研究紹介
スマートフォンに代表される移動通信システムの研究を行っている. ここでは,現在行っている研究テーマのうち,無線リソース割り当て自動最適化の研究,誤り訂正符号化の研究,自営無線網の研究について説明する.
無線リソース割り当て自動最適化の研究
端末がどの基地局・周波数帯と通信するかはユーザの体感に大きく影響するため,非常に重要なテーマである. ここでは,その重要性を一例を挙げて説明する.
上の図は500mx500mのエリアを3基地局(青色の四角)で,20ユーザ(オレンジ色の丸)を収容している場合を示している. 受信電力の大きい基地局と通信(水色の線で通信している基地局を示す)している.
右下に,BS#1と通信しているユーザ数の変動を示す. 更に,特定のユーザ(図中にTargetと記載)の受信品質を示す信号対干渉信号電力比(SIR: Signal-to-Interference Ratio),右上に伝送速度の時間変動を示す. 右の図において,時刻0が現在の値を示し,その過去の履歴も示している.
移動に伴い,基地局の切り替え(ハンドオーバ)が行われていることがわかる. また,基地局に近づくと受信品質は向上し,境界領域では劣化(SIRが0dB程度)している. 伝送速度は,受信品質のみではなく,同一基地局に接続しているユーザ数にも依存することがわかる.
ここで,BS#3のみBS#1, #2よりも1/20の送信電力に設定している. そのため,通信ユーザ数は他BSよりも少なくなっていることがわかる. 一方で,通信ユーザ数が少ないため,BS#3接続した場合には伝送速が高くなっていることもわかる.
実際には,送信電力の小さいBS#3にもっと多くのユーザが通信するようにしたほうが効率が良くなると考えらる. このように効率的に基地局(無線リソース)を用いることが重要であり,このような研究を行っている.
誤り訂正符号化の研究
移動通信では,基地局の境界など非常に受信品質が悪い場合が存在し,このような場合でもデータの誤りなく通信を行う必要がある. そのための一つの方法が誤り訂正符号化である.
最近になって新たに提案された誤り訂正符号の一つがPolar符号である. この符号については,以下に記載している.
- [電子情報通信学会員のみ視聴可能]電子情報通信学会 Webinarチュートリアルシリーズ “Polar符号入門" 2021年12月21日.
- 三木信彦,永田聡."Polar符号の移動通信システム への適用と5G標準化動向," 2017年1月19日.
Polar符号では通信路分極を用いている. 詳細は上記資料に記載しておりますので省略するが,Web上で通信路分極の様子を示すスクリプトを作成した.具体的には,2元消失通信路の消失率と分極回数を設定することで,分極回数後の通信路容量とその累積分布を図示する.
消失率,分極回数をスライダーで設定可能
消失率 0.010.99
分極回数 110
自営無線網を用いた実験
近年,ローカル5G,プライベートLTE,LoRa,Wi-Fi HaLowといった通信事業者以外が自らの施設内に設置する自営無線網が着目されている. 本研究室では,以下のような実験を行った.
ここで紹介する実験は香川大学で行った実験です.
LoRaを用いた実験
近年,モノのインターネット(IoT: Internet of Things)端末が堅調に増加している. このIoT端末を支える無線技術として,LPWA (Low Power Wide Area)が普及している. LPWAは,非常に低速であるものの低消費電力で,広範囲なエリアをカバーすることが可能なシステムである. このLPWAの一つがLoRaである. LoRaは電波免許が不要の920MHz帯を用いる自営無線システムであり,条件によるものの1km以上の範囲をエリアにすることができると言われている.
以下の文献[1]では,GPSモジュール,ラズベイリーパイ,LoRaモジュールを組み合わせることで,伝搬測定ツールを作成した. 香川県高松市で行った測定結果と伝搬モデルと比較して,良好な測定を確認した.
[1] R. Aoki, and N. Miki, “RSSI Measurement Results Employing LoRa/LoRa WAN Module,” Proc. of 2020 International Conference on Emerging Technologies for Communications (ICETC 2020), p.1, Dec. 2020.
また,レールとアクチュエータを自由に組み合わせることによって,CNC (Computer Numerical Control)工作機械,3Dプリンタなどを自由に構成可能なオープンソースハードウェアを用いて,3次元の位置にミリメートルのオーダで正確に移動させることが可能な位置指定デバイスを作成した[2].
LoRaモジュールと位置指定デバイスを用いて,920MHz帯の無線特性を評価した. 下の動画は,1m x 1m x 1m のエリアの受信電力を2cm毎に自動測定した場合の特性を示している. 論文では測定値と理論値との比較も行った.
[2] I. Makino, and N. Miki, “Open-Source Hardware-Based Three-Dimensional Positioning Device for Indoor Measurement and Positioning," in IEEE Access, vol. 11, pp. 11254-11267, 2023.
プライベートLTEを用いた実験
プライベートLTEは,現在通信事業者が提供しているLTEを,企業・自治体が独自に構築する無線通信システムである. 我々は,香川大学にプライベートLTEを設置し,スループットと遅延特性を評価した[3]. 下図は,実験装置を示している. 実験結果については論文に詳細を記載している.
[3] I. Makino, Z. Wang, J. Terai and N. Miki, “Throughput and Delay Performance Measurements in Multi-Floor Building Employing Private LTE," in IEEE Access, vol. 10, pp. 24288-24301, 2022.

ローカル5Gを用いた遠隔操縦
5Gは,高信頼・低遅延を実現可能なシステムであり,産業界への適用が期待されている. ローカル5Gは,現在通信事業者が提供している5Gを,企業・自治体が独自に構築する無線通信システムであり,スマートファクトリー・遠隔操縦など様々な分野での適用が期待されている.
我々は,下図に示すローカル5Gを用いた遠隔操縦のデモを作成した[4]. 本構成でオープンキャンパス等でデモを行った.
[4] 三木 信彦,牧野 一生,王 釗,武部 駿佑,寺井 淳司,"ローカル5Gを用いた無人搬送車の遠隔制御," 会誌「情報処理」Vol.65 No.5, May 2024.

