2010年5月28日更新
琵琶湖の生態系を壊すといわれる外来魚、ブルーギルを原料とする栄養価の高い養鶏飼料を開発。害魚の駆除と高騰する飼料問題の両方を解決する糸口を作ったのが久保幹である。穀物に比べて鶏の体重は約1割増加。それだけ成育が早いため、飼料も少なくて済む。しかも「食べ物なので味も大切。100人を集めて普通の鶏肉と食べ比べてもらいましたが、6割が美味しいと評価しました」と言う。
その秘密は微生物。既に大豆カスを急速分解する微生物を利用して農作物育成を促進する「ペプチド」を生成しており、ブルーギル飼料はその技術を応用したものだ。それだけでなく、石油系の汚染土を微生物で浄化する装置も実用化した他、最近では地中の微生物を計測する技術も独自開発している。
「落ち葉や糞尿などを微生物が分解すると肥料になります。それで植物が育ち、私たちが食べる。これが自然の循環。ところがここ50年間は化学肥料が主流となった。無機物なので微生物のエサにならず、どんどん死滅します。これでは有機農法をやっても循環しません。こうした土壌の改善には客観的な指標が不可欠ですから、分子生物学を活用して2時間で微生物を定量的に測定出来るようにしました」
これまで調べた農地の微生物平均値は1グラムあたり40億個。2億個以下では不活性となり循環出来ないという。東京湾の底泥は20億個と意外に多く、琵琶湖の南湖では僅かに0.6億個。
「悲惨ですね。私は多種の生物と共存出来る循環型の社会が人間に本当の豊かさをもたらすと考えています。今の日本は食料自給率が4割以下で化学肥料もほとんど輸入。これでは自給率は絶対に上がらないので、循環系を再構築する必要があります。土壌環境の品質分析を食の安心・安全に展開し、効率的で持続可能な流れを作りたいですね。最終的には儲かる食料生産の実現。それが工学部出身の私に出来る、広い意味での研究成果の融合だと思います」
AERA 2009年2月2日号掲載(朝日新聞出版)このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp