2010年5月20日更新
この1年間、アメリカのグーグルと大学を行き来している。同社は多くの社員がエンジニアで、技術力も大学のコンピューター科学をはるかに超えている。「研修のため最初に訪れた時は大きなショックを受けました。彼らに出来ないことはいったい何だろうと、今も考え続けています」
立命館大学では勤続5年で1年の在外研究が出来る。これまで海外の大学に行くのが常識的だったが、西尾信彦は敢えて前例のない民間企業のグーグルを選択し、日米を往復しながら研究を進めた。これは彼の実績を知れば理解出来なくもない。例えば小学生の通学路にある自動販売機の上にカメラと通信機器を設置した防犯ネットワークシステム。ランドセルにも警報ブザー付きのタグを付け、通学状況チェックから、個人別の登校・下校情報もリアルタイムに親や先生にメール送信される。「現実的な防犯は地域コミュニティーの育成が唯一の解決策。それを促す住民相互の交流支援も行っています」と西尾は付け加えた。
さらに先進的なのは、街中の壁に多くの広告映像が投影され、人の歩行に合わせて追いかけていくシステム。広告内容も個人の好みやその状況に対応させることが出来、立ち止まれば興味があると判断して自動的に映像が拡大、内容も詳しくなる。SF映画『マイノリティ・リポート』で主役のトム・クルーズが逃げている時、通路に映し出された広告映像が「ギネスを一杯」と呼びかける場面がある。まさに、その再現だ。
「この映画ではアイロニー(皮肉)として扱われていましたが、街中を歩き、買い物しながらの環境でも情報を伝達出来る新たなユーザーインタフェースを作る試み。いわゆる『ユビキタス』ですが、僕は人間が能動的に楽しめる情報を分かちあうことが重要だと考えています」
このシステムは、グーグルのストリートビューに情報を融合させた形で発展させる計画である。
「グーグルは天才集団だから、似たような発想では絶対に負ける。独創的なイノベーション・コンセプトが必要なんですよ」
AERA 2009年1月19日号掲載 (朝日新聞出版)このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp