2011年2月7日更新
朝の寝起きが悪いときの大きな理由は、起床のタイミングと睡眠サイクルの不一致である。人間は深い眠りと浅い眠りを交互に繰り返す。眠りが深いときに目覚ましで無理して起きれば頭はボーッとなり、逆に浅い時に起きると気分がいい。とはいっても意識してできることではないが、牧川方昭が開発したシステムなら、それが可能になる。
これは心電図を計測するセンサーである。深い眠りの時、鼓動は遅く、浅ければ速くなる。体温も眠りが深い時には低く、浅いときには上昇する。つまり、心拍数の変化が分かれば、電気毛布などで体温を調整して、起床時間に向けて睡眠サイクルをズラしていけばいい。ごく簡単にいえば、起きる1時間ほど前くらいから体温を上げていくわけだ。
この心拍計測は、病院の心電図検査のように、これまで地肌に電極をつけなければならなかった。それを牧川は「導電布」と特殊なアンプ(心電図増幅器)によって完全な非接触にしたのである。導電布をベッドのシーツの下に敷くだけで寝返りも把握できる。時差ボケ解消や無呼吸症、病院や介護施設なら患者や高齢者の状態管理など応用範囲は幅広い。クルマ用のシステムも開発しており、居眠り運転(心拍数が遅くなる)を感知することもできる。導電布をシート下に置くだけなので、ドライバーの運転動作や姿勢に影響されることもない。
「心拍数は緊張でも上昇するので『嘘発見器』にも応用されています。だから、もっと小型化すれば苦手な人が分かる『人間関係チェッカー』にもなるかな(笑)」
Tシャツなどに貼り付けることも可能なため、たとえば店舗や商品に対する印象を記録できれば、全く新しいマーケティング・ツールにもなり得る。
すぐにでも実用可能な画期的な発明にもかかわらず、「特許は取りましたが、商売にはあまり興味ないのでねえ」と牧川が実にあっさりしているのは、もっと先の未来を見ているからだ。
「人間の快・不快や何に興味があるのかを理解して、気を使ってくれるロボットを作りたい。そのためには人間の気分や感情を正確に伝えてやらなきゃいかんでしょ。生体工学を応用して人体が日常生活で発する様々な信号を計測し、ロボットが認識しやすい数字にするのが僕の研究なんです。すごく頭が良くて、人間に優しい『鉄腕アトム』のようなロボットがあちこちで仕事を分担していて、いろいろな場面や状況で人間の気持ちに応じて助けてくれる。そんな社会が僕の描くロボットと生きる未来像ですね」
AERA 2011年2月7日発売号掲載 (朝日新聞出版)このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp