Special interviewJST「創発的研究支援事業」採択者懇談会
未来を切り拓く挑戦
研究者支援への現状と展望
ーJST「創発的研究支援事業採択者懇談会ー
立命館大学において、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業の採択者 村田 順二教授(理工学部機械工学科)、元村 一基准教授(総合科学技術研究機構)と仲谷 善雄総長、野口 義文副学長の懇談会が行われました。未来に向けた研究の挑戦、そして科学の新たな可能性を切り拓く想いをお話しいただきました。

先を見据えた発想が生む、破壊的イノベーション
仲谷
立命館大学にとって、JSTの創発的研究支援事業に採択されたことは初めてのことであり、大きな意義があると感じています。本学では30年にわたり研究力の強化に注力し、細やかな支援ができる研究支援体制の整備や外部資金獲得の仕組みづくりをはじめとした研究環境の充実を図ってきました。その結果が、現在の本学の強みである研究力につながっています。創発的研究支援事業の採択率は応募総数の約10%と狭き門です。その中でお二人の研究が高く評価され、採択に至ったことは、先生方のたゆまぬご努力と本学が培ってきた研究力の成果でもあるといえるでしょう。今後はお二人の研究を広く発信し、研究人材のさらなる育成へと結びつけていきたいと考えています。ぜひ、研究内容について教えていただけますか。
村田
ありがとうございます。私の研究は、「微細な表面構造を環境に優しく簡便に製造する」ことを目指しています。たとえば、ヨーグルトの蓋や競泳用水着の技術には、微細構造が活用されています。しかし従来の製造法は高価で環境負荷も大きい。そこで私は化学反応を利用し、金属表面にスタンプを押すように構造を作り出す技術を研究しています。この技術が実用化すれば、多くの分野で革新的な成果をもたらすと信じています。
元村
私は植物の「花粉」に注目した研究を行っています。花粉は植物の生殖に欠かせない組織(あるいは「細胞」、「もの」などでも可)であり、私たちの食生活にも大きく関わるものです。しかし近年、環境変化により花粉が正常に作られず、種子が形成できない問題が深刻化してきました。私の研究では、花粉がどのように作られるのかを基礎から明らかにすることで、環境ストレスに強い作物の開発に繋がる基盤づくりを目指しています。そしてこの研究を通して、持続可能な農業の実現に貢献したいと考えています。
仲谷
身近なテーマでありながら、基礎から応用への可能性が広がっている点は、研究として素晴らしい着眼点だと思います。好奇心に基づく基礎的な研究から生まれる画期的な発見や、社会や人々の役に立つイノベーションに繋がる研究は多くの人の心を捉えます。そういう意味でも、今回の採択は意義深く、魅力的な研究を立ち上げていただいたことに感謝しています。

野口
創発的研究支援事業は、破壊的イノベーションにつながるシーズの創出を目的としていますが、その期待に応える研究が本学から生まれたことは非常に誇らしいことです。総長が言及されたように、これは立命館大学が研究者をどのように支援してきたかの成果でもあります。また、優れた先生方が学内のロールモデルとなることで、大学院生や若手の研究者にも良い刺激を与え、好循環や相乗効果を生み出していくと期待しています。

学生と研究者、両者に充実した環境を目指して
村田
私自身、大学の支援制度に大いに助けられてきました。特に論文投稿費用の補助は、ハイインパクトジャーナルでの論文出版という挑戦を支えてくれています。また、私個人だけでなく、学生への支援の手厚さも強く実感しますね。研究室に所属する大学院生への奨学金や学会参加支援は、学生たちの成長に直結しています。今後は、この素晴らしい環境を学外にも積極的に発信することが重要ではないでしょうか。取り組みを発信することが、優れた研究者を集めることにつながると考えています。
仲谷
研究を推進するには、大学としての支援体制に加えて、広報が鍵となります。今後、当事業を発信するウェブページを立ち上げるとともに、SNSも活用していく予定です。また、本学の研究活動報『RADIANT』にも大きく取り上げることで、学外の方にも広く知っていただけるでしょう。さらに、本学の特徴として一貫教育がありますから、附属の小・中・高校の生徒たちにも先生方の研究を知ってもらい、興味を持ってもらう機会をつくることができます。STEAM教育や探究学習の充実が求められていますが、最先端の研究に触れることで、生徒たちの好奇心に基づいたワクワクする探究心を刺激する学びの機会を設けるなど、学園全体として創発性人材を育成していきたいと考えています。

村田
附属の小・中・高校の生徒、児童たちに向けた「出前授業」のような取り組みができれば、研究の素晴らしさや面白さを直接伝える良い機会になると思います。生徒たちに、研究の魅力をぜひ知ってもらいたいです。
元村
今の立場にいられるのは、大学からの支援のおかげだと強く感じています。必要な資源や環境を提供していただいたおかげで、順調に研究を続けることができました。 今後の支援として、例えばキャリア形成の観点から長期的な研究ができる環境が整えば、大学院生や若手研究者がじっくりと革新的な研究に取り組めるのではないかと期待しています。

野口
研究人材の育成に向けて、大学院生への支援は非常に重要です。将来を見据えた長期的な指導体制やキャリアパスなども一体的に考える必要があるでしょう。さらには、早期化する就職活動に対する対策も考える必要があり、企業と連携しながら博士号を取得するための環境整備も行っていきたいところです。今後総長と協議しながら仕組みをさらに前進させ、次世代研究大学を目指す立命館の名にふさわしい取り組みを進めていきたいと考えています。

未来を紡ぐ研究を支え続ける
村田
研究成果の実用化に向けて、研究室に留まらず、企業との連携も進めています。課題も多いですが、社会へと着実に結びつけることが目標の一つです。また、将来的にはトップジャーナルへの論文掲載の夢も果たしたいと考えています。現在はその土台固めを進めているところです。成果につなげられるよう努力していきます。

元村
基礎と応用、両方の視点から様々な研究に積極的に取り組んでいます。私が研究に用いているのは、2020年にノーベル賞を受賞したゲノム編集技術です。この技術を応用することで、花粉がどのように形成されるかを従来の研究よりも数千倍のスピードで解明できる見込みです。近い将来、研究成果を公開できると考えていますし、植物科学のスタンダードな技術になると信じています。

野口
現在、日本におけるノーベル賞の「2030年問題」が指摘される中で、ノーベル賞の自然科学3賞である物理学、化学、生理学・医学の受賞成果が途絶える可能性も危惧されています。日本の研究力を絶やさぬように、理科的思考を持つ学生をさらに増やしていかなければなりません。そんな中で、今回の採択は学生や教員にも大きな刺激を与えるはずです。今後も研究支援を行い、相乗効果で立命館大学の研究全体をさらに引き上げていければと思います。
仲谷
研究・人材育成を担う大学は、人類に共通する課題の解決と、持続可能な社会の実現に向けて、世界をリードする存在であるべきだと考えます。立命館大学は、お二人のような研究者がより一層活躍できる研究環境の整備と制度の充実に取り組み、社会共生価値の創造とイノベーションに取り組む「次世代研究大学」の実現を目指します。
