2010年9月13日更新
島川博光の研究室には、約10畳のお茶の間と6畳のダイニング・キッチンがある。そこにびっしりと4・5センチ角の電子タグが敷き詰められている。その数4000枚。冷蔵庫や電子レンジなどの取っ手も同じだ。被験者に、この電子タグのリーダー(読み取り装置)を取り付けることで、その移動や活動を無線でモニタリングするのである。
「例えば洗濯機の中から洗濯物を引っ張り上げたり、掃除機を使う時にかがむという作業は高齢者には辛いんです。その頻度が著しく減少して行動量も乏しくなると、要介護状態で手遅れ。利便性を打ち出している『スマートハウス』のように、何もせずに済むと、身体を動かさず高齢者には逆効果。でも衰えたことを検知するシステムでは遅い。そうなる前に状況を知った孫が電話して『今度遊びに行くよ』なんて声をかけられると、じゃ部屋を綺麗にしようかとの生活意欲につながる。単なる健康状態のモニターでなく、高齢者の生活意欲を維持するためのしかけなんです」
既に高齢者3人を集めた実験も行っており、彼らの動線も分析済み。京都府からの研究支援も受けたというから、かなり現実的なレベルといえるだろう。
「風呂を必要な時に自動的に沸かすというサービスなどもありますが、そうすると高齢者はますます動かなくなります。ではどうしたら生活意欲を刺激できるか。遠くにいる家族や訪問介護者、医師や建築家などが、それについてインターネット上で会議するというのが次のフェーズ。そうしたシステムを一人ひとりの高齢者のために用意する。そんなこと現実には無理といわれがちだけど、電子タグをプリントすればコストは大幅に削減できるはずなんです。また、データで残るので経年変化を見ることもできます。用心のために、薄く広くケアをしておく。いざ寝たきりというコストを考えれば、ずっと安く、精神的にも気持ちよく受け入れられると思います」
セキュリティー会社やハウスメーカー、あるいは生命保険会社などと提携すれば、高齢者が自立して暮らしながらも、家族や専門家が遠隔でそれを見守る新たなケア環境が誕生するかもしれない。
「実は目下の課題は風呂。湯気で電波が飛ばないし、センサーも身体に付けられない。でも、高齢者には最も危ない場所。大学から風呂の設置許可は得たので、明日に向けてもう一工夫ですよ」
AERA 2009年7月27日号掲載 (朝日新聞出版)このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp