の産業廃棄物対策法は不備な点も多く、豊島の廃棄物処理施設の開発を許可せざるを得なく、1978年に許可を与えてしまった。

しかし、無断で自動車廃棄物などを多く持込み、持ち込んだ廃棄物を野焼きし、周囲に公害をまき散らす行為をし始めた。島民からは許可を取り消して欲しいという依頼が度々入ったが、法律上許可を取り消すことは無理だった。

平成になって、兵庫県の警察が廃棄物処理法でその業者を逮捕したが、溜まった産廃物をどうするかという課題を残している。1993年には豊島の住民たちが県に対して公害紛争処理法に基づき公害調停の申請を行った。翌年には調停委員会が色んな処理案を出してき、最終的に中間処理案になった。

そして合意に向けて色んな技術的な検討を有識者に入っていただき、2000年に処分に関する最終合意をした。どのように処理をするのかというと、船で直島にある三菱マテリアルという会社が作った中間処理をし、その結果のものを有効活用できるものは有効活用し、できないものをきちんと管理するという結果になった。

当初2012年に終了する予定だったが、想定以上にゴミの量が多くまだまだ処理に時間はかかりそうである。これをきっかけに、産廃法を違反した際の罰則が見直され、今では5年以下の懲役、法人業者には1億円以下の罰金と非常に厳しくなっている。処理場も当時は届出制と、一定面積以下であれば届出だけで開発できたが、今では許可制となっている。

()学力低下など

次に学力について。香川県の学力テストの結果は全国平均を上回っているが、その差が縮まりつつある。また学力はよくても、学校における問題行動が多く、いじめや不登校は増加傾向であり、学内の暴力行為が多いことが憂慮すべきことになっている。

それから、香川県の財政は年間4千億だが、小泉改革によって歳入の3割ほどを占める地方交付税を一方的に減らされたことで、歳入面では苦戦している。

香川県はインフラ整備が充実しているため、平成に入ってその再整備が必要となり、大きな支出となった。またこの支出が小イズム改革による歳入削減の時期と重なったため、非常に財政面で苦しい時期もあった。2005年以降財政再建を行なっており、今やっと落ち着いてきている。





  

3 「せとうち田園都市香川創造プラン」の策定について

 

今日お配りした、「せとうち田園都市香川創造プラン」は今年度作成した県政運営の基本指針である。香川県を取り巻く環境や現状の整理、取り組むべき課題を明らかにし、進むべき基本目標と基本方針を定めたものである。海と田園、そして都市の調和がとれたまちづくりを目指している。

2頁にあるように3本の基本方針を定め、これに基づいて色んな施策を実施している。特に重点を置いて実施すべき項目、「重点施策」を5頁以降に記載している。次に、15の重点施策についてそれぞれ説明をしていく。

1,足腰が強く競争力の強いものづくり産業の育成。足腰が強い、というのは今強みとして持っている産業分野の強化をするということである。例えば新しい製品開発や販路開拓の援助などである。全国・世界に発信できるリーディング・カンパニーをつくることが目標である。

2,働く意欲と地域産業をつなぐ雇用対策の推進。先ほども話したように、ネームバリューのある大企業就職を志向するが就職がなかなか決まらない求職者が多い一方、中小企業は人出が足りないという状況である。そこで求人と求職のミスマッチ解消のための場づくりをしている。

3,世界に愛される香川印をめざすブランド化・販売促進。県産品のブランド化推進や、新たな県産品の発掘や魅力向上の支援をしている。また、国内の購買意欲が冷えてきているため、国外への販路開拓や拡大に対する支援もしている。

4,香川の大地と瀬戸内の恵みを生かした攻める農林水産業への転換。農林水産業は衰退産業というが、それら産業を守るだけでなく、攻めていった方が良い。そこで「売れる」農産物・漁業水産物づくりの推進をしている。例えば畜産物では、オリーブを使った牛や豚、鳥の畜産によって品質の向上を図っている。

5,未来と世界をつなぐ交通・情報ネットワークの整備。かつて香川県は交通の結節点として、また四国の拠点という位置づけだったが、明石海峡大橋などの開発によってその存在感は薄れつつある。しかし、かつての拠点性を維持するだけでなく、力強くする必要が有るのではないか。例えば空港拠点となり四国中からのアクセスを高める。また高松港のコンテナ取り扱い量を増加することで、拠点性を高めることを考えている。

6,子育てをみんなで支える次世代育成環境の充実。出生率は全国的に良好と言われている県である。こういった強みを伸ばしていく一方で、周りとの関係を閉じてしまうような単身高齢者が増加している。このような高齢者に地域へと出て若いお母さんたちのサポートにまわってもらえるようにしたい。

7、元気で長生きを目指す誰もが安心して暮らせる地域の実現。社会保障を今後どうするかという議論がされているが、香川県でも介護・医療の経費が増えている。かつて介護保険を担当する部署にいたことがあるが、当時介護保険に係る経費は400億円ぐらいだった。それが今や1000億円近くになっている。介護保険制度とは、医療に係るコスト削減のためにやったはずだったが、介護費用も医療費も増える状態になっている。

社会保障費用のコストダウンのために、元気なおとしよりを増やそうというプロジェクトをやっている。高齢者はたくさんの経験を積んでいるため、その経験を生かした社会参画、それによる生きがいの醸成を目指している。

8,大切な命を守り輝かせる香川の医療の充実。医師の数は全国を上回っていることは先程伝えたが、医師の数は地域によって偏在している。医師や看護師の確保は早急の解決が求められる。そこで、香川大学医学部生の定員を増加、また地元医大生が地元に残ってもらえるようにするための、地域に対する理解を深めてもらうためのセミナーを開催している。

9,未曾有の危機に備える地域基盤の整備・充実。香川県は災害が少ないが、東南海・南海大地震が近年起こることが予測されている。それに備えて、建物の耐震化の補助などを計画している。

10、香川の活力と県民生活を支える水資源の確保。かつては水の奪い合いで戦争や、最高裁まで話がもつれたこともある、水不足に悩まされてきた地域である。香川用水の早明浦ダム一体も年間降雨量の3分の1を占めるため、早明浦ダム建設によって水不足は解決すると考えていたが、天候の変化で近年降雨量が減っている。そのため既存の水源の有効活用や節水推進を考えている。

11、犯罪や交通事故から県民を守る安全対策の推進。交通事故の発生件数が多いのは先ほど話したとおりである。それには様々な理由があるだろうが、解決のために交通標記がみにくいという意見があるためその改善、自転車利用者に対するマナー向上キャンペーン、違反に対する警察の取締の強化が進められている。

12、地球との共存を香川から薦める低炭素・循環型社会の構築。「原子力発電は安全・クリーンなエネルギー」だとかつて言われていたが、東日本大震災によって原発事故が起こり、今では非常に危険視されている。突然原発から切り替えることは、経済活動の維持を踏まえると難しいが、徐々に脱原発に向かう必要がある。そこで、香川県は日照時間が長い県であるため、太陽光発電に力を入れている。Softbankの孫社長も力を入れているメガソーラーの導入を考えている。

13、夢と希望に向かって羽ばたく人を育てる香川の教育力の向上。学力が少し落ちてきているため、35人という少人数学級や複数担任制を敷いている。また暴力行為の削減のためには、専門家の力を借りる必要がある。

14、感動と驚きを呼び起こす香川の文化芸術・スポーツの振興。香川県では文化・芸術の特性を活かすことや、地域密着型のクラブやチームを育成に力を入れている。県民が地元に自信や愛着を持てるようにと行なっている。

15、世界を魅了する観光立県香川の実現。中国からも多くの方が来られている。またせとうち国際芸術祭には全国からの方が来られている。






4 終わりに

 

ぜひ、香川県出身のみならず、香川県に興味を持っていただいた方は、香川県にIJUターンしていただきたい。

社会に出られる皆さんに、私の好きな言葉をお話したい。ゲーテの言葉だが「お金を失うことは戻ってくる。名誉を失うことは一生懸命努力すれば戻ってくる。勇気を失ったら、この世に生まれなければよかったのではないか。」と非常に厳しい言葉を投げかけている。豊島事件は「人間、間違うこともある。だけど間違ったことに早く気づき、勇気を持って正していかなければならない」という教訓にも繫がる言葉である。私ども勇気を持って香川県政を進めたいと考えている。








 質疑応答

質 県職員としてのやりがいは何か。

答 一番印象に残った仕事は、2001年から2年間長寿社会対策課の課長を務めていた。2000年にできた介護保険制度に関連する仕事をしていた。例えば、介護保険者によるサービスをどれだけ提供するか、またそのために料金をどれくらいに設定するかというのを、市町村ごとに設定することが可能となった。市町村の中にはその制度の中身についてあまり分かってない人も少なくなかった。そこで市町村の人に「これこそ地方分権で、市町村の皆さんがしっかりしなければならない」ということを、私は担当課長だったこともあり一生懸命やった。結果、多くの市町村の担当部署の人にそのような気持ちが伝わり、達成感を感じた。

 

質 重点施策の中でも、特に重要な施策を12つ教えていただきたい。

答 中でも香川を元気にするための経済成長が重要である。これまで支店経済で潤ってきた、つまり中央の経済力に頼ってきた面がある。そのため地元の企業が創意工夫等をする機会が少なかったといえる。しかしバブル経済の崩壊、経済のグローバル化、リーマン・ショックなどの影響もあり、地場の力が重要であると再認識した。香川県の企業は創意工夫の積み重ねが少なかったところもあるため、色々悪戦苦闘しているところもあるが、香川県で頑張ってもらうために県として様々な支援を行なっている。

 

質 香川県では国の機関と二重行政にならないように、どのような雇用政策をとられているのか。雇用政策に関心があるので、その観点からお話いただきたい。

答 就職斡旋は職業安定法によって国しかできず、職業安定所も各都道府県に1つである。この地方分権については色々議論されている。最も言われているのは、職業安定所の各都道府県へ移管だが、まだ行われていない。どこの都道府県でもそうだと思われるが、地方自治体と国が一緒に企業説明会などをするようにしている。県が国の権限を活用して、事業を行なっているということである。

 

質 豊島問題を受けて、香川県では産廃の不法投棄についてどのような取組をしているか。

答 産廃法の法改正も行われたので多くの悪質業者を撃退できるようになったが、それでも不法投棄をする業者がいる。そこで警察から「どのような場所に不法投棄するのか」「捕まえやすくするにはどうすればいいか」などノウハウを教えてもらって、不法投棄防止の活動をしている。









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