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常総市の伝統方言継承に関するアンケート調査報告

佐々木冠(札幌学院大学)

以下は前任校(札幌学院大学)時代に行った調査の報告書です。肩書きは当時のままにしてあります。レイアウトは基本的に変更していませんが、スマートフォンでも読めるコマンドを埋め込みました。
設置:2019/05/11
2009年12月3日アップロード
2009年12月7日改訂
2009年12月15日:「暫定版」を外す。

4.3. 伝統方言の語彙の継承

 『土』で使われている伝統方言の四つの語彙について調べました。データをグラフ化したものが図4です。「A」は「自分でも使う」、「B」は「聞いたことがある」、「C」は「聞いたことがない」に対応します。図1〜3と比べると使用(A)だけでなく、知識(A+B)においても低い割合を示していることがわかります。

図4.伝統方言の語彙の継承
 「自分でも使う」を選択した生徒の割合を示したものが表8です。「ちく」「いがい〜えがい」は10%以上の生徒が「自分でも使う」としていますが、「かしき」と「せえる」は3%未満です。このように語彙によって継承の割合にはばらつきがあります。「自分でも使う」を選択した学生の割合は平均で5.8%です。この割合は、名詞形態法と同じ割合で、今回調査した項目の中で最も低い割合になっています。

表8.伝統方言の語彙を自分でも使う割合
ちく(=嘘) 10.1%
かしき(=炊事) 2.2%
せえる(=入れる) 0.9%
いがい〜えがい(=大きい) 10.1%
平均 5.8%

 四つの語彙に関して「自分でも使う」と「聞いたことがある」を選択した生徒の割合を示したものが表9です。表8で低い割合を示した項目は、ここでも低い割合になっています。知識を持っている生徒の割合は平均で31.5%であり、これは、文法、音韻と比べても低い割合です。伝統方言の語彙が知識としても継承される度合が低いことがわかります。

表9.伝統方言の語彙を知っている割合
ちく(=嘘) 32.4%
かしき(=炊事) 16.9%
せえる(=入れる) 14.8%
いがい〜えがい(=大きい) 61.9%
平均 31.5%

 語彙に関する質問項目には3項目ほど宮島達夫氏が1999年に行った調査と同じ項目があります。「ちく」「かしき」「せえる」です。宮島氏の調査で学生が、「自分でも使う」と「自分では使わないが聞いたことはある」を選択した割合を表10に示します。

表10.1999年調査における伝統方言を知っている割合
  (語彙、宮島(2000)より)
地元 茨城
ちく(=嘘) 33% 20%
かしき(=炊事) 17% 6%
せえる(=入れる) 17% 17%

 表9のデータと比べてみましょう。全ての語彙に関して、今回の調査のほうが若干低い割合になっています。しかし、名詞形態法に比べるとこの10年間の変化はそれほど大きくはなく、ほぼ横ばい状態であるとみてよいでしょう。