2013年2月25日更新

「バイオセンサー」を開発し、琵琶湖の固有種を絶滅から守る

高田 達之
立命館大学薬学部教授
高田 達之(立命館大学薬学部教授)
農学博士。1960年富山県生まれ。1983年東北大学農学部卒業。1988年同大学大学院農学研究科博士課程後期課程修了。1998年から滋賀医科大学で助教授、准教授。2008年から現職。主な研究テーマは、多能性幹細胞の分化制御と化学物質が細胞分化に与える影響の解析。琵琶湖固有種の研究も創薬への応用を考えている。趣味は「40歳過ぎて始めたアイスホッケー」であり、社会人チームを結成。「最近練習に行けないのが悩み。スティックは転ばないための道具です」と自嘲するが、大学のアイスホッケー部OBに指導を受けるほどの本格派だ。
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琵琶湖は、バイカル湖(ロシア)、タンガニーカ湖(アフリカ)に次いで成立した世界で3番目の古代湖といわれる。湖は河川からの堆積物で埋め立てられるため、寿命は長くて数万年程度。ところが10万年以上も存続してきた湖が世界に20ほどあり、これを古代湖と呼ぶのである。

古代湖には環境に適応し、その場所にしか生息・生育・繁殖しない生物(固有種)が生息しており、琵琶湖では50種類以上といわれる。その保存と繁殖を細胞レベルで研究してきたのが高田達之であり、「コイ科のホンモロコは体長10センチほどの小魚ですが、塩焼きにすると淡泊でエグミがなく、とてもおいしいですよ」とほほえむ。

「滋賀県で薬学部は立命館大学が初めてということから、郷土に役立てられる研究を行うことにしました。琵琶湖の固有種に対して、化学物質が与える影響を精密に評価する『バイオセンサー』の開発を目的としています」

私たちの身の回りは化学物質だらけだが、短期的な安全性は証明されても、次世代を形成する生殖細胞などへの影響は分からないことばかり。古来から琵琶湖に生息する固有種の細胞を使ってそれらの影響を調べることで、固有種はもとより、人間や他の生物にとって化学物質がどう影響するかの指標になると考えられるのだ。しかし、ホンモロコも含めてそれらの固有種は、絶滅危惧種が少なくないという。

「コンクリートの護岸工事、水質汚染など人間による環境変化や、外来種の参入でしょうね。ですから、固有種の保存と繁殖も私たちの重要なテーマになってくるわけです。すでにホンモロコの細胞株を樹立しており、次の段階として生殖細胞を用いた人工増殖方法にも着手していく予定です」

今後iPS細胞のような、様々な細胞や組織に分化する幹細胞が魚類で利用可能になれば、細胞分化や発達過程における化学物質の作用もより詳細に分析でき、その応用範囲は広い。

「何万年も琵琶湖で生き抜いてきた固有種を今になって絶滅させるのは残念というほかありません。地域の貴重な資源として大切にすべきであり、そうした自然環境の保全が地域産業の繁栄にも結びつくのではないでしょうか」

AERA 2013年2月25日発売号掲載 (朝日新聞出版)

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