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常総市の伝統方言継承に関するアンケート調査報告

佐々木冠(札幌学院大学)

以下は前任校(札幌学院大学)時代に行った調査の報告書です。肩書きは当時のままにしてあります。レイアウトは基本的に変更していませんが、スマートフォンでも読めるコマンドを埋め込みました。
設置:2019/05/11
2009年12月3日アップロード
2009年12月15日:「暫定版」を外す。

3.2. アンケートの内容

 今回行ったアンケートでは、伝統方言の文法、発音、語彙についての知識と認識を調査させていただきました。

 文法に関しては、以下の項目に関して、「自分でも使う・聞いたことがある・聞いたことがない」のいずれかを選択してもらうかたちにしました。

褒(ほ)めらせる、褒(ほ)めさせる、上(あ)げらせる、上(あ)げさせる、来(き)ない、来(こ)ない、(雨が)降っぺ、(雨が)降んべ、(雨が)降るべ、(雨が)降るだろう、(雨は)降らめえ、(雨は)降るめえ、(雨は)降らないだろう

爺(ぢい)こと 起すべか(=「お爺さんを起こそうか」)
銭はみんな、おめえげ やっておくべ(土)
おとっつぁらがにゃ 分かるもんかよ、そんなこと(土)
鬼怒川さ 行くつもりになったんでがすね(土)
そんぢや爺(ぢい)が 砂糖でも嘗めろ(=「それでは、お爺さんの砂糖でもなめろ」)
此の側(そば)な 小屋(=「このそばの小屋」)

 「褒(ほ)めらせる、褒(ほ)めさせる、上(あ)げらせる、上(あ)げさせる」は、使役動詞が伝統方言と同じように形成されるかどうかを調べるための項目です。動詞語根と使役接尾辞を組み合わせて使役動詞を作る点では、常総市の伝統方言は標準語と同じです。しかし、そこで用いられる使役接尾辞は、標準語とおなじ/sase/ではなく/rase/です。/sase/と/rase/の違いは、一段動詞や変格動詞から作った使役動詞に現れます。「褒(ほ)めらせる」が使われるのであれば、常総市の伝統方言と同様に/rase/を使役接尾辞として使っていることになり、「褒(ほ)めさせる」が使われるのであれば、標準語と同様に/sase/を使っていることになります。

 「来(き)ない、来(こ)ない」はカ行変格活用が伝統方言と同様の活用をするかどうかを調べるための項目です。常総市の伝統方言では、カ行変格活用動詞の未然形が、一段活用動詞と同様に、連用形と同形です。「来(き)ない」が使われるのであれば、常総市の伝統方言と同じ活用ということになります。一方、「来(こ)ない」が使われるのであれば、標準語と同じ活用になっていることになります。

 「(雨が)降っぺ、(雨が)降んべ、(雨が)降るべ、(雨が)降るだろう」は推量の助動詞を調べるための項目です。すでに述べたように常総市の伝統方言では推量の助動詞に古典語の「べし」と同系の要素が用いられます。「(雨が)降っぺ、(雨が)降んべ、(雨が)降るべ」のいずれかが使われるようであれば、常総市の伝統方言が継承されていることになります。一方、「(雨が)降るだろう」が使われるようであれば、標準語と同じ形式に置き換えられたことになります。

 「(雨は)降らめえ、(雨は)降るめえ、(雨は)降らないだろう」は、否定推量の助動詞を調べるための項目です。常総市の伝統方言では未然形に「めえ」が接続しました。一方、古典語は「めえ」の前身である「まい」を使って否定推量を表していましたが、動詞の終止形に接続していましたので、動詞との組み合わせが常総市の伝統方言とは異なります。標準語では動詞の未然形に「ないだろう」が接続します。

 残りの六つの例文はいずれも『土』から引用したもので、格助詞の用法を調べるための項目です。「爺(ぢい)こと 起すべか」が許容されるのであれば、伝統方言と同様に直接目的語が「こと(ごど)」で表わされることになります。「銭はみんな、おめえげ やっておくべ」は間接目的語が「げ」で表わされるかを調べるための項目です。「おとっつぁらがにゃ 分かるもんかよ、そんなこと」は、斜格主語が「がに」で表わされるか確認するための項目です。「鬼怒川さ 行くつもりになったんでがすね」は方向を表わす際に「さ」が用いられるかを確認するための項目です。「そんぢや爺(ぢい)が 砂糖でも嘗めろ」は生き物の連体修飾要素を表わすのに「が」が用いられるかを確認するための項目です。「此の側(そば)な 小屋」は場所名詞の連体修飾要素が「な」で表わされるか確認するための項目です。

 発音に関しては、「座布団(ざぷとん)、僅か(わつか)、殆ど(ほどんと)」について「自分もそのように発音する・自分ではそう発音しないが、そのような発音を聞いたことがある・そのような発音は聞いたことがない」のいずれかを選択してもらうかたちにしました。「座布団(ざぷとん)」と「僅か(わつか)」は伝統方言と同様に無声化を被った形式が用いられるかどうかを確認するための項目です。「殆ど(ほどんと)」は母音間の有声化(カ行音とタ行音がそれぞれガ行音とダ行音になる現象)について調べるための項目です。

 語彙に関しては、「ちく(=嘘)、かしき(=炊事)、せえる(=入れる)、いがい〜えがい(=大きい)」の4項目に関して「自分でも使う・聞いたことがある・聞いたことがない」のいずれかを選択してもらうかたちにしました。