2010年5月28日更新

自然循環の復活で環境を再生、その救世主は地中の微生物

久保 幹
総合理工学院 生命科学部・生物工学科 教授
1959年生まれ。工学博士。1983年広島大学工学部卒業。1985年同大学大学院理学研究科博士課程前期課程修了。1992年工学博士。1994?95年イリノイ州立大学医学部(文部省在外研究員)。1997年立命館大学理工学部助教授、2002年から教授。「バイオマスなどのエネルギーもテーマの一つ。実はゴキブリから石油が採取出来るんですよ」
微生物生命科学

琵琶湖の生態系を壊すといわれる外来魚、ブルーギルを原料とする栄養価の高い養鶏飼料を開発。害魚の駆除と高騰する飼料問題の両方を解決する糸口を作ったのが久保幹である。穀物に比べて鶏の体重は約1割増加。それだけ成育が早いため、飼料も少なくて済む。しかも「食べ物なので味も大切。100人を集めて普通の鶏肉と食べ比べてもらいましたが、6割が美味しいと評価しました」と言う。

その秘密は微生物。既に大豆カスを急速分解する微生物を利用して農作物育成を促進する「ペプチド」を生成しており、ブルーギル飼料はその技術を応用したものだ。それだけでなく、石油系の汚染土を微生物で浄化する装置も実用化した他、最近では地中の微生物を計測する技術も独自開発している。

「落ち葉や糞尿などを微生物が分解すると肥料になります。それで植物が育ち、私たちが食べる。これが自然の循環。ところがここ50年間は化学肥料が主流となった。無機物なので微生物のエサにならず、どんどん死滅します。これでは有機農法をやっても循環しません。こうした土壌の改善には客観的な指標が不可欠ですから、分子生物学を活用して2時間で微生物を定量的に測定出来るようにしました」

これまで調べた農地の微生物平均値は1グラムあたり40億個。2億個以下では不活性となり循環出来ないという。東京湾の底泥は20億個と意外に多く、琵琶湖の南湖では僅かに0.6億個。

「悲惨ですね。私は多種の生物と共存出来る循環型の社会が人間に本当の豊かさをもたらすと考えています。今の日本は食料自給率が4割以下で化学肥料もほとんど輸入。これでは自給率は絶対に上がらないので、循環系を再構築する必要があります。土壌環境の品質分析を食の安心・安全に展開し、効率的で持続可能な流れを作りたいですね。最終的には儲かる食料生産の実現。それが工学部出身の私に出来る、広い意味での研究成果の融合だと思います」

AERA 2009年2月2日号掲載(朝日新聞出版)
研究をはじめた
きっかけは?
どうしてもやらなければならない事項であると判断しました。誰もやっていないことでしたので、ある意味、仕方なく自分でやることに......(→続きを読む)
Q1

AERAでご紹介した研究を始められたきっかけは何ですか?

研究の積み重ねで、どうしてもやらなければならない事項であると判断しました。誰もやっていないことでしたので、ある意味、仕方なく自分でやることにしました。

Q2

今までに運命の出会いはありましたか?

現実派としては、あまり「運命」ということは意識しておりません。ただ、ご縁があったことは大切に育てるように心がけています。

Q3

最近の気になるニュースは何ですか?

・石油価格の乱高下、穀物価格の高騰、肥料価格の高騰
・新エネルギーに関する話題
 (バイオエネルギー、太陽光エネルギー等)
・政治の混迷
・我が広島カープの新球場に関する明るい話題

Q4

最近、何かオススメはありますか?

ウゥ~~ン、特にお勧めする事項は思い浮かびませね。すいません。研究の立場から言えば、「納豆」「酵母錠剤」「ヨーグルト」などの微生物が入っているようなものは健康維持には良いと思います。

Q5

休日はどのように過ごされていますか?

リラックスすることを心がけています。愛犬のジョンが癒してくれます(笑)。

Q6

先生が未来に残したいものは何ですか?

100年使える技術、概念、物質。
立命館大学、特に生命科学部・薬学部の堅実な発展。


このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp

ページの先頭へ