本日は、第1回目に配布した資料のうち、まだ説明できていない部分についての補足説明、それと、これまでの知事・市長による講義の内容について、主なものを振り返りたい。
この講義の目的は、知事や市長の講演を聞き、現在の世の中の変化をとらえて、どのような政策が具体的に行われているのかを深く考えるということである。質疑応答もそのために設けた時間である。
これまでの知事や市長の講演を聞いて、どのような点で政策課題に関する考察が深まったか考えて欲しい。学部や学年の差によって、関心には差があると思う。
したがって、試験も、何か覚えたものをそのまま書くというようなものにはならない。少なくとも、今まで聞いた知事・市長の政策内容をよく考えて、自分なりに咀嚼してほしい。そして、考え方を深めるということに関連して、就職したときに分かるが、一つ大切なことは、自分の考えている事柄について、ある程度詳細にものごとを考えられるようになるということである。
この講義では、知事や市長という地方公共団体を現実に経営・運営をしている方々が、課題と政策とそれを行う理由を説明している。講演の内容だけからは考えを深めることが難しい場合もあるが、その場合は資料もあわせて見てほしい。また、都道府県や市町村のホームページを見て、その政策についてどのようなことを現実にやっているのかということを調べると、講演の内容がより詳細に分かると思う。
前期のケースでは、千葉市長はこどもの育成に政策の重点を置いた講演をしていた。その内容は、ホームページを見ると非常に詳しく書かれている。
なお、試験については、ある程度よく分かっていないと、答案が書けないような設問をしている。
現在の日本の状況は、高度経済成長期とはまったく異なっている。日本の高度経済成長期は、ある面では近年の中国のような時期であったといえよう。
そのような時期には、先進国というモデルがあり、そこから知識を得て、すでに培われたモデルを使えば、相当程度うまくいっていた。
しかし、日本が最先端に立つと、そうはいかなくなっている。フロントランナーというかトップランナーに立つと、自ら創意工夫して、明日のあり方を考えていくしかない。
皆さんの中には、昨年の年末に、NHKの「坂の上の雲」を見た人もいると思うが、旅順攻略がうまく進んでいない第3軍に、児玉源太郎総参謀長が、次のようなことを言っていた。即ち、「君たちの行っていることは、昨日までの考え方に基づいたものだが、状況をみて、明日の考え方をもって行っていかなければいけない。」というのである。
こういうことからしても、今日、地方公共団体が創意工夫しているという点が大事で、国で一律に何かを作って全国で一律にやっていけば、すべてうまくいくというほど、世の中の変化は単純ではない。地域ごとの状況はかなり差がある。
最近、大阪の状況を見ると、「大阪都構想」というものが出ている。そこで、この大阪都構想というのを考えてみよう。
関東・東京周辺に住んでいて、大阪の方向を見ると、単に大阪は一つの地方に過ぎない。かつて、経済力が強く繊維や家電製品に強かった時代は、一つの拠点だと認識されていたが、今はそうではない。本社機能もほとんど東京に移っている。その時に、大阪都構想というのが出てきた。東京には、そもそも「都」というものがあり、東京都に住んでいる。
新潟市長の講演を思い出すと、「新潟州構想」というものも出ていた。愛知県・名古屋市でも都構想のようなものが出ている。
では、大阪都構想が出ていることについてどう感じるか。大阪市という基礎的自治体を分割して、大阪都に権限を集めるということについてどう思うか。大阪都構想は関西ではかなり大きな議論として出ているため、皆さんも少しは関心を持っていると思う。
大阪都構想に関連して、政令指定市という制度がある。これは、地方自治法を作ったときに、特別市制度を設けて、特別市を都道府県と同程度の位置づけをしようとしたが、都道府県から反対があり、結局、政令指定市として、一部の事務を道府県から降ろしたというものである。例えば、都市計画の部分は若干それなりに権限を降ろした。そうすると、道府県と政令指定市の関係はなかなか微妙なものが出てきた。全国で、道府県と政令指定市では、行政を進めるのに、衝突していることも多いという話がよく出てくる。
ところで、東京23区は、千葉県、埼玉県、神奈川県、東京西部のような圏域の中心的なエリアとして成立している。東京23区から放射線状に民鉄が営業しており、山手線の駅が民鉄の始発駅となっている。山手線の中は、従来は都電、現在は地下鉄で結ばれている。交通が東京23区を中心に放射線状に郊外にのびている状況となっており、23区内のことだけを考えて整備されているのではない。
一方、政令市では市内のことだけ考えていれば良いため、大阪市が大阪府のことまで考えなくてもよい。交通がその典型である。
石川県知事の話では、石川県で産業整備をするときに、金沢港湾を整備し、そこにコマツの工場を作るという話をしていた。港湾整備と産業振興をあわせた政策を行っている。そのときに、金沢市に金沢港湾の管轄を降ろすとどうなるか。圏域のセンター部分の公共施設整備は、センター部分にだけ影響があるのではなく、周辺エリアにも影響が出る。
大阪の場合は、大阪市内のあり方は、その周辺の東大阪市や堺市、県境を越えた尼崎市、また、京都や奈良にかけての地域などにも影響が及ぶ。
したがって、制度をどのように作っていくかを考えることが求められており、東京の場合は、基礎的自治体がやるような基本的な行政サービスは特別区がやるが、それより広域のエリアに関する事務は、東京都に引き上げている。
つまり、23区は、東京都内のみならず、周辺の県との関係を現実的に考えざるを得ないという状況の中で、整備をしてきている。
そこで、大阪都構想という議論が出ているので、それに対して自分の意見を整理していくときに、基礎的な事務と広域的な事務があるということをよく整理して、考えていくのが良いだろうと思う。
次に、高齢化がどんどん進み、少子化も進んでいる。少子化がこれ以上進まないようにするには、保育所をもっと整備したり、地域で新しい仕組みを作ったりすることが必要となる。大阪市の橋下市長は「保育ママ制度」を上げているが、新しい仕組を作り、少子化を防ぐということを考えていかないといけない。
また、最近、社会保障に関して生活保護が増えているが、若年層での生活保護も相当に出てきている。ここで、ハローワークとの関係も出てくる。一度生活保護に入ると、その子どもまで生活保護から抜けられなくなる傾向があるという。厚生労働白書でも、「福祉から就労へ」ということが言われている。就労してもらい、就労の中で生活ができるようにもっていくということで考えると、生活保護とハローワークをセットでやる方がよい。そこで、ハローワークにしても、国よりも地方公共団体の方が、細かな支援ができるという声がある。
日本もフロントランナーになり、創意工夫が必要となっている。どのような方法がより効率的かつ効果的かということを見極めて、判断していく必要がある。
第1回目の講義で、地方財政に関して地方財政計画を資料として付けている。
地方財政計画は、翌年度の地方財政のあり方について、予算編成に際して決められるものである。そして、地方財政計画に基づいて、地方交付税が各地方公共団体に配分されるという枠組みとなっている。
地方財政計画を見るポイントは、一つは総額である。平成23年度では、82兆5,054億円で前年度0.5%の伸びとなっている。国の一般会計でも地方財政計画でも、ここ相当の期間財政規模を減らしてきている。
平成13年度では約89兆円だった地方財政計画の規模が、平成23年度では82兆5,054億円というところまで減ってきている。
国の一般会計もほぼ同様で、規模を少しずつ減らしてきた。ただし、平成22年度、23年度で少し大きくなっているが、主な原因は子ども手当ての関係である。
だいたい平成13年度あたりがピークで、14年度からは徐々に減少してきている。なぜ減少してきているのか。
一つは、バブル崩壊の影響から、バブル崩壊による需要減少分を支えるため、公共事業を拡大してきたが、小泉内閣から、公共事業をかなり減少させてきている。地方財政として行っている公共事業を見ると、ピークの半分ほどまでに減っている。
なお、この間、公共事業で景気を支えるということを減らしながら、民間の活力を使い、為替の円安にも支えられて、公共事業の減少分をなんとか補い、経済を運営してきた。それで、小泉内閣の時代は、少しずつ景気が浮揚していたが、近年また悪化している。特に、最近ではリーマン・ショックの影響を受けている。
次に、地方財政計画では、行政改革のため、毎年給与関係経費が相当の割合で削られている。地方財政計画の中で、給与関係経費が減らされた結果、交付税が減ることとなる。地方公共団体では、それに対応する形で、自らも行政改革を進める中で、公務員の実数を減らし、給与も減らしている。
行財政改革を進めたという講演が多くあったのを覚えているだろうか。特に、人件費の削減ということでは、職員数を減らすということに踏み込んで、かなりの行財政改革を行っていた。
これは、したがって、地方財政計画という、地方財政全体の影響が、個々の地方公共団体に及び、個々の地方公共団体も、行政改革の必要性から、そのような改革を進めるべきものとして、進めたということである。
公共事業を減らし、行政改革を進めるという中では人件費も対象としたが、そこで減っているほどには、実は、地方財政計画の規模は減っていない。
これは、高齢化の影響が如実に出てきており、社会保障費が増えているためである。国の予算では、毎年約1兆円ずつ社会保障費が増える。
つまり、一方で、公共事業を減少させ、行政改革を行い、他方、社会保障費が増大し、したがって、地方財政計画もそれに応じて、全体としては減ってきたのである。
ところで、地方交付税を考えるときにややこしい問題となるのが、基準財政需要額と基準財政収入額、それと留保財源である。
まず、基準財政需要額は、当該地方公共団体が標準的な行政を行うのに必要とする一般財源ととらえてもらいたい。また、基準財政収入額は、当該地方公共団体の標準税率での税収を計算し、その標準税収額のうち75%を算入して、それに地方譲与税などの財源を加算する。そして、基準財政需要額から、基準財政収入額を差し引いた金額について、地方交付税が配分される。すなわち、当該地方公共団体が標準的な行政を行うのに必要とする一般財源は、このように財源が賄われるのである。そして、地方公共団体の独自の事業について、標準税収入額の25%が、留保財源として確保される。
このため、税収の大きいところでは留保財源も大きくなるが、税収の少ないところでは留保財源も小さくなる。
ところで、地方交付税の計算の中で、基準財政需要額に一定の調整をし、需要額を伸ばすと、その分は交付税で補填されるため、税収が小さいところでも行政サービスができるということになる。
このため、地方再生対策費などの形で、地方財政計画に一定額の財源を組み入れている。このような形で、全国でそれなりに地方行政サービスが確保できるようにもっていっているのである。
次に、地方分権推進委員会第四次勧告があり、地方税財源のあり方に関する勧告を行っている。ここでは、「地方の自己決定、自己責任の拡充には地方税の充実が最も重要。応益性を有し、薄く広く負担を分かち合うもので、地域的な偏在性が少なく、税収が安定した税目が望ましい。」としている。
これは消費税のことである。地方消費税は、現在の消費税5%のうち1%となっている。国税となる4%のうちにも交付税を通じて地方に入ってくる部分(消費税収入のうち29.5%)がある。これからの地方税財源の拡充は、地方消費税の充実が中心であるとされている。
最近、社会保障制度のあり方と税制の一体的改革を新聞で見たと思うが、社会保障制度のあり方と税のあり方の一体改革として、どのようにして消費税を上げるかということに主眼が置かれている。
社会保障と税制の一体改革では、消費税を5%上げるということに整理されている。この中にも国税分と地方税分が入っている。増税する5%のうち、1.2%相当分は地方税ということで整理されている。
地方消費税は税源の偏在性が少なく、最大の地方公共団体と最少では、最大が最少の1.8倍となっている。地方税源としては比較的税源格差が少ない。一方、地方法人二税では、最大と最少では6.6倍もの差がある。
なお、国民負担率は、社会保障負担と租税負担の国民所得に対する割合だが、日本(2010)は39.0%となっている。スウェーデン(2007)では64.8%、アメリカ(2007)は34.9%で、イギリス(2007)48.3%、ドイツ(2007)では52.4%、フランス(2007)が61.2%となっている。
日本は、これまで中福祉中負担ということで進められているが、社会保障制度では中福祉となっているが、租税ではそうなっておらず、ずっと特例公債を発行して補っている。特例公債も含めて国民負担率を考えると、かなりの値となる。社会保障と租税の一体改革の議論が出ており、そこをなんとかしようと進められている。
次に、地域主権戦略大綱で取りまとめられた内容が、どの程度民主党政権の中で進められてきたかと言うと、相当それなりに進んできていると言えると思う。
地域主権戦略大綱の中では、義務付け、枠付けの見直しと条例制定権の拡充が言われているが、かなりの数の法律改正が行われている。第一次一括法では、例えば、児童福祉施設の設置及び運営に関する基準の条例委任が行われ、第二次一括法では、例えば、公立高等学校の収容定員基準が廃止され、基礎自治体への権限委譲でも、相当数の法律改正が行われている。
また、国の出先機関の原則廃止について、アクションプランが閣議決定されているが、今後どのように進んでいくのか、政治の動きをよく見ていく必要がある。出先機関を廃止するとその事務をどこが行うのか、都道府県に移管するのか、広域連合をつくり移管していくのかといったようなことである。なお、地方自治体が特に移譲を要望しているものとして、直轄道路や公共職業安定所(ハローワーク)などの移管が上げられている。ただ、この関係については、財源や人員の取り扱いをどうするのか、決めていかなければならない内容がなお多く存在している。
地方自治法も改正されており、かなり地方自治、地方分権という関係での改正を行っている。例えば、議員定数の法定上限を撤廃し、議会の議決事件の範囲を拡大し、行政機関の共同設置について改正し、地方自治法で市町村基本構想の策定を義務付けるのを撤廃している。
さらに、国と地方の協議の場が法律で定められ、国と地方が協議して意見交換を行うことができるようになった。
構成員は、内閣官房長官、特命担当大臣、総務大臣、財務大臣、内閣総理大臣が指定する国務大臣が国の関係者となる。地方の関係者は、地方六団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会、都道府県議会議長会、市議会議長会、町村議会議長会)の代表となっている。内閣総理大臣はいつでも出席し、発言が可能となっている。
協議される事項は、国と地方公共団体との役割分担に関する事項など、地方財政、地方行政、地方税制、その他地方自治に関する事項、経済財政政策、社会保障、教育、社会資本整備に関する事柄、その他の国の政策のうち、地方自治制度に影響を及ぼすと思われるものとなっており、かなり広い範囲にわたって国と地方で協議をするという場が設けられた。
これが今後どのように活用されるのか、国も地方も新しい政策を行っていかないといけないが、新しい政策を考える上でどのような意見交換になるのかが重要なところである。
ひも付き補助金の一括交付金化も地域主権戦略大綱の中に出ているが、地域自主戦略交付金という形で、平成23年度から一部現実化されている。補助金を交付金化することで、途中の補助申請に関する煩瑣な事務を省くという点で意味のあるものである。
直轄事業負担金については、維持・管理の負担金は廃止された。建設に関する部分は、平成25年度までに結論を出すということで現在検討中となっている。直轄事業負担金についても縮小がないと意味がないため、そのような方向に進むのではないかと思われる。直轄事業負担金が問題となるのは、実施する地方公共団体にも受益があるとして負担金を取るが、本来国の事業なら国の財源でやるべきだろうということである。
埼玉県知事は「鳥の目」、世の中を鳥瞰的に見ること、「虫の目」、物事を細かく見て、それぞれの課題に対してどう対応するか考えること、「魚の目」、世の中の変化の潮流を読んでこれからの政策を考えていくということ、これら3つの視点が大切だと話していた。
現在の日本は、フロントランナーになり、グローバル化や情報化の影響を受け、また環境保全が大切になっている。さらに、日本の場合には、高齢化が進んでおり、少子化も進んで、人口が減少してきている。
そこで、これから、どのように対応していくかということだが、徐々に経済が発展していくと、物事は多様化し、質も高度化していく。多様化、高質化というのは、進化(evolution)ということでもある。
進化と聞くと、適者生存と思うかもしれないが、それだけではなく、白血球と赤血球の細胞が一つの細部であったのが、分化して、それぞれの質が高くなり、また相まって、全体として機能が向上したように、専門分化し、したがって多様化し、それぞれが、質の向上、すなわち高質化して、それらが連携して、全体として、高度化を果たしていくことになる。
したがって、これからの日本のあり方においても、このような多様化、高質化といったことを踏まえて、政策を考えていくことが必要になるだろう。
なお、講義の内容として、政策的に見て、全体的に講義をしていただいたのは、宮城県知事、埼玉県知事、石川県知事、川崎市長の4方で、かなり包括的に説明していただいた。
また、国際関係について話をしていいただいた方もいた。地方公共団体でも国際ということを意識して地域のことを考える必要があるということで、奈良県知事は、東アジアのことを中心に、奈良県の歴史という面からも話していただいた。
それぞれの地方公共団体が、どのような歴史的なものを持っているのか、国際関係ではどのようになっているのかということは、これからそれぞれの地方公共団体が政策に対応していく一つのやり方である。
新潟市に関しては、新潟州構想という話があった。
栃木県知事は、かなり包括的に話をしていただいたが、栃木県について考えてみたい人は、配布された資料もよく見てもらいたい。
宮城県知事は、震災復興ということで、震災と震災復興に関する事柄を相当幅広く話していただいた。また、宮城県では、再生可能エネルギーを活用したエコタウンということも話されていた。
医療との関係では、尼崎市長も健康維持に関する事柄を説明された。
埼玉県知事には、国際化ということに対して、人材育成で努力をしているという話をしていただいた。高度人材、あるいはグローバル人材という言葉があるが、海外へ行って知識・技能を広げるため、積極的に海外に人材を出しているということであった。
もう一度、知事・市長の講義の中で深めたいと思うところを見直し、単に知識を広くするというのではなく、自らこれからどうあるべきかをよく考えてもらいたい。
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