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常総市の伝統方言継承に関するアンケート調査報告

佐々木冠(札幌学院大学)

以下は前任校(札幌学院大学)時代に行った調査の報告書です。肩書きは当時のままにしてあります。レイアウトは基本的に変更していませんが、スマートフォンでも読めるコマンドを埋め込みました。
設置:2019/05/11
2009年12月3日アップロード
2009年12月15日:「暫定版」を外す。

3. 調査の概要

 この節では今回行った調査の概要を示します。

3.1. 調査の目的

 今回行ったアンケート調査は、前節でも述べたように常総市の伝統方言が若年層にどれだけ継承されているかを明らかにすることを目的としたものです。

 常総市の伝統方言の現代における継承についてはこれまでにも調査が行われています。1999年9月から10月にかけて宮島達夫氏が伝統方言の継承に関する調査を行っています。この調査は、1999年時点の長塚節研究会の会員、水海道第一高校同窓会の会員、水海道第一高校教職員、そして茨城大学・筑波大学・秋田大学の学生を対象に『土』に現れる常総市の伝統方言の知識を質問するものでした。調査結果を示した論考(宮島 2000)によると、調査に協力した方の年齢は、大学生が20歳前後であったほかは30歳代以上がほとんどで、調査に協力した長塚節研究会の会員、水海道第一高校同窓会の会員、水海道第一高校教職員の年齢構成は次の通りでした。長塚節研究会の会員(70代から80代:10名、50代から60代:5名、20代から40代:2名、年齢不明:1名)、水海道第一高校同窓会の会員(70代から80代:11名、50代から60代:23名、30代から40代:2名、年齢不明:4名)、水海道第一高校教職員(70代から80代:0名、50代から60代:9名、30代から40代17名、不明:4名)。宮島氏が行った調査は、これらの方々に、『土』に出てくるさまざまな表現について「1.自分でも使う、2.自分では使わないが聞いたことはある、3.聞いたことがない」のいずれかを選択してもらうものでした。各項目について「1.自分でも使う、2.自分では使わないが聞いたことはある」と答えた方の平均は、70代から80代で61.2%、50代から60代で50.3%、30代から40代で32.9%となっており、若い年代に行くほど伝統方言の表現を知っている割合が低くなっていることがわかります。世代間では、50代から60代と30代から40代の間に大きな断層があります。こうした調査結果を受け、宮島氏は「「方言の消滅が近頃になって加速しているようである」と述べています。なお、20歳前後の学生たちの場合は、30代から40代よりもさらに伝統方言を知っている割合が低くなっています。

 宮島氏が調査を行った時点から10年たった今日の伝統方言の継承状況を調べるのが、今回のアンケートの目的です。アンケート調査の項目が完全に同じではありませんので、宮島氏の調査結果と今回の調査結果を単純に比較することができませんが、この10年間に常総市で話されている言葉がこうむった変化を知る手がかりになるのではないかと考えています。

 なお、10年前に宮島氏が行った調査と今回の調査では、調査対象者の年齢にも違いがあります。宮島氏の行った調査は、20代から80代の方が調査対象になっています。今回の調査では常総市内の中学校に通う中学生にアンケートに答えてもらいましたので、調査対象者の年齢は10代前半です。常総市の伝統方言の特徴の中には古典語から受け継いだものが含まれるため、中学校と高校で古典を学んだあとでは、古典語の知識が判断を左右する可能性があります。今回の調査では調査対象を中学生にすることにより、古典語の知識の干渉を排除できたのではないかと考えています。