2010年12月13日更新
人体の中に入って診断や治療まで行う「マイクロ体内ロボット」は、前編で紹介した「ボディ」や「脚」(移動手段)で完成したわけではなく、同時並行で様々な研究開発が進められている。
この体内ロボットの腕や手となるのが、小西聡が開発した「マイクロハンドみゅーたん」だ。シリコンラバー製で、その先端に1ミリ幅の5本の指があり、その 1本1本を自由に動かすことができる。指の中央部の間接に秘密があり、ここを風船のように膨らませると指はモノをつかむ動作となり、圧力を抜けば真っすぐに戻る。2005年の「愛・地球博」では、まつげを思い通りにカールできる微細な動きで注目を集めたが、医療でも多彩な利用が考えられている。
既に、このマイクロハンドを備えた体内ロボットが製作された他、内視鏡にも装着されている。まさにヘッド(先端部)の両側で、その行く先を妨げる臓器を、傷つけることなく押し分けていく「腕」だ。この「腕」が患部に直接触れて薬を塗ったり、臓器をマッサージすることができるのだ。
小西は半導体製造技術を応用したMEMS(微小電気機械システム)の生体利用を推進してきたエキスパートであり、「生体は細胞レベルではマイクロ、ナノという極小世界で構成されています。MEMS技術を活用すれば、この微細なスケールまで対応でき、特に医療分野の技術革新が可能になる。そのキーワードは小さく、柔らかく、安全に。新材料の開発まで含めた幅広い視野も不可欠です」と語る。
さらに、体内にぴたりと密着する特殊な吸盤構造を開発。これに検査機能を持つマイクロチップを搭載したり、薬を特定の部位に運んで集中的に注入する DDS(薬剤最適投与システム)としての利用も期待されている。患部に密着できるため、より確実な検査・診断や治療が可能になるという。
「僕はもともとは電子工学の出身ですが、生命に興味がありました。生体は素晴らしいモチーフなので、ものづくり技術の結晶であるメカやデバイス、バイオなど様々な分野のプロが結集すれば、ライフサイエンスや医療分野への応用など多彩な可能性が無限に広がる。僕が担当するバイオメディカルデバイス研究センターでは、そんな最先端の異分野融合に挑戦しています。もっと医療を人間に優しいものにしたい。日本発で、世界の医療のあり方を革新していきたいですね」
AERA 2010年12月13日発売号掲載 (朝日新聞出版)このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp