2013年1月7日更新

老化で衰えていく運動抑制機能 地域の高齢者と共に改善に取り組む

土田 宣明
立命館大学文学部心理学域教授
土田 宣明(立命館大学文学部心理学域教授)
博士(人間科学)。1961年三重県生まれ。1985年立命館大学文学部心理学専攻卒業、2005年大阪大学大学院人間科学研究科適応認知行動学博士課程修了。1989年から立命館大学。助手・助教授を経て、2006年から現職。主な研究分野は、行動調節機能の検討、老年期の行動調節など。言語聴覚士を目指していた頃に何を聞いても同じ答を返す「保続」と呼ばれる症状にショックを受け、行動調節の研究へ。趣味は散歩。「せいぜい1時間くらいかな。東海自然歩道などをブラブラ散策すると、気分をリフレッシュできます」
心理

私がゲンコツで机を1回叩いたら、あなたも同じようにしてください。でも、私が2回続けて叩いたら、叩かないでください」

簡単なテストだが、止めるべき時に引き込まれるように叩いてしまう時がある。

「脳の機能が低下したり、疲労している時には、叩いてはいけないと分かっていながら動きを止められないミスが増加します。こうした身体運動をつかさどっているのは脳の前頭前野と呼ばれる場所(額の後)ですが、年を取るとその能力も低下することがわかってきたのです」

近年は高齢のドライバーがブレーキとアクセルを踏み間違えて暴走する事故が頻発しているが、そのすべてではないにしても、この抑制機能の低下が原因になっている可能性があるという。

「アクセルと分かっていながらも、足を止められず踏み続けてしまうわけですね。ATMで暗証番号を何度も押してしまう間違いも同じですが、大切なのは、これは正常な加齢のプロセスで出てくる普通の現象だということです」

年を取れば誰でも運動能力は低下していく。体を俊敏に動かす力が鈍くなるなら、その逆の抑制能力が衰えるのも不思議ではない。前頭前野の抑制能力の改善は可能ではないかと土田は考え、研究プロジェクトの一員として取り組んできた。

「2005年から65歳以上の高齢者にボランティアとして協力していただき、様々な実験とFAB(前頭葉機能検査)による6項目の検査を組み合わせて効果を判定してきました。最初に紹介した机を叩くことも検査方法の一つです」

新聞を「音読」したり、「百ます計算」のような簡単な算数を続けることで、本来は低下するはずの抑制機能が向上したというから注目に値するが、「むしろ、それを媒介にしたコミュニケーションが刺激になっているのです」と土田は語る。

「取り組みの中で、サポートの学生たちと話が弾むことが抑制機能の改善に不可欠な要素であることがわかってきました。トランプなど会話しながらできるゲームも有効だと考えています。最近は京都各区や介護施設からも研究の実践の依頼があります。その期待に応えながら、より高い効果を得られる方法を開発していきたいですね」


認知機能の低下を食い止め・改善する高齢者学習支援活動
*ムービーが表示されない場合は、最新のブラウザでご覧ください
AERA 2013年1月7日発売号掲載 (朝日新聞出版)

このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp

ページの先頭へ